『がんになってわかったお金と人生の本質』月1読書感想文 8月
『がんになってわかったお金と人生の本質』 山崎元 2024年朝日新聞出版
経済評論家として数多くの講演や著作を発表している著者だが、そう言えば最近見かけないなーと思っていた所に、書店に並んだ新刊であった本書を見掛けて驚いた。
自分も昨年癌が見つかり、幸いな事に早期の発見のため手術もその後の治療も順調だと思う。
己の状況もあって本書を手に取った。
癌検診について
著者は癌検診に消極的だったという。
時々聞くことがある癌検診は不要説。
早期発見を目的とした検診が死亡率を下げているという信頼できるエビデンスはない。
検査には放射線被曝や内視鏡による消化管の傷などマイナスな面がある。
早期発見しても治らないものもあり、また症状が出てからでも間に合うものもある。
こんな感じだ。
著者はこれを自分に都合の良い部分だけを採用してしまった、とある。
わたしは医学的な知識がある訳ではないので、これが科学的に正しいのかは判断出来ないが、癌患者という自分の立場からの感想は『検査で早期発見出来て良かった』これは声を大にして言える。
時間もメンタルも金銭的にも、ステージが進んでしまった場合と比較して余裕があるのは間違いないと思う。
癌保険は不要?
また、癌保険は不要という章もある。
きちんと貯蓄しておけば、国民健康保険と高額医療制度で十分に乗り切れる。
結果、長年払い続ける掛け金よりも少額で済む、という内容だ。
これも、人により状況は異なると思うので、その人による正解は違うだろう。
わたしはと言えば、若めで罹患したため、掛け金はさほど高額にはなっておらず、結果的にプラスという、何と判断すれば良いのか。皮肉な結果になっている。
また、著者による加入していい保険の条件の記載もある。
情報の取捨選択
その中でも「ああ、そうだよねー」と頷いたのは、『情報を、拾うか、捨てるか』の章である。
「これが効いた」とか「これで完治した」という情報は患者にとって、何よりも魅力的であり、藁にも縋る思いで全部試してみたくなる。
しかし情報が嘘ではないとしても、その効いたモノはその人に効いたのであって、自分に効くのかは不明だ。
10人の癌患者がいれば、10通りの癌の種類があるとは、よく言われる。
期待して試して失望して、を繰り返すには患者の体力もメンタルも時間も限りがある。
本書では国立がん研究センターのホームページや診療ガイドラインを紹介されている。
数多ある情報に疲れ切る前に、一番基本的な情報に慣れるのがまず重要だと思う。
罹患したからこそ、前向きな計画を
身の回りの整理(物欲が強い著者は物が多かったようだが、本当に必要な物は少なかったらしい)や仕事の見直し、会いたい人だけに会う、住処をシンプルにするなど、病気を得た事による著者の前向きな計画が紹介されている。
その他、葬儀やお墓、相続に関しての見直しも綴られている。
人生は有限だと、強く意識したからこその行動である。
当初2年程度の時間があると見積もっていたのだが、残念ながら再発により残された時間は半年程度となってしまう。
残り時間が大幅に短くなってしまうと、著者はまたそれに合わせた前向きな計画を立て直す。
最後に
最後に著者は「幸せになるには、他人に好かれるような人になるのが近道だ」と平凡とする結論を出している。
人は他人から認められる事により、己の存在を確認するからである。
『他人はその人を過去の業績その他で評価しようとするかも知れない。
いくら努力しても過去の蓄積を「本人」は将来に持ち込むことはできない』
初めに読んだ時、理解が出来ず「?」となったが、わたしなりの解釈では、
この瞬間も過去になっていく今の自分は、残された人たちが思い出し「こういう人だったよね」と思い出される自分。
残された時間を前を向いて進む自分は、過去を抱えて立ち止まってはいられないし、ましてや過去のプラスもマイナスも最期の限られた時間では何かの役に立つ訳でもない。
不必要な過去は潔く置いて行く。
最後に著者はこう書いている。
『過去は「他人」のもの、最期の1日は「本人」のものだ。
お互いに機嫌良く過ごす上で邪魔になるものは何もない。
上機嫌なら全て良し、と思うのがいかがだろう』
『最期の日のぎりぎりまで幸福は追求できる』
帯に大きく記された言葉だ。
今日が残り少ない最期の数日だとしたら、自分は何をするだろう。考えさせられた。
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