忘れた【強く生きる言葉】
覚めたとき わたしにはわからない
夢のなかで みたと思った色が
色そのものであったのか
それとも ただ ”色の記憶”であるのか
赤なら 赤
といふことばによって ふりかへる
するともう 赤はない
そして 今
わたしには わからない
持ったと思ったものが
生活 そのものであったのか
さまざまの色の断片に ちりばめられた
ただ 生活の 記憶であるのか
夕やけのガラスは オレンジ色だと思った
シャワーの水しぶきは ダイヤモンド色だと
思った そのことだけが のこってゐて
水しぶきも ガラスも のこってゐない 今
『忘れた』
吉原幸子