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コーヒーカップのこだわり

大学時代にいちばん仲の良かった友人と、今でも時々お茶をする喫茶店がある。
向かい合わせの席が3つとカウンター席しかない、こぢんまりとしているお店。
照明を落とした店内。

中に入ると、珈琲の香りでいっぱい。
珈琲とチーズケーキと珈琲ゼリーしかメニューがない、隠れ家的な小さなお店だ。

店の奥側のカウンター席に並んで座り、ゆっくり2人でお互いの心の奥を語る店。

彼女とこうしてこの店に通い出して、かれこれ30年くらい。

このお店は、ひとりひとりに出せれるコーヒーカップが違う。
初めて来た頃と変わらないカップたち。
年季の入った、上品な美しいカップばかりだ。

珈琲の入ったカップは、ソーサーに乗せられて、ナッツと一緒に目の前に置かれる。
持ち上げるときに、少し緊張する。
置くときは、さらにそーっとを意識する。

目の前で丁寧に淹れてもらった珈琲は、ひと口飲むだけでゆったりとした気持ちになれる。



あぁ、ラグジュアリー。


*****


これこれ、これを我が家でも再現したい!

でも、我が家のコーヒーカップはこの上品な趣きは一切ない。

だって、ミスドの景品だから。





ミスタードーナツのキャラクターの絵がドーン!
男の子はジャック、女の子はジルという名前らしい。


毎朝、夫とお揃いのこのカップに珈琲を淹れる。
20年くらい、大切に使い続けてきた。

私が結婚した頃は、お祝いといえば『ペアのコーヒーカップ』が定番だった。
友人からいただいたペアのカップは、それだけでお店ができるくらいたくさんある。
もちろん、ブランド品っぽいものばかりだ。

ペアではないが、デザインが気に入って、私が雑貨屋さんで衝動買いしたカップや、ジョンレノンが好きな夫が、ジョンレノンミュージアムで買ってきたお気に入りのカップもある。

どこかの旅先で自分が作った陶器のカップや、大好きな波佐見焼のものもある。


でも、それらはただの飾りとして、何年間も日の目を見ることなく食器棚の定位置に居るだけ。
私たちはずっと、ミスドのコーヒーカップを愛用してきた。

夫はミスドのカップが一番使いやすくて好きだ、と言う。
彼に言わせると、カップの縁がくちびるに当たる感覚が一番いい感じで、持ち手の指の収まりがどれよりもしっくりくるらしい。

柄やデザインは二の次。
毎日使うなら使いやすさが1番大切だ、と彼は言う。

おっしゃる通り。

私もこのカップが好きだし、使いやすさは抜群だと思っていた。
それに、割れてもいいや!って、雑に扱える気楽さもよかった。
かなり強い造りなのか、ガシャガシャ洗ってもカツカツ当てても割れないし、ヒビひとつ入らない。

洗っているときに手が滑って、お皿の上に何度も落としたが、割れたのはお皿のほう。

ミスドは割れない。


若い頃なら、これも「可愛い」で済んだ。
でも、アラカン夫とアラフィフ妻になり、さすがにやっぱり、もう少し落ち着いたカップを使いたいと思うようになった。

しかも、たまたま観ていた断捨離番組で、私と同世代のお宅をあれこれ整理しようと、張り切っていたお片付けのスペシャリストが

「おまけでもらったキャラクターのカップは、まず真っ先に手放して!もう、いい歳をしてこれを使うのは惨めでしょう!せっかくあるんだから、飾っているだけだった素敵なカップを普段から使いましょうよ。」

と言っていたことに、私の気持ちがグラグラ揺れたのだ。

やばい!うちは、「真っ先に捨てましょう」のやつを20年も愛用しちゃってる!


そこで今年の春頃に購入したのが、このカップ。

ステンレス製耐熱マグカップ。たぶんヒョウ柄とシマウマ柄。私のはヒョウの方です。


アニマル柄は売り切れですが、アフタヌーンティーの違うデザインのステンレス製耐熱マグカップは売っています。


たまたま出会い、デザインと色合いに惹かれて購入した。

冷めにくいし、取っ手も持ちやすい。
口の当たる感じも、やや厚みはあるが悪くない。


これを見た夫は、最初はしぶい顔をした。
「なんでアニマルなん?ミスドと絵のレベルが一緒やろ。」と。

「え?かなり大人っぽいでしょ。色とか、雰囲気とか。」

と、わかってないなぁの顔をして私が応えたら、なんでもいいわ、と夫も納得。



季節は夏。
ホットばかりでなく、アイスコーヒーも飲む機会が多い。

アイスコーヒーに氷を入れない派の私たちには、冷たさをキープできるこのカップが思った以上に重宝したのだ。

夫は、

「なかなかいい買い物をしたな。」
 
と、かなり気に入って使ってくれるようになった。


だが最近寒くなり、やっぱり陶器のカップがいいなぁと夫が言い出した。

「カップを両手で掴んだとき、陶器ならあったかくてホッとするから、やっぱりミスドに戻すかな。」と。

「いやいや、冷めにくいから、耐熱マグカップの方がいいって。」

と、私は反論した。

息子が、どうでもよさそうな顔で、親の会話を聞いている。

「ねぇ、あんた、エンジニアになるんなら、触ってあったかい耐熱マグカップを作ってよ。」

と私が言うと、息子は軽くスルーして鼻で笑った。

そうね、どうでもいいよね。

ずっとあったかい珈琲か、すぐ冷める珈琲か。
触ったときのひんやりか、触ったときのほっこりか。

難問だけど、とりあえず今は毎日、耐熱マグカップのほうを使っている。
ミスドのカップは、しばらく食器棚の奥で休んでいてもらおう。

もしもミスドのペアカップをもう使わなくなったとしても、絶対に手放しはしない。
365日×20年の重さは、断捨離ブームなんかに負けないのだ。





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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