秋の夜「極悪女王」に感涙す
Netflixで9月19日から配信されているドラマ「極悪女王」を観た。
1980年代に女子プロレス旋風を巻き起こした稀代の悪役レスラー、ダンプ松本の半生を描いた全5話の作品。
元々、特に観るつもりはなかったのだが、当時熱狂的な女子プロレスファンだったし、ちょっとのぞいてみるかなと軽い気持ちで観始めたら、止まらなくなってしまった。
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女子プロレスというショービジネスのえげつない裏側や、複雑な人間関係が渦巻く痛みに満ちた世界が描かれていて、実に興味深い。
実在の人物を元に制作されたフィクションとはいえ、かなりリアルな面が多々ある。
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キャストは皆、実に魅力的である。
極悪同盟のダンプ松本とブル中野、その宿敵のクラッシュギャルズの長与千種とライオネス飛鳥、豪華レスラー陣のジャガー横田、デビル雅美、大森ゆかり、クレーン・ユウ・・・。
そして極悪同盟にあからさまに肩入れする悪役レフェリー、阿部四郎!
なつかしい~。そして似てる~!(笑)
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役作りのために、
ゆりやんレトリィバァ(ダンプ松本)→40kg増量
唐田えりか&剛力彩芽(長与千種&ライオネス飛鳥)→10kg増量
って・・・すごすぎる!
ゆりやんはまさにダンプ松本そのものだった。唐田&剛力は10kg太ってもまだまだ細くて可愛らしい。
唐田&剛力は若くしていろいろあった人だけど、2人の熱演を見て、特に唐田はよくぞここまで這い上がってきたなぁ、根性あるなぁと感じ入った。
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40年近い歳月を経ての80年代女子プロレスのドラマ化に感無量なのは、1985年当時、10歳の私自身がまさに女子プロ入りを目指していたからである。
ある日、テレビのチャンネルを回す手をふと止め、クラッシュギャルズが颯爽とリングに上がり、対戦相手と戦う姿を目にした瞬間から、私の女子プロレス狂いが始まった。
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さっそく美容院に行き、背中まであったロングヘアを刈り上げショートヘアにした。
もみあげが青々としていた(笑)
たくさん食べて急ピッチで5kg増量し、筋トレにものめり込んだ。
腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット、ランニング。
10歳の自己流のトレーニングなんてたかが知れているが、本人は大真面目だった。
私の異様な興奮ぶりを見かねた母が言った。
「プロレスは最初から勝ち負けが決まっているショーなのよ」
母よ、娘の夢を壊さないでおくれ(笑)
「そんなわけないじゃん!」と母に叫び、
「あ~あ~、お母さんはプロレスってものをちっともわかってないねぇ」と、呆れて見せた。
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女子プロ入りしてクラッシュギャルズみたいになるという私の夢は、吃音の苦しみが根本にあったと今では思う。
学校では楽しいこともいろいろあったけれど、言葉がどもることの苦痛から解放されることはなかった。
異質な存在を見つけたらあれこれ絡まずにはいられない輩がいるのが学校という場所である。
笑われたり、バカにされたり、真似されたり、上から目線で憐れまれたりして、吃音によるストレスは増すばかりだった。
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「1985年のクラッシュギャルズ」(柳澤健、文藝春秋)
2011年に出版されたこの本の作品紹介文に、こう記されている。
この1985年8月28日は、ダンプ松本と長与千種の伝説の髪切りデスマッチ(勝者がリング上で敗者の髪をバリカンで剃る)が行われた日である。
私はテレビのブラウン管越しに祈るような瞳でリングを見つめていた日本中のクラッシュギャルズファンの少女の1人だった。
まさに「あの2人のように、もっと強くもっと自由に」なりたかった。
すべては私を全力で押さえ込みにかかる憎い吃音を投げ飛ばし、こてんぱんにやっつけてやるために。
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身体的・精神的に強くなれば治せるほど吃音はやわな敵ではなく、その後も長らく私の人生を支配することになるのだが、心がくず折れそうになりながらも女子プロレスに支えられていたあの狂乱の日々を、「極悪女王」が思い出させてくれた。
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話題作に乗っかって、延々と自分語りをしてしまった(笑)
「極悪女王」は私にとってファイティングスピリッツを高め、ランニングのモチベーションアップにもなりつつあるので、再び第1話から観ることにしよう。
注:本作はかなり凶暴な試合のシーンがてんこ盛りなので、苦手な方は鑑賞要注意です…。