BCPの運用を管理することで、組織力がアップ!
介護ニーズの増加により、サービスの拡大や事業規模の増設に取り組む事業所は少なくありません。また、人材確保が深刻な今こそ、介護経営を共同化したり、法人合併をしたりして積極的にマンパワー確保をおこなっているところもあります。
そのような介護サービスの多様化・大規模化が進む時代に、災害対策においても一律の対応では立ち行かなくなってきました。
この記事では、複数の事業所を管理する施設本部として、災害に強い組織作りを進めるための、BCPの管理や運用ポイントにどう取り組むべきかを解説していきます。
BCP運用の管理が必要な理由
デイサービスやヘルパー事業所、入所施設など同系列の事業所を広範囲に展開している法人があります。災害リスクの視点からみると、ハザードマップが異なったり災害の種類が違う場合もあるため、被災時には事業所同士でサポートできるような体制をとっておくことも重要となります。とはいえ、事業所間でBCPの共有を図ったり、具体的なサポートを決めたりするのは業務の合間では難しいでしょう。
最終的には施設本部が、各事業所のBCPやその運用を管理することは必然といえます。むしろこれを怠ることで、次のような事態が起きる可能性もあり、けっして侮ってはいけないのです。
各事業所の対応にばらつきが生じ、災害時に統制が取れない
災害に見舞われた場合、早い段階で事業所機能を回復させて業務を続けることは重要です。大規模施設であるがゆえの強み「相互協力」によって、マンパワーを早期に集約させることも可能でしょう。
とはいえ、召集の基準はいつなのか、誰が采配するのかが決まっていないと、各事業所の対応にばらつきが生じてしまいます。
さらに被災時は情報収集にも限界があるため、「いま自分の周りで何が起こっているのか」という基本的なことさえ分からず、最悪の場合には利用者やスタッフを危険にさらすこともあり得ます。
関係機関との連携不足に陥る
サービス事業者はもちろん、要介護高齢者であっても目に見えないところで誰かとつながっています。
入所施設では、同じ地域の施設や病院などと物資や人的資源の提供など連携協定を結んでおくことで、災害時に施設が孤立することを防ぐことが可能となります。在宅で暮らしている高齢者には、近隣住民や民生委員など生活サポートや見守りをおこなっている人がいるかもしれません。地域での様々なつながりが、ときに命を守ることになるかもしれないのです。
ですから、日ごろから社会資源情報や備蓄状況、地域との顔の見える関係を大切にしながら、ゆるくつながっておくことが大切です。
研修や訓練をおこなっていない場合、減算対象となるのか?
「業務継続計画(BCP)未策定減算」の適用要件に研修や訓練の未実施は含まれていません。
とはいえ、運営指導でBCPが未策定と指摘されれば、義務化が決まった年月日にさかのぼって減算される厳しい内容となっています。
要件にあげられている次の2点を確認しておきましょう
感染症若しくは災害のいずれか又は両方のBCPが未策定
BCPに従い必要な措置が講じられていない場合
ここで気になるのは「必要な措置」という言葉です。
全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料(令和6年3月)でも、『危機発生時においても迅速に行動ができるよう関係者に周知し、平時から研修、訓練(シミュレーション)を行い、最新の知見等を踏まえ、定期的に見直すことが重要となるので、業務継続計画の策定状況と併せて、一連の取組状況について、確認、指導をお願いしたい。』と国から自治体担当者へ指示が出ています。減算適用にはならないまでも、日ごろの訓練や研修による見直しを含めてBCPの適切な運用は不可欠だといえます。
施設本部がすべきBCP管理のポイント
ここまで紹介してきたように、BCPは策定後どのように運用、管理していくかが重要になります。前章で紹介した事態に陥らないよう、施設本部として各BCPを客観的に、かつ定期的に管理するには、次のような方法があります。
BCPをクラウドで管理する
BCPは定期的に見直したり、変更があれば直ちに更新する必要があるので、常に最新版を共有しておくことが重要です。また災害時だけでなく、いつでもスタッフが見られるようにしておかなければ、いざというときに行動が伴いません。
