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社員戦隊ホウセキ V・第2部/第5話;一難去ったと思ったら…。
前回
六月十二日の土曜日の昼頃、植埜公園に多数のウラームが出現した。
訳あって、たまたま営業部の掛鈴と共に植埜公園を目指していた十縷は、道中にその知らせを受けた。
十縷は掛鈴と別れ、そのまま一人で植埜公園へと向かった。時雨たちとも合流せず。
十縷はレッドに変身し、ブンシンジュに自分をコピーさせて戦闘の共とし、更に自身はゴージャスチェンジャーで強化形態になった。多数のウラームを単身で引き受ける為に。
ニクシムの目、そして仲間の心配も他所に、レッド・ゴージャスは戦闘を続ける。ウラームなら通常形態でも倒せるが、それでもレッドは戦闘の中で強化を実感していた。
(相手の動きが遅く感じる。そんなに力を入れなくても斬れる)
ゴージャスとなった今のレッドには、ウラームたちの動きが普段より遅く見えていた。だから相手に防御も攻撃も何もさせず、先手必勝で次々と斬撃を繰り出して、一体、また一体と確実に撃破していた。そして特に力を込めていなくても、斬撃はウラームの胴体を両断する程の威力を誇る。その戦いっぷりは、隣で戦う分身のレッドとは全く違った。
(感覚も研ぎ澄まされてる!)
目の前のウラームを斬り捨てた直後、レッドは後方に気配を感じた。臭いや熱量から、これがウラームだと察知したレッド。反射的に振り向くと共に、剣を持っていない左手から正拳突きを繰り出した。レッドの背後に迫っていたウラームは、鉈を大きく振り被っていて、胴体ががら空きだった。ここにレッドのパンチが叩き込まれる。
ウラームの体はこの一発で、数mもの距離を吹っ飛ばされた。そして、たまたまその先に居合わせた他二体のウラームに激突し、計三体のウラームがまとめて天を仰ぐ。
なぎ倒された三体のウラームたちに、分身のレッドがすかさず射撃を敢行する。軌道の曲がる赤い光弾が連射され、倒れた三体のウラームを襲う。三体のウラームは立ち上がる前にこれを食らい、完全に倒れ伏して泥と化した。
「ナイス、ブンシンジュ! さあ、残りも全部倒すぞ!!」
分身を引き連れ、本物のレッドはウラームを全て撃破するべく挑む。既にウラームは減っていたので、残っていたウラームを全て撃破するのに然して時間は掛からなかった。
レッドがウラームを全て倒した後で、ブルーたち四人がレッドの方へ駆けて来た。キャンピングカーは何処かに待たせているのだろう。レッドはブルーたちを気分よく出迎えた。
「お疲れ様です! もうウラームは全部倒しました! 次は、救急隊が来るまで怪我人の対応ですね!」
レッドは本当に機嫌が良く、いつに増して饒舌だ。対してブルーたちは、こんな彼に何を言うべきか困惑し、言葉が出ない。その間に、レッドは怪我人を探すべく周辺を見渡していた。そこで、彼は気付いた。
「あれゲジョーだ! レアな浴衣姿、超可愛い!!」
鋭くなった感覚で、レッドは群衆の中から青い浴衣を着たゲジョーを見つけ出した。その時、彼らにスマホを向けていたゲジョーは、レッドのこの反応に堪らず顔を歪めた。レッドの反応に不快感を示したのは、ゲジョーだけではない。
「何をアホなことを…! 確かに可愛いけど、食いつくな!!」
グリーンが真っ先に怒り、レッドの頭を叩こうとして手を振り上げた。堪らず、頭を抱えるレッド。しかし、グリーンの手がレッドに振るわれることはなかった。
「止めろ、グリーン。この前と同じことになるぞ」
ブルーが横から手を伸ばし、グリーンの手を掴んで止めた。止められたグリーンは、すぐに堪らず息を呑んだ。ブルーが感知したものに自分も気付いて…。
「ごめんなさい。思わず普段のノリで……」
縮こまって、ブルーに頭を下げるグリーン。レッドはこの展開の理由が解からず、首を傾げる。そんな彼にマゼンタが近寄るや彼の両肩を掴み、横に向けた顔をレッドの口の辺りに近付けてきた。
マゼンタの行為に思わずレッドは息が止まりそうになったが、もちろんマゼンタに彼を誘惑しようとする意識など無い。
「早くゴージャスチェンジャーをお外しください。息遣いが荒過ぎます。そろそろ限界ですわよ」
言われて、レッドは気付いた。実は猛烈に息苦しいということに。気付いたら、視界もボケている。先まで興奮していたからか気付かなかったが、体は確実に疲弊していた。そして、仲間たちはそれに気付いていたという次第である。
少し離れた位置にいたゲジョーは、レッドたちのやり取りを撮影した後、群衆に紛れて姿を消した。
レッドはゴージャスチェンジャーを外した後、小物に戻ったブンシンジュと共にマゼンタによってキャンピングカーの中に連れて行かれた。そこでレッドは完全に変身を解く。
既に顔は汗まみれで、蒼白くなっている印象すらあった。
「二つのイマージュエルの力を受けることが体に与える負担は、かなり大きいようですわね。ゴージャスチェンジャーは両刃の剣ですから、多用されない方が賢明でしょう」
