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【積読書記録】バッタを倒しにアフリカへ

皆様には大好きなものはあるだろうか。
それも、偏愛と呼ぶのに相応しいレベルのものが。

今回の書は、前野ウルド浩太郎著 「バッタを倒しにアフリカへ」だ。
昆虫博士としての職を得るため、実績づくりとしてサバクトビバッタの研究のためにアフリカへ行き、研究をしたドキュメンタリーだ。

本書には、大量に虫の写真が出てくるので、苦手な方は注意が必要だ。
筆者は虫が大好きなので、虫の接写を掲載することをなんとも思っていない。
アフリカのバッタは大きくダイナミックである。足が長く、肉付きがよく、顔が大きい。
虫が苦手な方が日本のショウリョウバッタのつもりで読み始めると、後悔する可能性がある。
バッタだけでなく、他の虫もたくさん接写が出てくるのでさらに注意が必要だ。温かい地域であることもあり、単純に虫が大きいのでご注意召されよ。

日本ではあまり馴染みがないが、「蝗害」という言葉がある。
「蝗」とはバッタのことで、大量発生したバッタが植物を根こそぎ食い尽くしてしまい、ヤギなどの家畜の食料や木材などがなくなる被害のことを表している。
バッタは通常緑色で、群れは作らない。他の個体が近くに寄ってきたら距離を取る。パーソナルスペースは広めだ。
ただ、ある条件が整うとバッタは群れ始める。体が黄色と茶色に変色し、足がより発達する。野外フェスのように集まるので、アフリカの砂漠が黄色く染まる。
そして、この大量発生の写真も普通に掲載されているので、虫が苦手な方は本当に注意してほしい。

私も決して虫が得意なわけではないので、写真が出るたびに「うぇっ」と擬音が漏れてしまっていた。それでも文章を読み進めるのには理由がある。
とにかく文章が読みやすい。
この本は、もともと「面白い本」として調べた時に検索バーに引っかかってきた本を購入し、積読していたものだ。旅行記のような本はどこにでもあるし、あまり珍しさを感じていなかったため、なかなか手に取らなかった。また、なかなか本題のバッタについての話に辿り着くまで数ページかかるので頑張れなかったというのもある。
今思うと、この著者の文章の面白さはエッセイストに匹敵する。
そして、この本の魅力は昆虫学についてだけではない。
昆虫学の面白さだけでなく、海外旅行記としても非常に面白い。一緒に旅をした運転手のティジャニはとても気が効くこと、学生のモハメッドに通訳をお願いしたら、政府の人間のいないところで賃上げ交渉されてぼったくられたこと、ティジャニには妻が二人いること、日本から送られてきた荷物の段ボールにネズミが侵入し袋ラーメンが食い荒らされていたこと、賄賂が横行していること、そもそも今回滞在したモーリタニアはフランス領だった時期があり、フランス語は通じても英語が通じないこと・・・。
日本人はそもそもアジアやヨーロッパに行く機会があってもアフリカ圏に行くことがあまりないので、非常に新鮮だ。

そして、筆者の虫の偏愛っぷりにほっこりする。

どのバッタも感動的に美しく、危うく失神しそうになる。

前野ウルド浩太郎著「バッタを倒しに、アフリカへ」

昨日は孤独相、今日は群生相。私はなんとツイているのだろう。十分に撮影できたので、お次は彼女を浜辺で追いかけるように、群生相を執拗に追いかけまわし、逃げ惑うバッタたちと戯れる。なんと贅沢なひとときだろうか。怯えるバッタも愛おしい。しかしながら、この幸せな時間を私だけの思い出にしておいては、人間から妬まれる恐れがある。少しでも幸せをおすそ分けしなければ。そう、論文という形で。

前野ウルド浩太郎著「バッタを倒しに、アフリカへ」

一般的な大多数の人間は大量のバッタに出会っても別に妬みはしない。多少のユーモアは含んでいるにしても、この偏愛っぷりを文章の形で起こしてくれていることで、著者のことも好きになれそうだ。

新書には多いが、学者さんが書いた本というのは面白い。著者が好きになれるともっと面白い。専門家が書いた本をもう少し探究してみようと思った次第である。


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