争いがもたらす悲しい結末|「世界の果てのこどもたち」中脇初枝 |読書記録
最後のひとりまで戦って、玉砕するはずじゃなかったの?何のためにみんな死んだの?何でおかあちゃまもおとうちゃまも死んだのに、まだ生きている人たちがいるの?茉莉の問いにこたえるものはなかった。
初めて中脇初枝さんの本を読んだ。これはドキュメンタリー?と思うほどリアリティのあるストーリーに引き込まれ、450ページほどを一気に読み終えてしまった。巻末の参考文献を見るとずらっと並んだ25冊と最後に「その他多数の書籍を参考にしました」と書いてあり、驚いた。「満州事変」「満州開拓」「ソ連侵攻」「文化大革命」という出来事に翻弄されてきた人々について、日本・朝鮮半島・中国の立場をそれぞれの視点で、とんでもない量の取材が行われたことは、ひしひしと感じるところだ。
ここでまず、小説というものの素晴らしさを実感した。小説というのは、著者が膨大な資料からまとめ上げた知識をかけあわせて、そこに面白さやストーリー、人の心を打つ言葉を紡いでいく。だから、私たちはその物語に引き込まれるとともに、そこに描かれる知識にも没頭するのだ。実用書や難しい文献何十冊分にも値する価値があるのだと改めて気づかされた。
「心に太陽を持て、あらしが吹こうが雪が降ろうが」先生が自分のために言っているとその瞬間に、茉莉は思った。「くちびるに歌を持て、日々の苦労によし心配が絶えなくても、くちびるに歌を持て」
「心に」「くちびるに」持つ太陽や歌。私はここに、戦争について批判的なことを表現することができなかったその時代の不自由さをじわりと感じた。きっと、もう戦争は嫌だと思っていても口に出せない、こうやって心の中で強く思うことでこの悲惨な時代を生き抜いてきたのだと思うと、改めて自分は幸せな時代に生まれたのだとありがたい気持ちになった。
幸せになるつもりだった。みんな。戦争をして、幸せになるつもりでいた。〜だれも、決してだれかに不幸せになってほしくはなかったのに。それなのに、だれかの幸せのためにたくさんの人が不幸せになった。
そう、きっとだれもが幸せになれると信じていたんだ。だから、幸せを求めて異国の人たちの土地や食べ物を平気で奪ったりできたんだ。でもそれは当時の政府によって植えつけられた思い込みだった。戦争が終わって、それは間違っていたと気づかされ、戦後もずっとその過ちに人々は苦しめられてきたのだ。今、私たちは幸いにもインターネットによって様々な情報を得て、多様な視点や考え方を知ることができる。だから、何が正しいのか、間違っているのか、自分で考えて判断できる人でありたいと思う。少し考えれば、戦争は憎しみしか生まず、そしてその憎しみは鎖のように連鎖していくのだということは誰にでもわかることだ。二度と起こしてはいけないのだ。
戦争が普通に生きていきたい人々の人生に何をもたらすのか、そして太平洋戦争とは何だったのか、色んな立場から考えさせる物語だった。
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