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社員戦隊ホウセキ V・第2部/第3話;平穏は長続きしない?

前回


 六月十日の木曜日、ザイガは敗れた。

 ホウセキレッドの復帰、更にはゴージャスチェンジャーの登場。ホウセキレッド・ゴージャスの前に、イマージュエルで強化した氷結ゾウオすら撃破された。

 ザイガは自分を殺すようホウセキVに告げたが、ホウセキVはそれに応じなかった。



 戦いの後、マダムによって強制的に帰還させられたザイガとゲジョー。二人はニクシム神の祭壇のある部屋に転送された。
 負傷していたザイガは、小惑星に転送されるや否や、マダムが有無も言わさず別の部屋へと連れて行った。以前、念力ゾウオの暴挙で負傷したゲジョーを治療した部屋だ。

「何故、私を連れ戻した? 剣を握って一年足らずの者に敗れたのだ。生きていても、生き恥にしかならなん」

 ザイガは十縷とおるたちに言ったことと同じようなことを、マダムにも言った。マダムはそのザイガの発言には頓着せず、椅子のように張り出した岩肌に彼を座らせる。

「死ぬなどと簡単に申すな。一度死んでしまったら、甦れんのだぞ。其方が死んだら、其方が救ったゲジョーやジュエランドの民が悲しむ。わらわにそのような真似はできん」

 マダムは持論を述べつつ胸のブローチを外し、斬られたザイガの胸の前に翳した。ブローチに備わった緑の石から軟らかい緑の光が照射され、ザイガの傷を照らす。この光によって、ザイガの傷は少しずつ小さくなっていく。

(おのれ、赤の戦士…。お主のせいで生き恥を晒すことになるとは…)

 ザイガの心の中には、自分に治療を施すマダムへの感謝よりも、自分を倒したがとどめを刺さなかったレッド=十縷への怒りの方が大きく、激しく渦巻いていた。そしてその怒りは、レッド=十縷以外の者にも向く。

(緑の戦士…。あ奴に搔き乱されたのが原因だ。つくづく癇に障る…)

 グリーン=光里ひかりが駆けつけたことがレッドの復活に繋がった。それだけでもグリーン=光里は疎ましいが、それ以前から彼女は何度か気に入らない発言をしている。
 そして、自分はそれに反論ができなかった。ザイガは彼女にも負けていたのだ。この事実がまた、ザイガを怒らせた。

(地球のシャイン戦隊め…。このままでは終われん。必ずお主らを葬る)

 自分に煮え湯を飲ませたシャイン戦隊。特にレッドとグリーン。彼らと再戦し、今度こそ勝利する。その思いを胸に、ザイガは治療を受けながら湯の沸くような音を小さく鳴らし続けた。


 ザイガがマダムの治療を受けている頃。ゲジョーは小惑星の表面で、都合よく椅子のように張り出した岩に腰を掛けてスマホを操作していた。氷結ゾウオの戦いと氷結ヅメガの戦いをアナタクダに投稿する為だ。ところでゲジョーは、溜息ばかりいていた。

神明しんめい光里ひかり…。何故お前は私に構う?)

 作業の過程で、スーツを損傷した状態で戦うグリーンの姿が出てきた。メットは全壊していて、素顔を晒していた。その光里の顔を見て、ゲジョーの脳裏には光里の言葉が甦る。

「だけどさ。ゲジョーの気持ちは大切にして。あんたが死んだら嫌だって、こんなに言ってるんだから」

   

 これは先程、敗れたザイガに向けた言葉だ。これに続いて、この次に新しい記憶も思い出される。

「自分の仲間には気を遣って。貴方、マ・スラオンの首を壊した時もそうだったけど……。ゲジョーがどんな顔してるか、一瞬でも見た? 仲間を悲しませたら駄目だよ。自分の長所を見失わないで」

  

 これは前の戦いで、和都を痛めつけたザイガに向けた言葉だ。

 どちらも自分への言葉ではないが、いずれの時も引き合いに出されたからか、ゲジョーはこれらの言葉が頭から離れなかった。

(ザイガ将軍は私の恩人だ。それを無神経呼ばわりしおって…)

