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理系女と文系男/第11話;【ろみ夫】と【じゅり恵】

冬休み明けの実力テストの最終日、テスト終了後に文筆部はミーティングを開催した。
かなり複雑な事情があって、学校の近所にある、ケイのお祖母さんの家がミーティングの場に選ばれた。こんなことになった理由は、本当にいつか説明する。

それはともかく、私たちはテスト後の解放感と民家という寛げる雰囲気に負け、雑談を始めてしまった。
いや、それどころかケイがテレビゲームのセッティングまで始めてしまった。

「ねえ、何してんの?」

私もソファーから立ち、膝掛けに使っていたコートをソファーに置いて、作業するケイの隣にしゃがんだ。さっき「しゃがんだ時に見えた」と言われたこともあって、かなり慎重にしゃがんだ。
ケイは作業を続けながら、私の問に答えた。

「せっかく全員いるから、ちょっとやりたくなってな。このゲーム、多分まりかが好きなヤツだと思うんだ」

ケイの答に私は首を傾げた。だけどタケ君の方は心当たりがあったらしく、ケイの言葉を聞くとソファーから立ち上がってテレビの方に歩いて来た。

「あれか! 確かに、まりかは好きかもね」

タケ君はそのゲームを知っている様子だった。
こうなると、シュー君もテレビの方に歩いて来るのは半ば必然的だった。


私の家では電子ゲームの類は全て禁止されていたからやったことが無い。だから、「私が好きそう」と言われても、ピンと来なかった。

そんな私が好きそうだとケイやタケ君の言うゲームは、ロボットで対戦するゲームだった。
これだけなら、私の食指は動かなかっただろう。だけど確かに面白そうだと、私は思った。

「へぇー。自分で装備を選んで、自分だけのロボを作るんだね」

武器や装甲、エンジンなどロボの装備にはいろいろ選択肢があって、それを自分で選んでオルジナルロボを作り、それを戦わせるという内容だった。
自分でロボをカスタマイズするという点は、確かに私好みで面白いと思った。

因みにケイとタケ君はこのゲームの経験があって、既に二人が作ったロボはゲーム上に登録されていた。ケイのロボが【闘剛兵八郎】で、タケ君のロボが【ヘイヨー】という名前だった。
シュー君と私はこのゲームをやったことがなかったので、まず私たちのロボを作るところから始まった。

まずシュー君からロボを作った。

「まあ、やっぱり飛び道具は必須でしょう。無難にバルカン砲と…」

シュー君のカスタマイズは、攻撃力重視といった感じだった。そしてロボに【ろみ夫】と命名した。
次に私がロボを作った。

「シュー君が重火器タイプなら、私は斬撃タイプにしよう」

私は防御力をオミットして、機動力と接近戦特化のロボにした。理由は、武装のラインナップにあった電磁クローのデザインが気に入ったからだ。だから、これを生かしたロボにしたかった。それだけだった。

「名前は…シュー君のが【ろみ夫】なら、私のは【じゅり恵】にするか」

かくして、このゲーム初経験の私とシュー君のロボは完成した。


かくしてロボができたら、そのまま対戦が行われることになった。

「私、操作できる気がしないな。じゅり恵はケイが使ってくれる?」

という訳でじゅり恵はケイに託され、私は観戦する立場になった。
ゲームは二人までしか同時にプレイできないので、ゲームをしない二人の為にL字型に組まれた二つのソファーのうち、小さい方をテレビの近くに移動させて観覧席にした。

まず、シュー君が操作する【ろみ夫】とケイが操作する【じゅり恵】の対戦が行われたんだけど…。

「凄っ! じゅり恵、地味に強いぞ!」

よくわからないけど、じゅり恵は強かったらしい。ろみ夫の砲撃を持ち前の機動力で掻い潜り、懐に飛び込んで必殺の電磁クローを食らわす。距離を取られても、中距離なら電磁ワイヤーで攻撃。そんな感じで、【じゅり恵】は【ろみ夫】を撃破した。

