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こんな会社に就職したかった

 豚や牛や鶏の農場獣医師として生きてきました。日本の畜産農家のモデルになるような農場の経営体はないかなあ、と常に探しています。
 例えば日本の養豚農家には、1)地元雇用と納税、2)国産の確保、3)産業副産物の飼料利用、4)飼料米飼料などで役立っているという共通の自負があります。でもそれ以上の自農場の個性として価値観や展望でのユニークさも必要でないか、と思っています。さらに後継者や人材不足への対応から人材育成は急務です。
 私自身も大学教育そして卒業して2~3年の大切な時期によいキャリア展開ができなかったという反省があります。そんなことで農家や農業関係を目指す若い世代の参考になるように、各国で価値観や人材育成でユニークな輝きを放つ農場はないかな、と探しています。
 そんな中、見つけたのが米国クレメンス社(Clemens Foods)の農場部門であるカントリーファミリー農場(CVFF)です。
 クレメンス社はファミリー農場での生産による減薬・環境・福祉を配慮した高付加価値のポーク製品を、意識高い系の米国消費者に対して、少し高値で販売するというビジネスモデルで成功しています。
 クレメンス社は1895年にファミリー農場として始まり、300以上のファミリー農場が参加しています。クレメンス社は養豚の生産から販売までを一貫垂直に組み合わした豚肉生産加工販売グループです。
 クレメンス社の価値観 (Values)は3つ、倫理(Ethics)、正直・一貫性(Integrity)、資源・環境保護を重視して(Stewardship)で事業を運営することを目指しています。「正直・一貫性」をもってビジネスを運営し、正しいことを正しく行い「倫理」的に生き働き、明日のための基盤作るために資源と環境保護を大切に事業を行うことです。はっきりと「倫理」を価値観として打ち出している企業は少ないのでは。
 その展望(Vision)は上記3つの価値観を実践する世界トップクラスのチームとして、自分たちの家族とお客様の家族のために、健康な豚を育て良質の豚肉を生産することです。そして税引き後利益の10%を毎年地元に寄付しています。
 同社の農場部門であるカントリーファミリー農場(CVFF)は、飼料工場、母豚農場、離乳子豚農場、肥育農場からなっています。お金のかかる母豚農場を最新の設備と技術と管理手順で集中して運営し、そこで生産された離乳子豚(平均体重5キロ)そして肥育豚(体重22キロ)を各地に多数あるファミリー農場に運搬し、そこで育ててもらうという方式です。24時間体制の獣医師グループと栄養専門家グループで、ファミリー農場をサポートしています。豚肉生産における新技術のリーダーとなるような農場の特徴は
a) 病気や病原体汚染を防ぐ最先端のバイオセキュリティシステムを持つ
b) 獣医師および動物栄養専門家を抱える
c) 豚の生涯にわたる動物飼育の確立された飼養基準を実践する
d) すべての母豚農場で母豚はグループで飼育している
e) 米国の高レベル飼育法PQA Plus で認定されている
f) 認定された第三者による動物の安全性の査定を受けている

 クレメンス社は人材育成に関して、すべてのステージでチームメンバー(社員のこと)の成長と達成、そして革新的な考え方を実践することを奨励しています。そのために多くの訓練と教育の機会を用意しています。例えば、スキル訓練、専門能力の訓練、最前線リーダーシップ訓練、新規人材リーダー訓練などです。そしてその訓練や教育は、以下の6つの中核の能力を発達させようとしています。
1) 信頼感を醸成する能力 
2) 効率的なコミュニケーション能力
3) 効率的な意思決定の能力
4) 問題の解決する方法を出せる能力 
5) 建設的意見を言う能力
6) 率先して実行する能力
 同社には、12 か月間の上級管理者研修プログラムもあります。この革新志向のプログラムでさらなるリーダーシップスキルの実践訓練、財務およびビジネス感覚の訓練、豚の生産と健康の基礎知識をさらに磨きます。財務およびビジネス感覚は、どのようなキャリアを選んでも必須です。
 上記を見ていると、農家育成にも人材育成にも熱心な会社と思いました。クレメンス社はHPで公開していますので、全社員と全顧客そしてジャーナリストも見れます。もし違っていたら、米国ですのですぐ告発されます。本気でやっていると思われます。
 米国クレメンス社のCVFFの獣医師としてチームメンバーとして、キャリア初期のころに5年ほど過ごしていたら、また違った人生だったなあ、と思います。当時は海外の会社は考えもしませんでした。再就職しようかと思ったのですが、ウェブサイトで見る限り私にできそうな職が空いてませんでした。
 日本の養豚農家数はこの20年で3割になりました。生産量も横ばいです。廃業した何割かの農家は、よい会社に所属できれば継続できたはずと思っています。
 米国クレメンス社が日本に進出し、日本の廃業の危機にあるファミリー農場を組織して、日本の畜産業界を活性化してほしいものです。またキャリア初期の若者の育成もできるのではと夢想しています。推している会社です。

出典
米国クレメンス社 https://clemensfoodgroup.com/our-company/our-process/country-view-family-farms/
こぶたの学校「経営実例」https://www.kobuta3.net/経営実例

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