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社員戦隊ホウセキ V・第2部/第6話;理解、和解、不可解

前回


 六月十二日の土曜日の昼頃、植埜うえの公園に多数のウラームが出現した。

 戦闘自体は長引くことなく、簡単に片付いたが…。

 戦闘の後、十縷とおるのスマホに架電があった。掛鈴かけすずからだ。
 掛鈴は光里ひかりと話したいと言い出し、光里はこれを了解したが…。

 十縷は不穏な気配を感じ、軽く怯えていた。




 救急隊が来ると、ホウセキVの面々は現場を後にする。その際に、光里は掛鈴の件を時雨しぐれ伊禰いねに伝えた。二人とも何があったのかは知らないが、光里が僅かな怒りを醸し出していたので、良い話でないことは察することができた。
 伊禰はゴージャスチェンジャーで疲弊した十縷に運転させることに少し不安を覚えたが、前回よりも変身時間が短く症状も軽快と判断し、光里の申し出を承認した。

(光里ちゃんをサイドカーに乗せるの二度目。だけど一度目も二度目も、どうして雰囲気が悪いんだよ!!)

 サイドカーを駆る十縷。左を見れば側車に光里が乗っているが、顔が明らかに不機嫌なので全く喜べない。
    思えば初めてサイドカーに光里を乗せた時、光里は落ち込んでいた上に途中でいきなり泣き出した。そして今回は怒っている。

    もっとウキウキするようなシチュエーションで光里を乗せられないのか? そのことを十縷は嘆いた。


 サイドカーを走らせること約十分、閑静な住宅街の一角にある小さな喫茶店に到着した。サイドカーは店の近くのコインパーキングに止め、二人は店内に入った。

 店内では既に掛鈴が四人掛けのテーブル席をキープしていて、二人が来店するや手を振って呼び寄せた。しかしながら十縷はともかく、光里が近づいてくると掛鈴の顔が明確に沈むのが判った。
 十縷と光里は掛鈴の居るテーブルに来て、二人で彼と対面する形で座った。掛鈴と十縷は申し訳なさそうで、光里は怒り気味。嫌な雰囲気で話は始まった。

(どうしよう。こっちから呼び出したが、何て言えば…)

 何かを決意した掛鈴だが、いざ光里を前にすると言葉が出なかった。だから、光里の方から単刀直入に切り出した。

「今日の練習、どうして来なかったんですか? なんて、まどろっこしい聞き方はやっぱめよう。副社長から昨日の話は聞きました。私、怒ってますからね」

 店内に他の客も居ることを気にしてか、詳細は語らなかった光里。それでも「副社長から聞いた」の一言で、掛鈴も十縷も何の話かは充分に理解できた。

「本当にごめん! 検索してたら、たまたま見つけて…。気付いたら釘付けになってて…。調子に乗り過ぎた! 本当にごめん!!」

 掛鈴は謝るしかできなかった。対する光里の表情は変わらない。

「そんなの会社で見てたら、他の人に気付かれてこういうことになるって、考えなかったんですか? そもそも私じゃなくても、そういう画像を会社で見るって、どういう神経してるんですか?」

 光里は正論で責め立てる。掛鈴は特に弁明せず、ひたすら頭を下げていた。すると十縷が、ここに来て口を開いた。

「あの…。実は昨日、この件について掛鈴さんから相談受けてて、僕も知ってたんだよね。掛鈴さんが会社でそれを見てたの、営業成績が振るわなくて落ち込んでる人を元気にしようって思ったからで……」

 謝るだけの掛鈴が代わりに、十縷が弁明をした。しかし、この内容は光里を納得させるには不充分、というかむしろ逆効果だった。

「は? 葦田あしださんのこと? それが会社で見てた理由? エッチな画像を見たら、営業が上手くいく訳? ふざけないで。励まし方なら、他にいろいろあるでしょう? 今の聞いて、余計に腹立ったわ」

 怒りの余り、光里はこれまで伏せていた語句を明言してしまった。これには十縷が周囲を警戒した。幸い、誰もこちらを見なかったので十縷は安堵したが、最大の問題は解消していない。どうすれば、掛鈴は光里に許して貰えるのか?

「確かに、会社で見た理由はジュール君が言った通りで、俺も最初はそういう意図で葦田さんに見せたけど…。やっぱ間違ってたと思う。神明しんめいさんの言う通りだよ。励まし方なら、法の方法を考えるべきだった。あれでその場は盛り上がったけど、何の解決にもならない。それに、危険な任務に身を投じてる君たちを腐すような行為だった。本当に100%俺が悪かった」

 掛鈴は素直に謝った。ところで掛鈴も一杯一杯なのか、周囲を気にせず専門用語がうっかり出そうな雰囲気だ。十縷はそれが気になったが、光里と掛鈴は無頓着のようだ。
 ところで光里だが、掛鈴の真摯な姿勢に心が少し動いたのだろうか? 表情から怒りが少し薄れた。そんな中、掛鈴は語り続ける。

