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ki_ki5642
息子の歯ブラシ
洗面台の掃除をしていた時のこと。
ふと、緑色の歯ブラシが目に入った。
それは息子が泊まりに来た時に使っていたものだ。
最後に息子が泊まりに来たのは、もう一年近く前のこと。
あの日から、息子は一度も泊まりに来ていない。
おそらく、もう泊まりに来ることはないだろう。
そう思うと、この歯ブラシを処分するべきだと分かっていた。
分かってはいたんだけど、いざ手に取ると、どうしても捨てることができなかった。
もう来ないと頭では分かっている。
でも、心のどこかで「もしかしたら」と思うと捨てられない。
結局、その歯ブラシは、また歯ブラシスタンドに戻した。
歯ブラシなんて安いんだから、また買えばいいだけの話なのに。
捨てられない自分がいる。
実家に置きっぱなしの自分の洗面用具や、祖母の家に置かれたままの少年雑誌と虫とり網とカゴ。
昔は理解できなかったけれど、母や祖母の気持ちが、今の自分には少し分かる気がする。
男ですけど何か。
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しあげはおとーさん。
なんて、よく言ってたっけなぁ。