「やったー! じゅり恵、大勝利!!」

私はパブリックビューイングで試合の中継を観ている人のように歓喜した。
対して、ろみ夫を倒されたシュー君は不服そうだった。

「いや、違う。これはロボの性能の差じゃなくて、使い手の腕の差だ。ケイ君はこのゲームをやり慣れてるけど、俺は初心者だ。まりかが相手だったら、じゅり恵を粉砕してた」

なんかシュー君は歓喜した私にそう言ってきた。私は上機嫌だったから、ちょっと調子に乗って高飛車な態度で対抗した。

「当たり前でしょ。私が操作したら、どんなロボでもクソザコになるよ。だけどさ、じゅり恵がケイやタケ君のロボにも勝てたらどうする? じゅり恵の性能、認める?」

そう私が言ったから、【じゅり恵】はタケ君が作った【ヘイヨー】と戦うこととなった。じゅり恵を操作するのはケイ、ヘイヨーを操作するのはタケ君だ。
そして結果は…。

「マジか!? じゅり恵、強くない!?」

じゅり恵はヘイヨーをも撃破した。
私がこの結果に歓喜していると、じゅり恵を操作していたケイが釘を刺してきた。

「初心者にしては大したものを作ったが、俺の【闘剛兵八郎】には勝てんぞ」

どうやらケイはこのゲームをやり込んでいて、闘剛兵八郎は研究に研究を重ねた自信作のようだった。そんな暇あったら勉強しろよ…というツッコミたくなるが、それはケイのご両親の役割。

「言うじゃん。なら、【じゅり恵】と【闘剛兵八郎】で戦おうか?」

私は自分が操作する訳でもないのに調子に乗っていた。

と言う訳で、じゅり恵は闘剛兵八郎と対戦することになった。闘剛兵八郎を操作するのはケイ、じゅり恵を操作するのはタケ君だ。
そして戦いの結果は…。

「あああーっ! じゅり恵がぁぁぁぁっ!!」

ケイの自信作である闘剛兵八郎の前に、じゅり恵は敗北した。私は衝撃の余り絶叫してしまった。

「さすがに負けんぞ。このゲーム、伊達にやり込んでないからな」

ケイは無闇に誇らし気だ。こうなると、私も謎に闘争心が湧いて来た。

「なんか見てたら、解ってきた。次はもっと強いロボを作る!」

もう私は二号機を作る気マンマンになっていた。そして、それはこの人も同じだ。

「俺も黙ってられるか! 次はまりかのロボを倒す!」

シュー君は、ろみ夫の雪辱に燃えていた。


もう私たちは、ゲームの二号ロボのことしか考えていなかった。私は【あなすたしあ】、シュー君は【ゲルググ孫文】をそれぞれ作った。そして自分では操作せず、【あなすたしあ】はケイに、【ゲルググ孫文】はタケ君に操作させて、完全な代理戦争を行わせた。その結果…。

「ほらー! 私のロボの方が強いー!!」

あなすたしあは、見事にゲルググ孫文を撃破した。シュー君は悔しがっていた。
なんだけど…。
次に、ケイの操作する【あなすたしあ】は、タケ君の操作する【ヘイヨー】に敗れてしまった。

「多分、じゅり恵の方が強かったかなぁ…」

と、タケ君は評価していた。私の作った【じゅり恵】の快進撃は、ビギナーズラックだったらしい。


バトルが一段落したところで、タイミング良くケイのお祖母さんが出前の寿司桶を持って来てくださって、ランチタイムとなった。

「まりかちゃんは烏賊と蝦が無理でしたよね? こちらをどうぞ」

お祖母さんは私専用にネタをピックアップしたお皿を、私に手渡してくださった。卵巻き、かっぱ巻き、納豆巻き、稲荷というラインナップだった。

「ありがとうございます!」

私の目は輝いた。
私がクソ安いネタのコラボに喜んでいる傍ら、男子三人は鮪やら帆立やらの握りを存分に楽しむのだった。


ところで……。これって、文筆部のミーティングだったんだよね?私たち、ただ遊んでただけじゃない?

全くその通り。この日、私たちはケイのお祖母さんの家で遊んだだけだった。
バカとしか言いようがない…。


余計かもしれないが、最後にこれを強調しておく。

彼らは一線を越えた行為はしなかった。
せいぜい、私のスカートの中がたまたま見えたら喜ぶ程度だった。

彼らは幼稚だったかもしれないけど、男子三人で私一人に襲い掛かるような外道ではなかった。本当にそのことはありがたかったと、今でも強く思っている。

この数か月後、高二になった時、私はそのありがたさを噛み締めることになるのだった。

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