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2024年11月の記事一覧

剣 19

剣 19

さてもさてさて

悟りを開いた大沢美好。とは言うものの、意固地に張っていた無駄な意地を捨てただけなのですが、、、

いよいよ玉千鳥との対決の時は迫っております。
その行く末は如何に。

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身体を冷やしてくれていた夜風に熱が通った気がする。
美好はその感覚を信じて、団子屋の閉められた戸に背をピタリと貼り付けた。

熱は通りの向い側からと思えた。仮にこ

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剣 18

剣 18

さてもさてさて

その夜を迎えております大沢美好は、居酒屋にて酒を飲んでおります。これから命のやり取りに向かう身としては、末期の酒といったところでしょうか。

それでも酒は一本きり、大根と卵を食べると店を後にしていきます。まだ亥の刻には多少の間がありますが、辺りの店はとうに閉まり、人通りも疎らとなってきております。

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(夜風が気持ちいい。)

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剣 17

剣 17

さてもさてさて

皆川良源の診察所で玉千鳥について尋ねる大沢美好であります。しかし何故、急にここを訪れたのでしょう。
朴訥に見える美好ですが、果たして本当にそれだけでありましょうか。まあ、あまり期待は出来ないでしょうが。

対する皆川良源は何やら目を細めている様子。

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「実は私、玉千鳥に狙われております。」

美好は真っ直ぐに言う。

「玉千鳥に

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剣 16

剣 16

さてもさてさて

ここだけの話、大沢美好は実は泣きそうだったのです。
虚勢を張り肩を怒らせた以上、引くに引けない。
ただそれだけを困っていたのです。

辻斬りの真似事さえ実は真似事に過ぎず。もしあの場に玉千鳥が現れなくとも、美好には人は斬れなかった事でしょう。酔って正気の無い者に唾を吐き掛けるのが関の山だったのです。

(実際の戦さ場は、怖かったんだなあ。)

美好があの夜に心底思った事でありまし

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剣 15

剣 15

さてもさてさて

玉千鳥からのお誘いを受けた大沢美好であります。
一度戻り、暮六つ(大体18時)前にまた現れて、亥の刻(大体22時)を待とうかと考えます。

しかし、戻る?

屋敷に戻った所で落ち着きはしない美好の足は、意図せずつい先程後にした神代兵馬の道場へと向かっておりました。

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道場では数人の門弟が木刀を振っている様子だった。
それを師•神

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剣 14

剣 14

さてもさてさて

いつ玉千鳥と呼ばれる殺し屋が、自分の前に現れるのか?それを考え何としても斬ってみせると、どれ程残されたか分からぬ時を過ごす大沢美好。絵空事が現実になった今、自ずとその足が地に着いてきております。

しかし、そんな充実とも言える日々がずっと続く訳はありませんでした。

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美好がその大店の通りを抜けようとした時、耳元に声が届いた。

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剣 13

剣 13

さてもさてさて

幾日かの時が過ぎております。大沢美好の元に怪し気な輩が現れる事は、まだ有りませんでした。
美好はこれを好機と捉え、連日、神代道場へと来ております。そこで延々と木刀を振り、帰れば真剣を振っておりました。その目は何者かの姿を見据えているかの様であります。

そして本日は、師である神代兵馬が直々に相手をしようと申し出てくれた様子。

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剣 12

剣 12

さてもさてさて

師である神代兵馬に言われた言葉に憤りを隠せない、大沢美好であります。それには美好が置かれた現実も関わりがあるようです。

しばしその姿を追ってみましょうか。

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道場を後にした大沢美好は、来た道を同じ様に帰った。
木々の騒めきを見上げ、賑わう店先を覗き、人の波を歩いた。

己を見る他人の目。

美好は師に言われた言葉を感じてみよう

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剣 11

剣 11

さてもさてさて

意気揚々と師である神代兵馬に会いに来た大沢美好。
その腕を褒められる事を期待していたのですが、何やら師より問い掛けられております。

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「分からぬか。分からぬであろうな。」

「申し訳御座いません。御教え頂きたく。」

「今の世に本来の剣を呼び戻す事は出来ぬ。」

「何と!?」

古流実践剣を教える師からの意外な言葉に、美好は驚き

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剣 10

剣 10

さてもさてさて

己が出会った者が玉千鳥という殺しを商売にする連中だと知った大沢美好。武士こそは命のやり取りの中に生きる者という思想を刺激されております。
そんな商売があるのなら、戦さ無き世に身を置くべき場所は、、、

意気揚々とする気持ちを抑え、皆川良源の診療所を後にしております。

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(昨夜の話はもう広まっているという。俺の事も知れ渡
 ったか

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剣 9

剣 9

さてもさてさて

謎の刺客と出会った大沢美好は、その男の言葉に心を奪われております。
戦さが無くなり久しい今の世に、武を持って商売とする者がいる。その中に身を置けば、武士としての本来の生き方が出来るのかもしれない。
相手が自分を殺さずに仲間に誘ってきたのは、あの土壇場でも上手く立ち振る舞えたに違いない。

そんな思いが、これまでの己の努力が報われたという感触を持ち上げるのは無理もない事かもしれませ

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剣 8

剣 8

さてもさてさて

大沢美好が刺客と出会ったその後は。
侍が出てきた船宿の裏門を叩き、奉行所へと使いを走らせました。

夜の川風に誘われて歩いていたら賊を見かけ揉み合いの末逃げられたと、己のやろうとした事はキッパリ棚に上げておりました。

その翌朝。

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「流石は俺の弟よ。次男とはいえ武士の気概を忘れぬ姿
 が、この様に知らしめられるとは。」

兄は

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剣 7

剣 7

さてもさてさて

時代の流れに逆らうが如く、自分だって人を斬れると意気込んでみせた大沢美好。いやそれとて言い訳に過ぎません。己が不憫はこの立派に斬れる腕を示めす場が無いからだと、言ってみたかったのでしょう。

そんな美好が今、その首筋を裂かれんとしております。

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(あ!)

そう思った美好は、その後の事を意図してやったつもりはなかった。
首の後ろ

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剣 6

剣 6

さてもさてさて

人を斬ってやろうなどと大層宜しくもない思い込みで夜に繰り出した大沢美好。まさか自分が命の危機に直面するとは露ほども思っていなかった次第。
頭の中だけで考える事が上手く運んだとしても、厳しい現実はそれを受け止めてくれるとは限りません。

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(受けてから払う。まずは我が身だ。)

そう思いを決めた時、美好の頭に疑問が浮かんできた。

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