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息子の歯ブラシ


洗面台の掃除をしていた時のこと。


ふと、緑色の歯ブラシが目に入った。


それは息子が泊まりに来た時に使っていたものだ。


最後に息子が泊まりに来たのは、もう一年近く前のこと。


あの日から、息子は一度も泊まりに来ていない。


おそらく、もう泊まりに来ることはないだろう。


そう思うと、この歯ブラシを処分するべきだと分かっていた。


分かってはいたんだけど、いざ手に取ると、どうしても捨てることができなかった。


もう来ないと頭では分かっている。


でも、心のどこかで「もしかしたら」と思うと捨てられない。


結局、その歯ブラシは、また歯ブラシスタンドに戻した。


歯ブラシなんて安いんだから、また買えばいいだけの話なのに。


捨てられない自分がいる。







実家に置きっぱなしの自分の洗面用具や、祖母の家に置かれたままの少年雑誌と虫とり網とカゴ。


昔は理解できなかったけれど、母や祖母の気持ちが、今の自分には少し分かる気がする。


男ですけど何か。




しあげはおとーさん。

なんて、よく言ってたっけなぁ。

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