【読んでみた】人は顔を見れば99%わかる フランス発・相貌心理学入門(佐藤ブゾン貴子 河出新書)

 世界で十五人しかいない(そして日本には著者しかいない)という相貌心理学の教授が相貌心理学の実践について解説している本。著者曰く、これから国際化を迎えるにあたり、外国人と意思疎通を図らなくてはならない場面に直面した際、相貌心理学で相手がどんな人なのかを分析し、そのタイプに合った対応をすることで、より円滑なコミュニケーションを図ることができるようになる、とのこと。
 内容は非常に具体的で、例えば「目と目の間が広い人は好奇心が旺盛」などの事例が沢山並んでおり、それらをもとに、自分や身近な人たちがどんな特徴を持っているのかを分析することができる。

 正直言ってハマらなかった。確かに、身近な人の顔を思い浮かべながら「ああ、そう言われてみたらあの人ってそういうところがあるかも」と思ってみたり、鏡を見ながら「そうね、私ってそういうタイプかもね」などと納得する面白さはあったのだけれど、読み終えても残るものがあまりなかった。

 ただ、それはおそらくこの本のせいではない。本書はあくまで実用編であり、上記のような楽しみ方をするのが目的だからだ。しかし私は「相貌心理学とはいったいどんな学問なのか」を知りたくてこの本を手に取った。おそらくはそのミスマッチがハマらなかった原因だと思う。

 相貌心理学という学問は、1937年にフランスの精神科医が作ったとのことなので、それなりに歴史は長いようだ。本書の中に「一億人以上の顔分析データの集約をもって理論を体系化し続けている」と記されているので、おそらくは(ものすごくざっくり言うと)統計学の一種なのだと思われる。

 自分でも「そういうところが私のモテないゆえんである」という自覚はあるのだが、正直なところ、学問としてちょっと弱いような印象を持ってしまった。読み終わっても「新しいことを学んだぞ」という感触がなくて、あれ、この読後感って何かに似ているな、なんだっけと考えているうちにそれが「占いの本」であることに気が付いた。そう、なんだか占いの本を読んでいるみたいなのだ。

 本書の名誉のために付け加えておくが、内容が「当たるも八卦当たらぬも八卦」的だということではない。分析内容は「確かに」と頷くことが多く、本気で活用したら結構役に立つだろうと思う(ただ、見るポイントが多いので、本書をこっそり持ち歩いて、人がいないところでそっと確認するといった工夫は必要になるだろうが)。でもいかんせん、あまり「学問的」な匂いがしないのだ。「目と目の間が広い人は好奇心が旺盛」という事例が出ても、そもそも「相貌心理学」がどんな考えに基づいてその答えを導き出したのかが全く見えず、それが「根拠が薄い」=「占いみたい」という印象を生み出しているのだと思う。

 先に訳知り顔で「おそらくは統計学の一種だと思う」などと述べたが、「相貌心理学」はおそらく多くの人の顔分析と、彼らの性質を見抜くための心理テスト的なものの統計で成り立っているのだろうと思われる。しかし、「統計で成り立つ学問は時代や被験者の国の文化等に大きく影響を受けるため、不変の理論が生まれにくい」的な意地悪を学生の時に聞いたことがある私からすると、「うーんでもこれ、学問というよりももっとカジュアルな感じなんじゃない? 」などと感じてしまうのだ。うん、こういうところだよね私がモテない理由。

 本書は「相貌心理学」という聞きなれない学問を分かりやすく紹介し、興味を持ってもらうことが著者の目的だと思うので、「占い」的な手軽さで読むのをお勧めします。逆に「相貌心理学ってどんな学問なのかを知りたい」という方にはあまりお勧めはしません。私のような「たまにインテリぶっちゃう非モテ」みたいな人には、きっともっと学問を掘り下げた本があるのだと思います。ただ、じゃあ私が次にそっちに手を出すかと問われたら、「もう相貌心理学はいいや」というのが正直な感想です。おそらく単純にあまり自分にはハマらなかったんだと思います。

 ただ、もし私が自宅ではなく職場やカフェなど、ある程度人が集まる場所でこの本のページをめくっていれば、身近な人の顔を分析しながら読み進める、という楽しさがあったと思うので、印象は変わっていたかもしれません。いずれにせよ、良くも悪くも軽い気持ちで読むのがおすすめです。

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