「しずけさとユーモアを」を忘れない出版社の話
ここ数年、ユニークな出版物を出す小出版社が増えています。千住に根を下ろして活動を続けるセンジュ出版も、そうした出版社の一つです。
その事業は多岐にわたっており、出版社なのにカフェをやり、まちの企業や商店街のPRを手がけ、文章教室もやり、古書販売もやる。本1冊を席のチャージ料金にしたブックスナック『本と酒 スナック明子』まで営業しています。
『しずけさとユーモアを 下町の小さな出版社 センジュ出版』(枻出版社刊)は、創業者の吉満明子さんが、編集者を目指した時期から、センジュ出版を創業して現在に至るまでの道のりを描いた一冊です。
東日本大震災と、わが子の誕生が変えたもの
出版社の編集長として、年間20冊もの書籍を編集していた吉満さんは、東日本大震災と、出産し育児を始めたことをきっかけに、「この子のこれからの笑顔を守るために、まず自分から始めるとしたら、なにができるんだろう」と考えるようになります。
そしてたどり着いた答えは、自分の出版社を作って、自分のつくりたい本をつくること。資金繰りに悩まされながら、それでも自分の理想にむかって書籍を編集し続けていく姿に心打たれました。
一読して感じるのは、吉満さんのあたたかい人柄と、人に向けるやさしいまなざしです。そうしたなかから生まれたのが、センジュ出版第1冊目の書籍、「ゆめのはいたつにん」(教来石 小織著)。
ごくふつうの派遣事務員だった著者が、カンボジアの子ども達にアニメ映画を届けるNPOのリーダーとなって頑張るさまを描いた一冊ですが、発売3か月経たずに重版となり、2020年には4刷が決定しているそうです。
「あなたは人生の主人公だ」と伝えたい
出版以外の新しい収入ルートをつくるべく考えた事業「文章てらこや」のスタートにあたっても、次のような思いをテキストに込めたと述べています。
「あなたにしか書けない文章を書けるようになること」を目的とした文章てらこやは、3年で受講者100名を超え、現在は書籍売り上げに次ぐ収益の柱になっているそうです。
ところで、自分なんてたいした取り柄がない。自分なんてしょせん人生の脇役だ。自分に自信が持てない。少なくない数の人が、今の自分をそんなふうに肯定できずに苦しんでいます。
しかし吉満さんの言うとおり、人は誰もが自分の人生の主人公です。自分以外に、自分の人生の主人公はいないのです。「自分なんて……」と自分の価値を低く見積もって、落ち込んだり、簡単に自分の人生を他人に譲り渡すのは、いい考えとは言えません。
他の人の人生と同じくらい自分の人生は輝いている。それを忘れちゃいけないなと、吉満さんの言葉を読んで思いました。
しずけさとユーモアとは
話を戻すと、こうしたセンジュ出版の活動を支えているモットーは、「しずけさ」と「ユーモア」。ともに、吉満さんがずっともとめてきたもので、簡単にいうと「しずかに本を読み編んで、そして仲間と笑い合うこと」だそうです。
「しずけさ」と「ユーモア」。二つの思いがセンジュ出版の届ける書籍やサービスには流れています。だからみんな優しい感じがするんですね。
出版社創業を描いた本というと、古くはマガジンハウス創業者清水達夫さんの『二人で一人の物語 』(出版ニュース社刊)や、ミシマ社の三島邦宏さんの『計画と無計画の間』(河出書房新社)、夏葉社の島田潤一郎さんの『あしたから出版社』(晶文社)などがあります。それらの書籍に負けず劣らずドラマティックで心にしみる一冊です。
ちなみにセンジュ出版さんは、オンラインコミュニティ「本と酒 スナックセンジュ」も運営されています。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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