催花雨の祈り、祝福の朝
お気に入りの写真がある。
桜の名所兵庫県西宮の夙川沿いで、三分咲の桜を後ろに傘をさして写る自撮りの一枚。
曇りのない真っ直ぐな瞳に
確かな覚悟を秘めた表情。
我ながら凛としている。
その三ヶ月前、 あなたが私の中にいるとわかってから 見る見るうちに体調が悪化し、 寝込む日々が続いた。
水さえ飲めず三日で三キロ痩せた。
その後も白米や味噌汁の匂いに嘔吐き、 牛乳とはちみつトーストばかりを食べた。
いつものように寝込んでいた夜、 下腹部がパチッと音を立てた瞬間があった。
身体が異物と判断していたあなたを、 漸く受け入れられた合図のように、 そこからは回復の一途を辿った。
春になり、 久々に遠出した先で降る雨が、 花だけでなくあなたの成長をも促すようで、 思わず祈るように写真を撮った。
半年後の玖月、 元気な産声をあげて生まれてきてくれた朝、 偶然にも雨が降っていた。
祝福の涙に、 あの日の催花雨の祈りが蘇る。
そしてあなたに「玖雨」と名付けた。
〈了〉
愛するクララ・シューマンの誕生日に贈られたと言われるブラームスのヴァイオリン・ソナタ第一番ト長調「雨の歌」を娘の誕生の奇跡に添えて。
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