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社員戦隊ホウセキ V 第2部/第25話;超展開
前回
六月二十六日の土曜日。
武家屋敷の波間離宮にて、和都と最音子はデートをしていた。
しかし最音子は和都に好意を抱いたからではなく、和都から情報を聞き出す為にデートに誘ったのだ。
光里がピカピカ軍団なのかを訊き出す為に。
ついに最音子は昼食の場でその質問をした。
和都は最音子の気持ちを覚りつつ、こう答えた。
「仮に神明が本当にピカピカ軍団の一員で、貴方がそれを知ったとして…貴方に何ができるんですか? ドロドロ怪物と戦えるんですか? できませんよね? 助ける能力が無いなら、そもそも関わらない方が良いんじゃないですか?」
厳しい現実を突き付けられ、最音子は泣くしかなかった。
注文した食事が来た時、最音子の涙は止まっていた。しかし、精神状態まで完全には戻らない。
二人は無言で昼食を済ませてから、再び庭に出た。
「ごめんなさい。詰まらない理由で時間を奪っちゃって…。やっぱり、人の気持ちを踏みにじるような真似なんか、するべきじゃないですね」
最音子は昼食代として千五百円を和都に手渡しつつ、好意も無いのにデートに誘ったことを詫びた。札を受け取りつつ、和都は首を横に振る。
「最音子さんにとっては詰まらないことじゃないから、そこまでしたんでしょう。それに、俺なら気にしないでください。今回のこと、全然悪く思ってないですから。あと、俺の方こそすいません」
互いに謝罪し合った二人。好意の無かったデートは、このままお開きかと思われたその時だった。
超展開とでも言うべきか。脈絡も無く第三者がこの場に姿を見せた。
「何っ!? ゲジョー!!」
その姿に気付いた時、和都は思わず息を呑んで目を丸くした。緊迫した和都の表情が気になり、最音子は和都の視線の方向、つまり自分の後方を振り返る。
そこには随分と綺麗な女性が居た。その女性は黒字に青い花が描かれた振袖を纏った、十代半ばと思しき女性だった。顔は最音子の認識では相当の美形。但し、毛先を新橋色に染めたツインテールの髪型、同じく新橋色のリップやアイライン、更には華美なペンダントやピアスが独特な印象を与えていた。
その女性は和都の声に気付いて、二人の方を振り向いた。
「奇遇だな、黄の戦士。隣は…ああ、そのピアス。神明光里の友人のモネコか。お前ら、恋人どうしだったんだな」
和都と最音子を観察するように眺めつつ、ゲジョーは鼻で笑った。見知らぬ人物に名前を言われ、最音子は少なからず驚いていた。
「この人、お知り合いですか? 私のことも知ってるみたいですけど…」
最音子は恐る恐る、和都に訊ねた。和都の切迫した雰囲気から察するに、好ましい知人ではない可能性が高い。
和都はこの問に答えず、ずっとゲジョーに睨みを利かせている。
「ここに居てくれたなら好都合だ。今回の目的はシャイン戦隊を倒すことだからな」
ゲジョーが下顎を突き出しながらそう言った次の瞬間、彼らがいる側とは池を挟んで反対側の岸辺で、景色に皹が入り始めた。それを視認した時、和都はそこまで驚かなかったが、最音子は「何あれ!?」と明らかに動転していた。
その間に景色はガラスのように砕け散り、景色に七色の穴を開ける。その穴から出て来たものを見て、最音子は絶叫した。
「貝のドロドロ怪物!? 嘘でしょ!!」
それはスケイリーだった。スケイリーが出現すると、向こう岸に居た人々は恐怖の絶叫を上げてその場から逃げようとする。
対してスケイリーは狂乱したような声を上げつつ、骨貝を模した装具を付けた杖を出し、突起を飛ばして人々を爆撃する。すぐさま対岸は爆炎と絶叫に包まれ、ゲジョーはその様子をスマホで撮影し始める。
和都は対岸のスケイリーと隣の最音子を交互に見つめた。
「最音子さん。足は速い筈ですよね。全速力で走って、とにかくあの化け物から遠ざかってください」
和都は最音子の両肩を掴み、視線を付き合わせながらそう言った。強く言い聞かせるように。最音子はまだ困惑していて、すぐには逃げ出せない。そんな最音子に和都は「解りましたね!」と釘を刺し、自分は踵を返して走り始めた。
池には長めの橋が架かっていて、これを渡れば対岸に短時間で到達する。和都はその橋の上へと駆け込んでいった。向こうにはスケイリーが居るのに。
「待って、ワットさん! 貴方も逃げなきゃ!」
最音子は和都を止めるべく、彼を追おうとした。だが、すぐに足が止まった。驚くべき光景が、再び目に飛び込んで来たからだ。
「ホウセキチェンジ!」
橋の上を走りながら、和都は叫んだ。その声に連動して彼の腕時計は黄玉のような宝石を備えた腕輪に変化し、眩い光を放つ。その光は、戦闘スーツに形を変えた。
「本当だったんだ…。ワットさんはピカピカ軍団…。多分、光里も…」
