あんドーナツ
どうしても今日は、あんドーナツが食べたい。
あんドーナツだけは、こだわりがある。決まった店。
あの店のあんドーナツじゃなきゃだめ。
仕事場へ向かう途中、ずっと考えながら運転してた。
「あんドーナツ買いに寄ってから行こうかな」
「でもな、やっぱ我慢しようかな」
そんな葛藤しながら交差点の信号待ち。
お気に入りのドラマが終わったので、ロスを埋めるべく、サントラをダウンロードして車内で流しながらの通勤。
「あーやっぱ、寄ればよかったかな」「食べたいなー」
葛藤しながら、「今日はあんドーナツのお店には寄らない」選択をして、あんドーナツのお店を通過した直後の後悔。もう、あんドーナツの口になってしまってる。
たかがあんドーナツ、されどあんドーナツ
仕事場に到着目前、時計を確認。「よし、いける」そう考えて、車をUターン。
あんドーナツのお店まで戻る事を決意。ただ、不安材料が一つ。「今日、売ってなかったらどうしよう」
焼き立てパンが売ってるお店あるある。目当てのパンがまだ売り場にない。または、もう完売してしまってる。
あーどうしよう。ドキドキの交差点。
お店に着くなり、あんドーナツの棚へ一目散。
・・・あれ?(←まさかねって、受け入れられない心の声)
・・・え?(←2度見して確認しても見当たらない時の心の声)
・・・ない!!うそやろ!!おい!!(←もはや心の中では泣いてる)
そう、今日はあんドーナツがなかったのだ。
悔しいから、そんなに食べたくもないのにメロンパンとカルツォーネをトレーに乗せて買うことにした。
謎な組み合わせ。そのくらいヤケになっていた。
あんドーナツの人
レジで会計をしてもらいながら思う。「お店の人に聞いてみよう」
もしかしたら、もうすぐ裏から出来たてのあんドーナツが出てくるかもしれない。でも、それと引き換えに店員さんに「どんだけあんドーナツ好きなん」って思われるだろうな。
よく来るお店だから、もしかしたらスタッフの間で「あんドーナツの人」って陰であだ名つけられるかもしれない。「今日もあんドーナツの人来たよ」って。
・・・恥ずい。「クロワッサンの人」とか、「シナモンロールの人」とかのお洒落あだ名ならまだしも、よりにもよって「あんドーナツの人」は何か切ない。
でも、背に腹はかえられぬ。緊張するが、思い切って店員さんに声をかけてみた。
「あんドーナツはないのですか?」
・・・しまった!!
緊張したせいで、池から出てきた神様のような口調になってしまった!!
更に恥ずい!!何とかしないと!!何とか!!
すると、店員さんから、「おいくつ要りますか?」という返事が!!
嬉しい!!めちゃめちゃ嬉しい!!何なら、メロンパンとか返してしまいたい。
だって今日はあんドーナツを目当てに来たんだから。
恥を忍んで聞いてよかった。あんドーナツが食べられる!!
そう思った瞬間、嬉しさのあまり、「おひとつです」と答えてしまう。
・・・オーマイゴッド!!更にやってしまった!!またもや神様口調!!
でも、もういい!!あんドーナツが手に入ったんだから。
あんドーナツを手に入れてご機嫌に車に乗り、再び仕事場へ向かう。
ドラマのサントラが、とてもいい感じに僕の感情にマッチしてた。
そんな、あんドーナツに振り回された今日の朝。
きっとあの店では、「あんドーナツの神様」ってあだ名がついてると思う。