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手塚治虫の「MW」を読んだ感想
手塚治虫のBL漫画ということで読んでみました。
結城美知夫という登場人物が男女ともに狂わせる稀代の悪党として登場します。その美知夫と肉体関係にあり、美知夫の犯罪に巻き込まれ罪を犯してしまう神父に賀来巌がいます。
二人は少年時代に沖ノ真船島で出会い、賀来が美知夫を凌辱します。その後、島では毒ガスがばらまかれ、二人以外の島民は全滅してしまいます。二人の関係性は逆転し、美知夫は毒ガスの後遺症で人格が狂暴にかわってしまい、数々の犯罪をその冷徹さでこなしていきます。余命いくばくもない身であり、自分が死ぬのなら、日本が隠し持っている毒ガスMWをこの手に入れ、世界中にばらまいて世界をコントロールしようと画策します。
それを神父となって悔い改めた賀来が止めようとします。
実写映画では、BL表現はなく、物語が進んでいくそうです。二人が恋愛関係でないと物語の根幹がぶれると思います。二人の関係は共依存的であり、切っても切れない間柄で、賀来が先に美知夫を征服していますが、美知夫は美知夫で肉体で賀来に迫り、賀来を悪の道に引き釣り込みます。
最後のある登場人物のニヤリとした笑顔まで、物語は続いていき、毒ガスMWは世界にどのような影響を与えたのか謎が残ったままでした。
手塚治虫氏は実際に起きた事件をもとに物語を転換していく名手だと思います。今、この物語を発表するといろいろな規制があり、難しいと思いますが、冒頭で子どもを殺してしまうなどの非道の限りを行う主人公の美知夫は、子どもの頃に追ったキズの復讐をするかのように人類の脅威になりさがります。
男女とはとわず、肉体をもって人々を篭絡していく美知夫に同情心はわかないのですが、悪魔的な魅力を感じてしまう読者は多くいるでしょう。
1970年代に書かれた本作品は古びることなく、現代にも通じるテーマを貫いており、人間の非道さ、残虐性をここまで描き切った作品は類をみないと思います。
手塚治虫は数々の作品を残していますが、幾多のスランプをこえ、こうして最高傑作を生みだしてきたバイタリティーはどこから生まれてくるのか不思議に思います。
願わくはもっと長生きして、老齢期の手塚作品をもっと読みたかったなと思います。
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