和都は瞬く間にホウセキイエローに変身した。これで和都がピカピカ軍団だと証明された。掴みたかった事実の一端を最音子は掴めたのだが、全く喜べない。今は驚きだけが、彼女の感情を乗っ取っていたからだ。
「そこまでだ! スケイリー!!」
単独ながら、果敢にスケイリーに挑むイエロー。橋の上から豪快な跳躍を見せ、破壊活動を続けるスケイリーに後方から跳び付いた。
波間離宮でスケイリーとイエローが交戦し始めた時、十縷と光里はまだ佐々木公園に居た。彼らはそれぞれ別の更衣室で着替えようとしていたが、動きを止めざるを得なくなった。急な連絡が入ったからだ。
『ニクシムが現れた! 場所は…波間離宮の辺りだ。休みのところ申し訳ないが、今すぐ出動してくれ』
ホウセキブレスが腕時計の擬態を解き、眩く光りながら切迫した愛作の声を届けてきた。
ニクシム出現でも充分な重大事態だが、今回は場所が悪過ぎた。
「波間離宮!? 最音子とワットさんが…!」
ニクシムが現れた場所は波間離宮。和都と最音子が、今まさに居る…。
十縷と光里は別の場所で同じような反応をし、着替えを断念して更衣室を飛び出した。そして、すぐに合流した二人。
「ジュール。場所、聞いたよね!」
「うん。急がなきゃ。波間離宮は会社とここの中間点だから、直接行った方が早いね」
という訳で、二人は十縷のサイドカーで現地を目指すことにした。十縷はジャージのまま、光里は短距離走の競技着の上にコートを羽織った姿で、それぞれ波間離宮へと急行した。
波間離宮では、出現したスケイリーにイエローが単身で挑んでいた。イエローが後方から跳び掛かり、スケイリーに組み付いたことで始まったこの戦い。組み合ったまま二人は地を転がったが、すぐにまた離れた。
「早ぇな。もう来たのか。ってもお前だけか? 潰し甲斐ねぇな」
スケイリーは気怠そうに立ち上がった。イエローの初撃たる跳び掛かりは、何のダメージにもなっていなかった。しかし、それで良い。イエローの目的は一般人への攻撃を止めさせることだからだ。
(こいつに勝てる訳が無い。だから勝たなくていい。ジュールたちが来てくれるまで、被害を最小限に食い止めるのが俺の役割だ!)
論理的思考ができ、かつ自己評価の低いイエローらしい考えだ。その考えに基づき、彼は次の行動に移る。
「マミィショット!」
イエローは腰のホルスターからガンモードのホウセキアタッカーを抜き、すかさず発砲した。選んだのはマミィショット。避ける気が初めから皆無のスケイリーは、これを受けてくれた。
黄色の光の帯がスケイリーに巻きつく。スケイリーは両腕を胴体と共に縛られたが、全く動じる様子を見せなかった。
「舐めてんのか? こんな小細工、俺に効くかよ!」
スケイリーが怒声を上げると、同時に体から空振のような衝撃波が発生した。この衝撃波でイエローは堪らず体勢を崩した。
衝撃波の効果はこれだけに留まらず、スケイリーの後方では池の水面が時化の海のように荒れ、庭の木々は激しく揺れて多数の葉を舞い落とす。そしてスケイリーの胴体に巻き付いていた光の帯も、敢え無く霧散してしまった。
簡単に技を破られたイエロー。膝立ちのままスケイリーを見上げ、舌を打つ。
対するスケイリーは速攻で畳み掛けることはせず、余裕綽々でイエローを挑発する。
「ゴージャスチェンジャーだったか? ザイガ将軍と氷結ゾウオを破ったあの武器を使え。あれじゃなきゃ、俺には対抗できないぜ」
スケイリーは攻撃もせず、ゴージャスチェンジャーの使用を促してきた。仮にそれを使われても絶対に自分は負けないという、猛烈な自信が強く感じられた。
イエローも相手との力量の差は、過去の戦いで思い知らされている。かと言って、彼がゴージャスチェンジャーの使用に踏み切ることは無かった。
(ゴージャスチェンジャーでも使わなきゃ、こいつとはやり合えない。だけど、あれは消耗が激しい。みんなが駆けつけるより先に、俺がへたばる危険性が高い。いや。そもそも俺がゴージャスチェンジャーを使ったところで、こいつに勝てる見込みだった無い…!)
イエロー=伊勢和都は、基本的に悲観的な側面に目が向きがちだ。この場でもそれは変わらず、ゴージャスチェンジャーの欠点や自己への過小評価ばかりが浮かんでくる。そして彼の思考はここに行きついた。
(ジュールたちが来るまで、とにかく粘れば良い!!)
そう決断すると、イエローはホウセキアタッカーをソードモードに変形させた。そして勇ましく吼え、大剣を振り翳してスケイリーに突撃していく。勿論、ゴージャスチェンジャーを使用せずに。
「ぶっ倒れるのが怖くて使えねぇのか。頭、悪過ぎだな! 使わねぇ方が、よっぽど望み薄なのによぉ!」
スケイリーは杖の装具を輪宝貝に替え、攻撃パターンを変更。イエローの斬撃に、杖の打撃で対抗する手を選んだ。両者の武器は激しくぶつかり合い、甲高い金属音が一帯を包み込んだ。
次回へ続く!
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