終身雇用制度は、民間企業によるベーシック・インカム制度だった?_Part.1
こんにちは。株式会社 Co-Lift 共同代表 定金です。
ちょっと真面目なネタが続きますが、裁量労働問題が話題なこともあり、ここで改めて日本企業の終身雇用制度ってのはつまりなんだったのか?についてちょっと考えてみることにします。
というもの終身雇用制度といえば、古い日本企業の象徴であり、日本企業の停滞の一因として扱われがちですが、
よく考えてみるとこれからの社会保障を考える上で、重要な示唆を含んでいる気がするんですよね。
富の再分配という視点での終身雇用制度
まずは終身雇用を考えるにあたり、賃金(所得)という観点で終身雇用を構造化するところから始めてみたいと思います。
まず人材の質を横軸に取ります。
次に縦軸に賃金を取ります。
そして、この縦横軸に従って賃金の変化を単純化してプロットします。
「人材の質に比例して賃金が上がっていく」と考えるのが自然です。
ここに終身雇用を前提とした企業の実際の賃金体系を単純化してプロットしてみます。
初めの線よりなだらかな上昇になるのではないかと思います。
これは多くの人が現実にもなんとなく実感しているのではないでしょうか?笑
では、次にこの現象を解釈してみるとどうでしょうか?
この現象はつまり、オレンジの面積分の賃金を青の面積分の賃金として移転(補填)していると捉えることが出来る気がします。
格差問題の是正を語るとき、ベーシック・インカムという富の再分配の手法が、最近よく話題にあがります。
これは格差是正においてすべての国民に国からの一定額の所得の保障をする政策を指すものですが、結局は富の再分配で上の図の構造と同じと言えます。
違いは税金で徴収した後に国(官)が分配するか、
企業内(民)で各々給与という形で再分配をしているかだけです。
とふると、終身雇用を前提にしていたこれまでの日本社会って実はベーシック・インカムという公的な社会保障の代わりに、民間企業が各企業内の給与移転(補填)という形でベーシック・インカム的なことを実現していたのではないか?
そんな風に考えることが可能な気がするんです。
製造業の時代
では、次になぜこれまで日本社会はより高付加価値な人とそうでない人の間で所得格差をあまり付けずに、一見非合理的にも見える企業内での給与内再分配を行っていたのでしょうか?
おそらくそれは、高度経済長期からインターネット登場以前までは、
終身雇用制度は経済合理性のある優れたシステムだったからだと思います。
では、
なぜそうだったか、
そしてなぜそうではなくなっているのか?
について考えてみます。
振り返ってみると高度経済成長期とはつまり、製造業の時代とも言えました。
ではで製造業の時代に重要だったことは何だったのか?
それもまた構造化してみることにします。
まず横軸に「品質のばらつき」を取ります。
そして、縦軸に「生産能力」を取ります。
製造業の時代に企業が勝ち残るには、右上になることが大事でした。
つまり、安定した品質のものを大量に供給できることです。
右上ではないところにいる企業は同じものを作っても、
右上の企業には勝てないのが製造業です。
では、右上にいくためには何が必要になるのでしょう?
まず上方向へ行くのに大事なことからです。
それは大量生産をするための設備投資(工場や機械)です。
これは製造コストの低減にも作用するためとても重要です。
次に、右方向に行くには何が大事でしょうか。
それは工場で安定したパフォーマンスを出す「均質的な人材の育成」になります。
作る工場ごとに品質が違ったら大変なことなのでこれも極めて重要な企業の課題でした。
製造業の時代=皆がそれなりであれば良い時代
ここで「均質的な人材の育成」の方に着目して深掘りしてみたいと思います。
まず「均質的な人材」って何なのでしょう?
それは「標準化された業務(特別難し過ぎる作業ではない)を間違えずに、再現性高く実行できる人」と言い換えることが出来る気がします。(計算ドリルを早く精確にやれる人材という感じですかね)
これは何を意味するのか考える上で、
まずは人材の質とその分布人数を構造化して考えてみます。
図で表すと恐らく上記ののような分布(正規分布)になると想像します。
人材を「均質化する」ということをこのグラフに順って考えると、上記のような方向に人材を仕向ける=トレーニングすることが必要だったという解釈ができます。
つまり、それは教育が完了すると上記のような分布となることを目指すことになります。(グラフが歪んでてすいません)
それはパフォーマンスの低い人をなんとか平均的な水準にし、逆に飛び抜けて優秀であることは余り意味がないため平均的であることを志向してもらうことです。
「均質化」のプロセスが「長期雇用」の合理性を生む
先までに製造業の時代においては均質化が大事だったという話をしてきました。
ではそれと長期雇用がどう関連するのでしょう?
これは均質化に必要な要素を考えることで明らかになりそうです。
人材の均質化に必要なのはズバリ「業務への熟練」と「教育」だと思うんです。
そして、当たり前ですが「熟練」にも「教育」にもとても時間が掛かります。
コロコロ人が入れ替わるようでは熟練には程遠くなりますし、色んな技術が全て機械化、仕組み化できるわけではないため教育も必須です。
したがって製造業の時代が出来るだけの同質の人を極力長く雇用することを企業に要請したのだと考えるのはどうでしょう。
そしてそれは企業にとっても経済合理性のあることだったのです。
まとめます。
製造業の時代においては
・人材の均質化が大事だったこと
・均質化には長期の時間を要したこと
によって、結果として長期雇用が企業にとっての合理的な選択肢となったのではないかと思います。
すると当然の流れとして、企業としてはなるべく自社で長期で働いてもらう制度設計を整えようとするのではないでしょうか?
それが定期昇給、年功序列、退職金制度などの終身雇用とセットになった日本企業の代表的な制度設計なのだと思います。
こうした背景を元に、日本社会の中で富の再分配機能を果たす終身雇用という仕組みが誕生し、完成、次第に浸透・定着していったと僕は考えました。
それでは、次回はなぜこうした仕組みがこの20年で通用しなくなり、制度疲労が起こしているのかを考えてみたいと思います!