マゼンタはピンクゴールドのヒーリングを装着し、疲弊した十縷に光を浴びせる。暫く光を浴びていたら十縷の顔色は平常に戻り、息遣いも荒くなくなる。回復しつつある十縷は、マゼンタの言葉に対して「はい」としか言えなかった。
「もう暫く、ここで休んでいてください。これから私は怪我人の対応に当たりますので、後は光里ちゃんと交代します」
マゼンタはそう言って、キャンピングカーを後にする。マゼンタが降りる間際に言った「喜び過ぎたら駄目ですわよ」という言葉にも、そもそも彼女が任務中なのに先から光里を色でなく名前で呼んでいることにも、十縷はツッコむ気力が無かった。
(ゴージャスチェンジャーが危ないってこと忘れてた…。皆が来る前に倒れてたら、確実に殺されてた…)
自身の軽率さを悔い、十縷は落ち込む。そこに、マゼンタが告げた通りグリーンが車内に姿を見せた。十縷は一応という感じで、そちらに目だけは向けた。
「あんたの容態が急変するかもしれないから、診てろって言われた。まあ、怪我人の対応はお姐さんしかできないからね」
そう言いながら変身を解き、素顔を見せた光里。落ち込む十縷の向かいに座った。
「その様子だと、反省はしてるみたいだね」
十縷の表情から、光里はそう察した。十縷は静かに頷く。
「少しでも犠牲者が減るように、さっさとウラームを全部やっつけようと思ってゴージャスチェンジャーを使ったけど…。皆さんが来る前に倒れてたら、本当に危なかった。迷惑掛けてごめん」
俯いたまま、十縷はそう呟いた。これに対して光里は苦笑いか安堵したのか、何とも判別のつかない表情を見せる。
「自分が強くなったとか、調子に乗った訳じゃないなら良いよ。それと、何がいけないのか理解してるみたいだし」
随分と優しい言葉を掛けた光里。ふと椅子を降り、十縷に近付いて床にしゃがみ、低い位置から俯いた十縷と視線を合わせた。
「落ち込まないで。こっちまで落ち込んじゃうじゃん。元気出しなよ。さっきのゲジョーでも思い出してさ。浴衣着たあの子、本当に可愛かったよね」
十縷を励まそうとしつつ、妙なことを口走る光里。言われるままに先程見たゲジョーを思い出し、十縷の顔はニヤつけてしまう。光里はこれを狙っていた。
「本当にエモい。でも単純だから楽だわ」
安堵して微笑む光里。十縷の方は「そっちが思い出させたんじゃん」と反論したが、顔は微笑んでいた。何故か知らないが、場の雰囲気は急速に和んだ。
すると、この時を見計らっていたかのように、ふとジュエルメンのOPが車内に響いた。十縷のスマホの着信音だ。十縷は慌ててこれに応じる。
『ジュール君。ニュースで見たけど、怪物はもう倒したの? 怪我は無い?』
誰かと思えば、掛鈴だった。彼の声を聞くと、十縷の心境は戦場から平常に戻る。
「ご心配、ありがとうございます。お蔭様で怪我は無いし、怪物も全部倒せましたよ。掛鈴さんの方こそ、あの後大丈夫でしたか?」
すっかり肩の力を抜いた十縷。ところで、掛鈴はどうして架電してきたのか?
『近くに神明さん、居る? 電話に出られるなら、代わって欲しいんだけど…』
なんと、掛鈴は光里を指名してきた。予想外の発言に十縷は驚き、指名された光里に目を向けた。光里は割と不機嫌そうな顔をしていた。十縷が名を出したので、通話相手は掛鈴だと既に気付いているらしい。そんな光里に、十縷は恐る恐る言った。
「あの、掛鈴さんなんだけど…。光里ちゃんと話したいって…」
十縷は猛烈な恐怖を感じていた。そんな十縷に光里は不自然な笑顔で「良いよ」と告げた。
かくして、十縷のスマホは光里に手渡される。
「こんにちは、掛鈴さん。神明です。私に何の用事があるんですか? そもそも今日、短距離走部の練習に来ていらっしゃらなかったですね」
十縷に見えるのは怒りを滲ませながら喋る光里の姿のみだが、電話の向こうで怯える掛鈴の姿も見えるような気がした。
(光里ちゃん、昨日のこと知ってるんだ。副社長が言ったのか? うわー! かなり怒ってるよ!!)
十縷は光里の喋り方に震撼する。独特な怖さが狭い車内を満たす中、通話は続く。
『ごめん…! いろいろごめん! 言わなきゃいけないことがあって…。この後、時間貰っても良いかな? 会って話したい…』
掛鈴は思い切って、光里と会う約束を切り出した。光里は二つ返事で「良いですよ」と答えた。
それから二人は暫く話し合った後、電話を切った。通話時間は三十秒程度だったが、十縷には何時間にも思えた。
通話を終えた光里は十縷にスマホを返却し、訊いた。
「ねえ。調子が良くなったなら、サイドカー出してくれる? 連れてって欲しい所があるんだけど」
光里が掛鈴に何を言いたいのか、説明を受けなくても理解できた。そして、十縷にこれを断る度胸は無かった。
次回へ続く!
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