 やはりゲジョーにとって、ザイガやマダムへの批判は許し難いものだ。今回もそれに違いは無いが、何故か猛烈な怒りには繋がらない。光里が自分を悲しませたくないと思っていて、自分に対するザイガの無頓着さを気にしていたことが明白だったからだ。

(お前が私の何を知っている? 解かったような口を利くな。大体、私とお前は敵どうしなんだぞ。私の弱さに付け込んで、ザイガ将軍を否定するな)

 ゲジョーは敵である光里を否定しようとする。しかし光里の目的はザイガに揺さぶりをかけることではなく、純粋に自分を気にしているだけだろうと、心の何処かで理解している。だから、光里には怒れない。ゲジョーの胸中は複雑だ。

「お前の顔は苛つく」

 映像を見ながら、そんなことを呟いたゲジョーは自身の憎心ぞうしんりょくをスマホに内蔵した小さなイマージュエルに作用させ、露わになった光里の顔をボカしていた。
    言葉通りなら光里の顔を見たくないから画像処理をしたということになるが、本心の程は解かりかねた。



 暫くすると、小惑星の表面にスケイリーが姿を見せた。

「おい、ゲジョー。ウラームは生まれてるか? 地球人共の苦しみで、ニクシム神がまた強くなった筈なんだが…」

 スケイリーは真っ先に、ゲジョーにそう訊ねた。ゲジョーはスマホをしまい、岩から立ち上がってスケイリーに対応する。

「すみません。そちらはまだ確認しておりません」

 ゲジョーはそう言って頭を下げた。スケイリーはただ声を掛けただけなのか、ゲジョーの回答に対して舌を打っただけだった。

「調子が良かったら、ここまでウラームが来る筈だからな。お前が出くわしてないってことは、そうでも無いんだな。仕方ねえ」

 スケイリーが怒らない理由は他にもあった。

「シャイン戦隊が新たな力を得たからな。そのせいで地球の奴らが安心して、ニクシム神に苦しみを捧げねえのか? しかしザイガ将軍を負かすとは、大したもんだな」

 今のスケイリーの関心は、専らホウセキレッド・ゴージャスにあった。圧倒的な強さを見せつけられ、闘士としての血が騒いでいる…という訳ではない。

「あれを俺が打ち負かしたら、地球の奴らは絶望するだろうな。勝ったと思って図に乗ったところを、一気に叩き落す……。ニクシム神に良い捧げ物ができるぜ!」

 スケイリーは憎しみの権化。星を牛耳るもの憎み、それらを痛めつけることに至福の喜びを覚える。彼には、こんな考えしかできなかった。

「一刻も早く地球に行きてぇな。おい、ゲジョー。今すぐ俺を地球に連れて行け」

 そしてその考えは、時にこんな調子で暴走する。これにはゲジョーも困惑する。

「いえ、マダムの許しが無ければ…」

 ゲジョーは常套句で切り抜けようとするが、興奮したスケイリーには通じない。

「そんなのどうでも良いだろう? 俺も将軍だ。俺の命令を聞けよ!」

 スケイリーはパワハラ上司紛いの発言をし、ゲジョーの両肩を掴んで揺さぶる。ゲジョーは揺さぶられる苦痛と、身勝手な言い分に顔を歪める。しかし、スケイリーの横暴は意外な形で終息した。

「何をしておるか、スケイリー! 今すぐゲジョーから手を離せぇぃっ!!」

 金切り声が小惑星の表面に響く。二人はこの声で、マダムがこの場に来たことを感知した。振り向くと、そこには怒りで顔を紅潮させたマダムが居た。

「すまねぇ。ちょっと興奮し過ぎた…」

 マダムの発する威圧感を前にしたら、スケイリーの興奮も冷める。スケイリーはゲジョーから手を離し、先までの言動を詫びた。スケイリーが詫びると、マダムは静かに二人へと歩み寄る。そして、張り上げない普通の声で言った。

