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エコビレッジと地域・都市・世界との関わり方

こんにちは。
今回は、特に地方部に位置するエコビレッジと周辺の地域社会との関係を中心に、その先につながる都市や世界との関わりの様子についても紹介します。


エコビレッジと地域社会との関係

日本に広がるエコビレッジの特徴として、「地域に根差したコミュニティ形成と地域活性化への貢献」が挙げられ、地域社会との良好な関係性を築くことが重要な要素であるという話を以前のnoteにも書きました。

今回は、その要素をもう少し深掘りしてみたいと思います。

エコビレッジに向いているのはどんな地域?

この記事を読んでくださっている方の中には、エコビレッジのようなコミュニティをこれから立ち上げたいと思っている方もいるかもしれません。

どんな地域で始めるのが良いのか?は気になるポイントのひとつでしょう。

世界中のエコビレッジを見渡せば、都市から田舎まで様々な場所に存在していますし、それぞれの場所でそれぞれに合ったスタイルのコミュニティが発展しています。

ただ、日本で、かつ比較的地方で始めるという前提で考えたときに重要なのは、当たり前かもしれませんが「移住者に寛容な雰囲気がある」こと。

もともと地縁がある場合を別として、他の地域から移住して始めることが多いエコビレッジ。
移住者や新しいものを受け入れる土壌がある地域であることは、プロジェクトが成功する上で重要だと言えるでしょう。

もう少し具体的な要素を以下に挙げてみます。

①小規模農家が多い

出典:中井観光農園公式サイト

たとえば、余市エコビレッジがある北海道の余市町は、りんごをはじめとした果樹の生産が盛んな地域です。
果樹栽培は大規模な機械化に向かないため、穀倉地帯などと比べると経営規模も小さく、個人事業の単位で成り立っているという特徴があります。

また、北海道には珍しく丘陵地帯である余市町は、山あり谷ありの景観の影響で、他の農家の様子があまり見えずそれぞれが独立しています。

そのせいか、余市町は独立独歩な雰囲気をもともと持っていて、小規模多品目の有機農家も多い場所だそう。

エコビレッジのような「変わり種」も受け入れられやすかったのかもしれません。

一方、大規模農家が多い地域では、農協や役場との関係性も強く、新たなプレーヤーとして地域に入っていくのには色々と難しさもありそうです。

②新規就農者が多い
さらに、余市エコビレッジが始まった2010年頃は、余市町でワイン生産が盛り上がり始め、新規就農者が増加しているタイミングでした。

余市のシンボル「シリパ岬」をバックに、収穫を待つワインぶどう畑

ゆくゆくは、後述する通りもともとその地域に住んでいる住民との関係を築いていくことが大事ですが、
まずは、比較的若く、近い価値観を持っている新規就農者同士で親しくなることは、初期の運営の安定を図るうえで重要だと言えます。

立ち上げ期に受ける抵抗や反発

ただ、いくら新しいものを受け入れる素地のある地域であっても、縁もゆかりもない場所でエコビレッジを始める場合、地域の人からは抵抗感を持たれることがほとんどです。

特に、長くそこに住んでいる高齢の住民からしたら、よそから突然若者がやってきて何やら畑をやりだした、家を建てだしたとなれば、いったい何が始まるのか、怪しい宗教団体ではないのか、と警戒するのも無理はありません。

さらに、従来の慣行農法で生計を立てる近隣農家からすれば、農薬を使わない有機農業を実践するエコビレッジのスタイルもまた、抵抗感を感じる要素でもあるようです。

地道に泥臭く関係性を構築する

そんな抵抗感を払拭し、地域の人と良い関係性を築いていくためには、丁寧なコミュニケーションを地道に重ねていくしかありません。

そこで大事なのが、前回の記事でも書いた通り、ビジョンは強く持ちつつも、多様性も受け入れるという姿勢です。

たとえば、余市エコビレッジの初期メンバーの中には、農薬の使用に対して否定的な人もいて、慣行農法を営む近隣農家と価値観が異なる状況でした。

ただ、環境のために農薬を使いたくないという自分たちのビジョンは持ちつつも、それを押し付けることはなく、農家として生計を立てるためには農薬も必要という相手の事情や価値観もリスペクトする。

