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青山散策
「もう時間だから行くね、また後で」ココアにオレンジのスライスが浮かんだオシャレな飲み物だが、半分くらい残して席を立った。
もうすぐ、ランチタイムとあって、店員さんは矢継ぎ早に、お客さんを席に案内し、いつの間にか入り口付近に待っている人の列ができていた。
一杯1,100円の紅茶でも、ゆっくりと飲めるような雰囲気ではなくなってきたので、一気に飲み干し自分も店を出た。
待ち合わせの時間まで、あと1時間15分くらいある。
じつは、この辺りは土地勘がある。学生時代を懐かしみながら、散歩がてら新たに店を探す事にした。
表参道や骨董通りあたりは、敷居の高そうなファッションブランドや美容室が軒を連ねる。路地に入ると、どんな人が住んでいるのだろうと思うような豪邸や、低層マンションが点在する。そんな中、意外と鍼灸院やマッサージ、整体の店が目につく。様々な想像が駆け巡る。 この地での開業、すごい度胸だ。 初期費用は? 集患は? 損益分岐は? どんな患者さんが来るのか?
本当は、自分も最初から店舗を構えて開業をしたい、と思っていた。
運動選手やパーソナルトレーニングを取り入れた治療院をやってみたかった。しかし、背負うモノがあって、冒険ができなかった。確実に収入を得られる方を選んだ。結果的には間違っていなかったが、一抹の後悔が残る。自分が思い描いていたような治療院をやっている人に対して嫉妬もあった。
でも、今更お金に縛られて必死に働きたいとは思わないし、今は家族と共に過ごせる時間が多くなった。最近は幸せを実感することが多くなり、これが自分の生き方だと肯定できるようになった。
見晴るかすもの皆清らなる・・・。澁谷の丘の青空は30年前と変わらないけど、あの頃の自分が想像した30年後とは、だいぶ違うようだ。
どの店も意外に、いっぱいだ。待ち合わせまでは、まだ時間がある。もっとに賑やかな方に歩を進めてみよう。