short story「レンタルメンタル」
水井幸男(みすいゆきお)、53歳。
福三丸株式会社の販売促進部 部長のお話。
レンタルメンタル?
飲み屋を後にして家に帰る途中だった。
電信柱の妙な広告に目がとまった。
"レンタル彼女やレンタル彼氏なんて一度は聞いたことありますよね
メンタルの弱いあなた、気が小さくて周りの目を気にしてしまうあなた一度メンタルをレンタルしてみませんか?"
なんてうまいこと書いてやがる
んなもんある訳ねぇよな。
とぼそぼそと呟きながらも
幸男は広告に書いてあった番号に電話をかけていた。
「はい。こちらレンタルメンタル株式会社、受付窓口です。」
「あのぅ、わたくし会社の仕事で悩んでおりまして、
メンタルをレンタルしたくてお電話したんですがぁ。」
「ありがとうございます。
お客さまは初めてのご利用でしょうか」
「えぇ、初めてなんですけんどぉ。」
「ご新規のお客様でしたら、一度オフィスの方に来ていただくようご案内しておりますが、宜しいでしょうか。」
「はぁ、わかりました。んで、そこではどんなことするんでしょうかぁ。」
「お悩みの具体的な内容とサービスのご紹介をさせていただく形ですね。
相談料などは頂いておりませんのでご安心下さい。」
幸男はわかりました。と言って電話を切った。
メンタルをレンタルってどんなことするんだと考えながらも眠りについた。
数日後…
「私は福三丸株式会社の販売促進部の部長をしております、水井幸男と申しますがぁ。
この度、レンタルメンタルを利用でけるということで電話で予約したんですけんどぉ。」
「水井さんですね、お待ちしておりました。」
ここには、メンタルのスペシャリストが揃っておりますので、お気軽に何でも聞いてください。
ご紹介遅れましたが、
僕はレンタルメンタル株式会社の社長をしております心強志(こころつよし)と申します。
「いかにも強そうなお名前ですなぁ、ギャグですか?」
「いいえ、これは父が付けてくれた名前なんですよ。
まぁ、からかわれたこともありますがね。」と
爽やかな笑顔で彼は言った。
「あぁ、肝心な相談内容をお伺いしてなかったですね。」
「あ、はい…あのぅ私は福三丸株式会社の部長をやっとるんですが。」
「水井さん、それはもう聞きましたので話を次に移しましょうか。」
「あ、申し訳ねぇ。ご覧の通り、話し方もあれなんですけどぉ、こう何と言うか弱々しくて部下から舐められとるんですわ。
で。今度、うちの会社の部のプロジェクトで商品のプレゼンをしなくちゃいけねぇんですけど、あがり症なもんに言葉が出てこんもんで。」
メンタルなんてレンタルできるもんなんでしょうかぁ?
大丈夫ですよ、ご安心ください。
ただひとつ条件があります。
そのプレゼンで僕たちの会社のことも含めてPRしていただきます。
「今、このレンタルメンタルはまだ試作プロジェクトなのでお金は頂いてないんです。
その代わり僕たちのやっている事が多くの人に伝わればレンタルメンタルの事業は広がっていきますからね。」
「はぁ〜そういうことでしたか。お互いのためになるんだったらやってみてぇです。」
「ありがとうございます。
では、早速はじめましょうか。」
"水井さんのレンタルメンタル"
Let’s Start!
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