「スケイリーよ。其方のことだから、シャイン戦隊を倒したくて仕方ないのかもしれんが、少し落ち着け。ゴージャスチェンジャーじゃったか? ザイガをも上回る力じゃ。考え無しで挑んでも勝てん。作戦を練るべく、まずはあれについて知ることが先決じゃ」

 マダムは冷静な提案をした。スケイリーはマダムには逆らわず、この意見に頷いた。ゲジョーも同様に、「その通りです」と即答した。そんな二人に優し気な視線を送りつつ、マダムは呟いた。

「あれを倒さねば、地球は救えんからな。スケイリーよ、必ず成し遂げるのじゃ」

 これはつまり、ゴージャス打倒の命をスケイリーに出したということである。今すぐではないものの、出撃命令が出たことにスケイリーは喜んだ。

「流石だな、マダム! 目が高いってモンだ。期待には答えるぜ。シャイン戦隊の新たな力、俺が絶対に破ってみせる!」

 大きな決意を胸に、スケイリーはマダムに宣言した。


 時と場所は現在の地球に戻る。

 十縷とおる掛鈴かけすずの目指す植埜うえの公園では、早めの夏祭たるイベントが開かれていた。公園の広い道の両脇には沢山の出店が並び、一角では大道芸が行われたり、楽器の演奏が行われていたり、とても賑やかだった。
 公園は広いが、人が多くて狭く感じられた。その人々の中には十縷の言っていた通り、六月には少し早いものの、浴衣を着た女性も何人か見受けられた。浴衣の女性の中に、この人も居た。

「はい。もう地球に来ています。人間はかなり多いですね。苦痛も効率よく集められて、一石二鳥かと思われます」

 その人物は浴衣姿の女性の一人で、スマホで通話しながら人混みの中を練り歩いていた。通話内容で判るが、この人物はゲジョーである。
 浴衣は藍色の地に露草が描かれたもので、帯は黄色のものを締めていた。なお、緑の宝石を備えたペンダントと紫の宝石を備えたピアスは忘れずに装着しており、髪型もツインテールだった。

 ゲジョーは通話を終えると、人混みを潜り抜けて芝生に進入した。芝生では、何組かがレジャーシートを広げて場所を陣取っていたが、それでも通りより遥かに空いている。人混みに参っていたのか、ゲジョーは芝生で一息ついた。
 しかし、こういうところで変な男に絡まれるが、半ばゲジョーの常だった。

「おっ、可愛い子発見! ねえ、一緒に酒呑まない?」

 レジャーシートを広げていた者たちの中から、一人の男性が缶ビールを片手にゲジョーへと歩み寄って来た。年齢は大学生くらいか。顔が蕩けそうなくらいニヤけていて、それだけでゲジョーは不愉快に思った。
 しかし最近、ゲジョーは嘘の笑顔が得意で、その感情を顔には示さない。微笑みながら、激しいことを言うだけだ。

「二十歳未満だから、酒は呑めん。それより、お前のように知性の欠片かけらも感じない者となど、共に飲み食いなどできるか」

 男が近づいて来る最中、ゲジョーは微笑みながら右の裏拳で背後の景色を叩いた。すると景色に蜘蛛の巣状の皹が入ってガラスのように割れ、人が通れるくらい大きな七色の穴が景色に開く。
 酔っぱらっていた男は、初めこの現象に気付かなかった。しかし、数秒後には絶叫していた。

「うわああああっ!! ドロドロ怪物だぁぁぁっ!!」

 七色の穴からは、ウラームが多数這い出してきた。
 酒気帯びなら理性を失っても許されると思っている愚者でも、この状況の危険性の認識はできた。しかし愚者は叫んだ次の瞬間、一番先に出て来たウラームに鉈で斬られていた。左肩を斬られて倒れたが、一撃で殺されはしない。芝生の上を転がりながら、裂傷の痛みに苦しむ。

 そしてウラームたちは他の人間たちにも襲い掛かる。ゲジョーに迫った酔っ払いの仲間と思しき者たちも、その後に続いて襲われた。


次回へ続く!


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