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エコビレッジを持続的に運営するためにはどんな組織が求められるのか?(後編)

こんにちは。
前回は、エコビレッジの持続的な運営のポイントとなる、ビジョンの追求と多様性の許容の両立の難しさについて論じてきました。

今回は、その両立に成功している事例として、インドのオーロヴィルを取り上げながら、さらにポイントを探ってみたいと思います。


オーロヴィルとは

エコビレッジの持続的な運営のあり方を考える上で、ひとつの解となりうるのが、世界的にも有名なインドの「オーロヴィル」です。

世界最大のエコビレッジとも呼ばれ、直径約5㎞圏内の敷地に、世界約60ヶ国から集まった3000人以上の住民が暮らしています。

インド政府公認の環境実験都市でもあり、UNESCOなどの国際機関による有識者議会も運営に関わっていて、ユニバーサルタウンなどと呼ばれることもあります。

荒れた砂漠地を、数十年かけて緑豊かな森へと育ててきた

オーロヴィルには、カリスマ的リーダーやトップダウン的な組織が存在するわけではありません。
自律分散的な運営体制でありながら、これだけの規模のエコビレッジを実現させているのです。

ビジョンの共有

オーロヴィルが目指すものは、Human Unity(人類の統合)です。
国籍・宗教・年齢などのあらゆる属性を超えて、多様な人々が調和の中に生きることを目指しています。

オーロヴィルは、インド独立運動の指導者として活躍したSri Aurobindoの遺志を引き継いだMirra Alfassa(通称:マザー)の呼びかけによって1968年に始まりました。

オーロヴィルの原点となる、マザーが語った理想の社会像の構想「A Dream」や、発足時に発表されたオーロヴィルの指針を示す「オーロヴィル憲章」などは、今でも核となる文書として重視されています。

4. Auroville will be a site of material and spiritual researches for a living embodiment of an actual human unity.

The Auroville Charter(オーロヴィル憲章)

さらに、マザーが説いた平和を体現する空間として、Matrimandirという金色に輝くドームが敷地の中心に存在します。

建設に30年、莫大な資金を投入して完成したドーム

このシンボリックな建物とそれを囲むガーデンは、オーロヴィルの魂であり、住民たちの精神的支柱であるとして、とても大切にされています。

オーロヴィルに暮らす住民たちが、日頃からどれだけHuman Unityを意識して生活しているかは不明ですが、マザーの説いた哲学にもとづく”精神性”のようなものを、多かれ少なかれ心の中に共有していることは確かなようです。

余市エコビレッジでは強いリーダーシップがビジョンの継続的な追求を可能にしていましたが、リーダー不在のオーロヴィルにおいては、創始者マザーの存在や、その象徴としてのMatrimandirがビジョンへの意識や体現に何かしらの作用をもたらしていると言えそうです。

多様性の実現

これはあえて触れるまでもないかもしれませんが、上述したようにオーロヴィルのビジョンには、属性を超えた多様な人類の融合が据えられています。

また、オーロヴィルの正式な住民であるオーロヴィリアンになるには、最低1~2年程度オーロヴィルに住み、住民となるに足る心構えを持っていると認められることが必要です。

簡単には住民になれないことから、一見ビジョンへの共感を条件とした排他性があるかのようにも見えますが、
ニューカマーと呼ばれるオーロヴィリアンになるための準備をしている人々やボランティアなど、多様な関わり方の人たちも合わせると1万人近くの人がオーロヴィル内で生活していると言われています。

住民にコミュニティランチを提供するソーラーキッチン

ボランティアであっても、たとえばオーロヴィリアンに無償ランチを提供しているキッチンで、皿洗いを手伝うと無料でランチが食べられるなど、コミュニティの一員として関わる手段が用意されているようです。

正式な住民以外にも、オーロヴィルへの関わり方はいろいろな選択肢が存在し、実際に営まれている暮らしのあり方も多様であると言えるでしょう。

自律分散的な自治の仕組み

オーロヴィルには行政機関も首長もおらず、公共的なサービスは「Group」と呼ばれる住民自身の組織によって管理運営されています。

中でも共同体全体に関わるような重要なGroup(インド政府との協議を行う運営委員会・資金管理・都市開発など)の構成員は、市民投票で選ばれます。

出典: 川崎光克『共同体研究記vol.01』

意思決定は民主主義的な話し合いによって行われ、3000人の住民全員が参加できる住民会議も開かれています。

こうした政治的な体制だけではなく、経済についてもコミュニティ内で循環するような独自の仕組みが構築されています。(長くなるので詳細は割愛します)

強い権力を持ったリーダーがいなくとも、独自の自律分散的なシステムのもとで、ビジョンの追求と多様性の許容が両立されているのです。

ビジョンと多様性を両立させるには

前回成功例として触れた北海道の余市エコビレッジと、今回取り上げたオーロヴィルの事例から見えてきたのは、

「リーダー・正式住民など、運営を担う一部のコアメンバー間ではビジョンの強い追求が共有されている一方、
その外部には、多様なメンバーシップや関わり方が用意されていて、様々なコミットメントの人々を少しずつ巻き込みながら活動が成り立っている」

という組織のあり方が、持続的な運営につながるのではないか、という考察です。

運営に関わるコアメンバーが増えるほど、同程度の高い熱量でビジョンを追求していくのは難しくなっていきますが、オーロヴィルでは、

  • オーロヴィル憲章などでビジョンを明確に言語化する

  • Matrimandirというビジョンを表現したシンボルを共有する

  • 正式な住民になるための準備期間や判断の機会を設ける

という3点を通してそのハードルを越えているのではないかと考えられます。

おわりに

「エコビレッジを持続的に運営するためにはどんな組織が求められるのか?」
これは、これまでもこれからも向き合い続ける問いであり、唯一の正解を見つけられているわけでは全くありません。
今回は、ひとつの通過点として、現時点で私が持てる材料をもとにした考察をご紹介しました。

卒論では論じきれなかった限界を少し超えて、議論を一歩前に進めることができたのではないかと思います。(提出からちょうど1年越しになってしまいましたが…)

ただ、オーロヴィルにはほんの1日しか滞在できなかったため、その莫大な全容を理解することは到底できていません。今後ももっと探求を重ねて、議論をアップデートしていきたいと考えています。

※今回の記事執筆にあたり、川崎光克さんの『共同体研究記vol.01』のオーロヴィル特集を参考にさせていただきました。記して感謝します。

次回は、このビジョン×多様性の枠組みを地域との関係に当てはめたらどうなるか?について書いていきます。

長くなりましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました!

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