BCPを紙の資料で作成し、ファイルを事務所に備え付けている、という事業所も多いでしょう。
ですが、もしもの災害時に事業所に入れず資料が見られない、資料やファイルがいくつもあり、必要な時に最新版のBCPがどれか分からない、といった心配があります。
そこでBCPをクラウドシステム上で管理しておくことをおすすめします。
クラウドシステム上に事業所ごとのBCPを用意しておけば、スタッフは常に最新のBCPを確認することが出来ます。
また、BCP文書だけでなく備蓄品リストや訓練記録なども管理することが出来、施設本部が最新の運用状況を把握することが可能です。
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BCP同士が連動する仕組み
複数のサービスが災害時にフォローしあって業務継続をさせるためには、BCPが連動することが重要です。そのためには、施設本部が各サービスのBCPを把握しておくとともに、事業の優先順位を決めておかなければなりません。
たとえば、入所施設が地震の被害を受けたとします。本部ではこの施設の運営継続を最優先と考えますが、スタッフ自身も被災者となり当面のあいだ人員確保の目途がたちません。そこで、本部は自法人のデイサービスを休止し、デイのスタッフが応援に回るなど具体的な対応でなんとか業務を継続することができました。
これは入所施設のBCPだけではなく、デイサービスのBCPにも記述しておくことが重要ですが、平時の段階から事前に応援することも想定しておくことがポイントです。
もう一つの連動は、事業所レベルではなく、職種レベルでの連動です。介護サービスは多職種で構成されているため、介護や看護スタッフなど特定の職種が足りないときには、不足している職種に対してフォローする体制を確立しておきましょう。これらは、事業所が単独で決めるのではなく、施設本部として発動基準や応援体制のルールを決めておき、施設本部BCPとして周知しておくことをおすすめします。
<厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン 法人本部BCPと施設・事業所単位のBCP関係図をアレンジ>
本部機能の明確化
被災した事業所だけで解決できない事や今困っていることを発信し、共有することが重要です。また災害発生直後の混乱期や応急復旧期などは密な情報収集が必要となり、通信手段が確保できずに二次被害に見舞われる危険性もあります。災害時こそ情報を一か所に集約させ、指揮命令系統を確立させることが、施設本部BCPとしての重要な役割といえます。
災害に強い人材の育成
介護サービスの運営基準では、スタッフにおこなう研修が事業所ごとに定められています。
テーマは苦情対応や身体拘束の排除、事故の発生予防など様々な内容があり、事業所は計画的におこなわなければなりません。
下の表は事業所ごとに義務化されている研修項目です。
研修は人材育成の要になりますので、施設本体が統括して年間計画を企画するのが好ましいでしょう。なお、非常災害時の対応が研修テーマにありますが、災害対応とBCPは内容や研修方法が異なるため、分けて研修する、対象を中堅層以上にする、など工夫が必要です。
まとめ
BCPが登場したことで、施設が災害時の業務継続をより具体的に検討することになりました。少なくとも筆者の施設では、地域での介護サービスのあり方、存在意義について正面から向き合う機会になっていると思っています。
つまりBCPは、それだけ事業所の覚悟をしめす旗印であるともいえます。複数の事業所を持つ施設本体としては、次のステップとしてこれらを束ね、施設全体のBCPを検討する作業が待っているでしょう。
筆者の経験から確実に言えることは、このプロセスにおいて管理者同士のコミュニケーションは増え、組織力は格段に上がったということです。
最終的には我々の意識や覚悟が色々な機関と協調しあい、地域BCPへと発展したのちに地域全体の防災力が向上することが理想かもしれませんが、令和6年4月、そのスタートは切られたのです。
執筆者: 柴田崇晴
日本介護支援専門員協会 災害対応マニュアル編著者
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