
憧れたのは強さ、そのあとに
初めて買った漫画は『神風怪盗ジャンヌ』だった。美人で優秀な女子高校生:まろんが、天使の力を借りてジャンヌに変身し、絵に憑いた悪魔を回収していく。華麗に夜を駆けては戦いに勝利するけれど、変身を解いて戻るのは、海外へ行ったきり帰ってこない両親を想い、人知れず孤独を抱えて眠る女の子の姿だった。
まろんのような才色兼備とは程遠いけれど、周囲に「弱さ」を見抜かれないように強気で笑う彼女に、私自身を重ねて読んでいた。ほんの少しでも心が揺れると涙してしまう自分のことを情けないと思っていた。泣きたくなんてないのに、こんなの大したことないのに。それでも私は環境の変化や誰かの言葉の中に何かを感じて、都度傷ついてしまった。内面の脆さを誤魔化したくて、表側の「私」をできるだけ分厚く見せようと、あえてがさつに振る舞ったりへらへら笑ったりした。
自分をたくましくしていくことは、幼い私にはとても難しかった。鈍感さを身につけるには場数が必要なのだと大人になって知る。誰かと会話をする時に身構えなくても本当によくなったのは、会社員になってからだと思う。顔色を伺ったり話題を選り分けたりしなくても、自分を伝えていくことができるようになった。社会をサバイブするうちに何かを乗り越えた実績が増えていったこと、そして細かなひっかかり全てに心を生け捕りされている暇がなくなったことが理由だと思う。
その頃から、お互いを包み込みあえる人たちとの出会いが格段に増えていった。思いやりのある踏み込み方を選びながら一緒に過ごすうちに、消耗のない、気楽で丁寧な関係性がいくつも育った。装飾のない自分でも受け止めてもらえる安心がある。新しい繋がりだけでなく、長い付き合いの中にもまた然り。私たちは、どうやらとても気持ちの良い感情で結ばれている。
強さを求めて歩いてきたけれど、鋼の鎧を纏わなくとも大丈夫でいられることを道の途中で知った。寂しくて苦しくて足が震えて動けない夜があれど、「孤独」と「孤立」は違うこともわかった。私はひとりぼっちではない。会いたいと思える人たちがいるから。
あなたたちを想えば爽やかな心地よさが手元に戻ってくる。いつも大袈裟な言葉になってしまうけれど、つまり、本当に感謝している。柔らかさを与えてくれてくれてありがとう。無闇なタフネスを追い求めることはやめた。素敵無敵なジャンヌにはなれなかったけれど、それでもようやく、私は自分を好きになれそうだ。