「今日、ジュール君が出動するのを見送ったけど、後で不安になったんだ。大怪我しないだろうかとか、ちゃんと帰って来れるだろうかとか…。今まで深く考えてなかったけど、君たちは凄く危険なことをしてる。現に君は、この前の戦いで危険な目に遭ったのに…。本当に浅はかだった」

 掛鈴は深く頭を下げ、己の軽率さをひたすら詫びた。
 九本木きゅうほんぎにウラームが出現した時には、今回のようなことを思わなかった。彼は昨日までの、浅はかで愚かなそれを恥じていた。その話を聞いて、光里の表情は入店した時とは完全に変わった。

「今日、私と顔合わせるのが気まずいから、練習サボってジュールと遊びに行ったんですよね? 次、そんなことしたら、今度こそ本気で怒りますからね。今度の練習は、必ず顔出してください」

 そう言った光里の目には涙が溜まっているのか、輝きが増して見えた。そして、喋っているうちに言葉に嗚咽が混じってきた。光里の言葉と表情に、掛鈴は思わず目を輝かせて「許してくれるの?」と問う。これに対して、光里は首を縦に振った。

「何がいけなかったのか解かったなら、もう怒る理由なんてありません」

 相手が自分の行為を悔いたなら、光里はその人物を許す。以前、ゲジョーがリヨモを罵った時もそうだった。くだらないながら泥沼化するかと思われたこの問題だったが、意外にあっさりと解決した。

(良かったー! なんか、酷く綺麗に治まった! 光里ちゃん、やっぱ優しい! んでもって、周りの人があんまり反応しなくて良かったー!)

    事なきを得たことに、十縷は心の中で両腕を伸ばして喜んだ。

     三人が注文したコーヒーや紅茶が席に運ばれてきたのは、それから暫くしてからだった。


 変な騒動は平穏に幕を引いた。十縷たちは三人とも会社近くの寮に住んでいるので同じ帰路を往くのだが、一つ問題があった。

「サイドカーって二人までしか乗れないよね? 私か掛鈴さんか、どっちか電車だね」

 店を出た後、光里は唐突にそんなことを言った。この発言を想定していなかったのか、二人とも少し驚いていた。

(バイクの方に二人乗りすれば、三人乗れるんだけど…)

 と思った十縷だが、彼がそれを肉声にする前に掛鈴が言った。

「俺、この後ちょっと用事があってすぐには帰らないから。二人で乗っていきなよ」

 何の用事だ? とは誰もツッコまなかった。光里は「そうですか」と簡素に返し、十縷は露骨に喜びを表情に出す。

(えーっ! 掛鈴さん、まさかの気遣い!? 最高なんですけど!!)

 そんな十縷の表情を見て掛鈴は思った。

(ジュール君の反応は当然だとして…。神明さんはどういうつもりであんなことを言ったんだ? 俺と一緒に居たくないなら、一人で電車に乗る手もアリだ。だったら、ジュール君と二人っきりになりたくて、そんなことを言った? そうなら、伊勢いせが思ってるよりこの二人は進展してるぞ! 頑張れ、ジュール君!!)

 掛鈴は変な想像をして愉しみ、十縷に目で声援を送った。喜ぶ十縷も、視線でこれに応える。
    光里は別れの挨拶をそこそこに、掛鈴とのアイコンタクトにかまける十縷を引っ張り、コインパーキングへと連れて行った。


「掛鈴さんには悪いけど、練習サボった罰って名目にするか」

 コインパーキングに着いてサイドカーに乗る際、メットを被りながら光里はそんなことを言った。十縷はその真意を読みかねたので、質問した。

「どうして二人しか乗れないとか言い出したの?」

 この問を受けた光里は、驚いた様子で目を見開いた。

「どうしてもこうしても、二人しか乗れないじゃん」

 どうやら光里には、バイクの方に二人乗りするという発想が本当に無かったらしい。掛鈴の想像とは違ったようだ。そして光里は更に残念な発言をする。

「私が電車に乗っても良かったんだけど、電車代が惜しくてさ…。多分、今なら掛鈴さんは私に譲ってくれると思って」

 光里は電車代をケチる目的で十縷のサイドカーで帰りたいという雰囲気を出したのであり、十縷と二人っきりになりたいのではなかったようだ。
    ここに来て、不思議な悪女っぷりを見せた光里。十縷は心の中で号泣した。

(やっぱりワットさんの言った通り、僕らは単なる同僚でしかないのか!? 彼氏と彼女ではない? 光里ちゃんは僕をそう認識してない?)

 少し残念な雰囲気の中、十縷はサイドカーを出した。

 ところで十縷は、ショックの余り気付けなかった。この直後、光里は駐車料金の半額を自ら出したことに。電車代をケチったのにだ。

    光里の言動には一貫性が無く、彼女の真意は改めて読めない…。
    などと考える精神的余裕は、この時の十縷には無かった。


次回へ続く!


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