さらば、双子のなる樹
夫の腕と腰が、限界を迎えつつある。抱っこした長女を下ろす腕が震えている気がする。
我が家の双子姉妹(6歳)は、どちらかというと体格のよいほうだ。「双子ちゃんなのに大きいね」とよく声をかけられる。双子の場合、出生時の体重が少ないことも多いからだろうか。
2500グラムくらいで生まれたうちの娘たちは、現在ほぼ10倍に成長している。小学校に入学したての1年生としては大きめである。
わたしは「あーんなにちいちゃかったのに、大きくなったねえ」と感慨にひたるばかりだけれど、物理的に苦労しているのが夫だ。
娘たちは幼い頃からEテレの番組『おとうさんといっしょ』が大好き。当然、番組内のコーナー「父山のぼり」と同じこともやりたがった。山に見立てたお父さんの体を、子どもががしがしと登っていく。お父さんと子ども、双方のバランス感覚が求められる遊びだ。
この遊びを娘たちはずっとやっていた。「とうさんのぼり、やろー!!」と言っては夫を腹ばいにさせ、そこを登っていく。それだけでは飽き足らず、直立した夫の体によじ登り、ぶら下がることも。
二人の女児をわきにぶら下げた夫の様子は、まるで大きな大きな実をつけた樹のよう。わたしは呑気に「わー、双子のなる樹やねえ」と冷やかし続けてきた。けれど、最近の夫は「うおぉ、重い」と呟くことが増えた。
「そりゃ重いよね。25キロと23キロだよ?」
わたしがいちおう気遣ってそう言うと、夫は妙に毅然としてこちらを向く。
「だいじょうぶ、まだいける!」
なぜそこで踏ん張る。もう中年期に達しているんだから、腰をどうにかしてしまってからでは遅い。そういえば、少し前にぎっくり腰らしき症状で寝込んだこともあったじゃないか。
わたしは娘たちにこっそり伝えた。
「二人とも大きくなったからさ、あんまり登ったりぶら下がったりするとパパの腰が痛くなっちゃうよ。あと同時に抱っことかもさ、大変やん?」
うーん、と考え込んだあと、娘たちが二人で出した結論はこちら。
「わかった! あと5回で終わりね!」
……5回か、まあまああるな。そう思ったものの、わりとナイスな案かもしれない。きっかり5回では終わらないだろうから、娘たちは思う存分「父山のぼりごっこ」にお別れができるに違いない。
思えば、わたしも長女を抱っこ紐で抱え、その上からおんぶ紐をかけて次女をおぶっていた時期があった。「秘技・同時おんぶ抱っこ!」とか面白おかしく言っていたが、なかなかに重かった。娘たちの体重が14キロを超えたのを機に秘技(?)を封印したときは、解放感とともに寂しさが押し寄せてきた。必死で無茶なことをやっていた日々が、たまらなく愛おしく思えた。
あの独特の感傷を夫が味わう日も近い。腕と腰への負担から解放されて寂しげな彼を見かけたら「今日は焼酎を1杯、多めに飲んでもいいよ」と言ってあげよう。