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【小説】『総理の夫』原田マハ

取っつきにくい政治の話を軽やかに描く。
『本日はお日柄もよく』に続き、原田マハさんを読むのは2冊目だが、
どちらも読後感がよい。
ちなみに、『本日はお日柄もよく』に登場したスピーチライター久遠久美が『総理の夫』に名前だけ登場している。少しテンションが上がる。

この小説は、東大理学部卒、大財閥の息子で、鳥類研究をしている主人公「相馬日和」の日記形式で進んでいく。本文の中に何度も「この小説を読んでいるあなたは」と出てくることも、読みやすさをつくっているのだろう。「相馬日和」は、総理の夫となる。

妻「相馬凛子」は東大法学部卒→ハーバード大へ留学するというキャリアをもつ上に、父は小説家、母は東大大学院教授(政治学)。信念が強く切れ味鋭い。そして、美人。まさにパーフェクトウーマンだ。女性初の内閣総理大臣になる。

そして、気持ちの良い悪役「原久郎」、あだ名はハラグロ。本当に、腹黒い(笑)だけども、ブランデーと見せかけて、ウーロン茶をカランと言わせて飲んでいるのがチャーミング。いや、そういうところも含めて腹黒い(笑)

ほかにも魅力的すぎるサブキャラが多数。個人的に好きなのは、政治ジャーナリストのコロンボ。いや、ツッコミどころは多すぎるけれども、好きだなあ。後半の母なんかも最高に気持ちよい。

「おめでたい人」「天然」な夫、相馬日和と、「パーフェクトウーマン」な妻、凛子の物語がよかったなあ。ここなんか関係性がもろに出てて、声に出して笑っちゃった。


「いままでのあなたは、私が行きたいところがあれば、一緒に行ってくれたでしょう。私がやりたいことがあれば文句ひとつ言わずに同意してくれたし、後押しもしてくれた。そうでしょう?」
まったくそのとおりだった。それって、すごく優しい夫のように聞こえるが、よくよく考えてみると、まったく自我のない人っていうか、妻ベッタリっていうか、ヨメコンプレックスみたいに聞こえなくもない。ゆえに私は、いっそうがっくりしてしまった。
「そうだよ。まるで君のいいなりだった。」
「いいなり?」凛子の声のトーンが一オクターブ上がった。それは、結婚してからこのかた一度も聞いたことがない、攻撃的な声だった。
「じゃあ何?あなたは、私のために、いやなことがあっても我慢して付き従ってたってことなの?私のいいなりになって、それで幸せだったの?」
「いや、いやいやいやいや、いや。そうじゃなくて」と私は大急ぎで全面否定に出た。揚げ足なんぞは野党時代に百本も取ったであろう凛子に、不用意なことを言ってはならぬ。
「君の意向はいつだって僕の意向でもあったわけだから、それは、はい、いいなりってわけじゃありません。前言撤回します。」
「ならばけっこうです。」


「必要とされていないんじゃないか」って不安が日和にはついて回るわけなんだけども、物語後半の凛子にグッときたなあ。この二人、良いコンビだ。
あと、この夫婦、「信念の人」という点で似てる。凛子はもちろんなんだけれども、日和の物語の随所にみられるセリフからも「信念の人」だと思わされる。日和、かっこいいよ。

あとがきは、安部昭恵さん。読んでいて一番ハラハラしたのはここかも。ストーリー的にハラグロ側よ?よくお願いしたな…。

原田マハさんの物語は、読みやすくて時間があっと言う間に立ってしまう。おすすめです。



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