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夫婦でこねるパン作り【中編】

予想以上に楽しい。パンをこねるのは。

かくしてぼくたちは月2回のペースで
ABCクッキング(以下ABCと記載する)の
パン教室に通うことになった。

これがまあ、楽しい。

まず、準備物が少なくていい。
パンの材料は100%ABCで用意してくれるので
エプロンとハンドタオルだけ持っていけばOK。

キッチンの雰囲気もすごくいい。
2時間でパンを作るので時間的にカツカツだが
殺伐とした空気は一切感じられずむしろ穏やか。
その大きな要因は「先生」にあると思っている。

「先生」とは、パン作りの指導者。
1テーブルに必ず先生が付き生徒の数は4~6。
パンの知識は当然、トークスキルもかなり高い。
パンと一緒に雰囲気まで作ってしまう様は凄い。

先生はたくさんいる。
全員の先生を知っているわけじゃないけど
ぼくたち夫婦の性格にピタリと合う先生は
実は2人くらいしかいない。

ABCの良いところは、その「先生」を
ある程度選べるところにある。
ネットで受講予約をする際に担当先生の名前が
記載されているからだ。

「夫くん、この時間帯なら〇〇先生だよ!」

こんな風にぼくたちは先生で受講を決めていた。
それほどまでに「先生」のありがたさは大きい。

2時間のうち最初から最後まで楽しい雰囲気を
提供してくれる先生は贔屓目抜きにしても凄い。

「〇〇先生だと面白いもんね。好きだなあ」

ぼくたちはパン作りよりも先生と話がしたいため
ABCに通うフシがあった。


「お二人は夫婦なんですか?」

毎回、パン教室が始まる前に聞かれるフレーズ。

先生は毎回固定だけど、生徒は毎回変わる。
なので毎回自己紹介めいた挨拶をしている。
その際、他の生徒さんからよく尋ねられた。

「はい。ぼくは嫁が大好きなので一緒に」

ぼくはこんな感じの自己紹介を毎回している。
すると他の生徒さん(大抵は主婦)の反応が
すこぶる良い。いろいろと突っ込んでくれる。
先生まで一緒に突っ込んでくれるから楽しい。

そんなある日、嫁ちゃんから尋ねられた。

「ねえ、夫くん・・・」

「どうしたの、嫁ちゃん」

「ABCの生徒さんってさ、毎回変わるよね」

「変わるね」

「なんでどの生徒さんも同じこと聞くの?」

「同じことって?」

「“お二人は夫婦なんですか?”ってヤツだよ」

「ああ、ああ、それね」

「夫婦かどうかって、だいたいわかるでしょ?
お互いのエプロンの胸に名前も着けてるし」

「まあ、わかるだろうね」

「なんでわかることを、毎回聞くのかなって」

「なるほどね」

「夫くんは不思議じゃないの?」

「ぼくが思うに、たぶんアレは挨拶だよ」

「挨拶?」

「“今日はいい天気ですね”みたいなヤツ」

「・・・どういうこと?」

「話を切り出すにも、きっかけってあるよね」

「あるね」

「初対面の人には無難なことで挨拶するでしょ。
必ず“そうです”と答えてくれるような言葉で」

「はあ~」

「そういうことなんじゃないかな」

「なるほど、なんとなくわかった」

嫁ちゃんとの会話も加速するクッキング教室。
夫婦での参加はやはりオススメ。


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