そして、違いに目を向けるのではなく、地域の草刈りや掃除など共通の課題を一緒に解決しようとすることで、対立ではなく協力関係を築くように努力してきたのです。

こうして、日々の挨拶はもちろん、小さな頼みごと・頼まれごとを重ねて地域の発展に積極的に関わる姿勢を見せることで、地道に長い時間をかけて地域の人からの理解と信頼を獲得していくことができるのです。

都市とつながり関係人口を増やす

そうして、徐々に地域社会に受け入れられるようになったエコビレッジは、地域のプレイヤーの1人として存在感を高めていきます。

農業委員会など地元の組織と協働するようになったり、自治体との事業連携が生まれたり、エコビレッジの活動を支える基盤が整って、運営の安定につながっていきます。

すると、以前の記事で特徴の4つ目に書いた通り、エコビレッジが取り組む教育・ツーリズム活動が広がることで関係人口が増えていきます。

すなわち、主に都市に住みながらも、エコビレッジのある地域を継続的に訪れたり、さらにはその地域をふるさと納税などを通じて応援したりする「ファン」のような存在が広がっていくのです。

この都市に住む関係人口の存在は、エコビレッジの発展においてもとても重要です。

前掲の記事でも書いた通り、エコビレッジのある地域だけではなく、都市部をはじめ離れた場所から活動に関わるゲストメンバーなど、複数のメンバーシップが存在する事例が増えています。

さらに、通い型のエコビレッジで、都市部から比較的アクセスが良い場合、関係人口よりもさらに積極的に、活動の担い手として都市在住者が関わる場合もあります。

たとえば、京都の亀岡市にある「鹿谷ワンダービレッジ」では、京都市内や大阪など在住の人に敷地の一部をシェア畑として貸し出しているほか、週末にイベントを開くと京都大阪をはじめ色々な都市部から参加者がやってきます。

鹿谷ワンダービレッジのシェア畑

余市エコビレッジの場合も、会員が敷地内で畑・野草摘み・ワインづくりなどの農的営みを行うクラブ活動は、余市町近郊に住む人だけでなく、1時間程度離れた札幌市内から参加する人も多いです。

このように、関わり方にグラデーションを持たせつつ、都市人口も含め多様な属性の人を巻き込むことで、エコビレッジの活動は多角的になり運営も安定していくのです。

地域と世界をつなぐエコビレッジ

さらに、エコビレッジは都市だけでなく世界ともつながっています。

私が訪れたヨーロッパのエコビレッジも、大規模な事例は(夏の人手が必要な時期は特に)世界中からボランティアを受け入れているところも多く、とてもインターナショナルな環境でした。

デンマークのGrobundに集まる世界各地からのボランティア

日本の事例だと、余市エコビレッジは特に国際性が高く、海外からのボランティアや、海外大学の環境教育プログラム・留学生を頻繁に受け入れており、常に英語が飛び交う環境です。

上述の通り地域住民との関係性を大事にしている余市エコビレッジでは、外国人ボランティアが近隣農家さんのお手伝いにいくことも多く、地域の人にとっても貴重な国際交流の機会となっています。

世界各国からのボランティアが自国の料理をふるまってくれるのも余市エコビレッジでの楽しみのひとつ

このように、環境やサステナビリティなどの分野に関心がある人にとってエコビレッジが日本を訪れる窓口となることもありますが、そうでない外国人にとっても、エコビレッジがマッチする可能性があります。

近年インバウンドの拡大の中で、日本の「里山」の風景や「田舎」の暮らしは外国人観光客に注目され始めており、
東京や京都などの有名な観光地だけでなく、田舎へと訪れる外国人も増えています。
実際に田舎シェアハウスなどでも、外国人の宿泊客が増えているそうです。

地域に根差した「暮らし」の体験や学びを売っている日本のエコビレッジも、世界から注目されるポテンシャルを持っていると言えるでしょう。

おわりに

今回は、卒論の主要な研究対象である余市エコビレッジの登場回数が多くなってしまいましたが、他の事例においても当てはまる内容になっています。

ここまで4本にわたり、卒論のダイジェストをもとに+αを加筆した記事をお届けしてきましたが、いかがでしたか。

まだまだ掘り下げたいテーマがたくさんあるので、次回は、エコビレッジでの子育てにフォーカスしたコラムを書きたいと思います。

最後まで読んでくださりありがとうございました!感想・コメントお待ちしています!





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