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依存症と嘘

 依存症業界では、「依存症者(アディクト)は嘘つき」という言葉をよく耳にします。ポン吉の実感としても実際その通りで、「依存症と嘘」は「コーラを飲んだらゲップが出る」というくらい密接な関係なのです。
 では、なぜアディクトは嘘をつく生き物なのか、ポン吉は依存対象が薬物なので、薬物を例にとってその理由を考えてみます。

アディクション初期

 (薬物を使ったことない方を刺激してしまうかもしれませんが)率直に言って、アディクションの初期は楽しいことだらけです。今まで憂鬱だった気持ちも、クスリによってはるか空の彼方に吹っ飛びます。強烈なストレス解消手段が見つかったことで、生活にもハリが出ます。仕事もバリバリできるし、世の中への不満もクスリをつかっている間はどうだって良くなります。友人とトラブルがあっても、「いいよ、いいよ」と受け流す気持ちの余裕がある。クスリをコントロールできている時のポン中は無敵なのです。世界で一番パワフルな人格者といっても過言ではないでしょう。

アディクション中期

 しかし、アディクションの中期になると、ちょっとずつ状況が変わってきます。まずクスリの耐性がつき、以前のような万能感がなかなか得られにくくなります。当初は「使うタイミングは金曜夜だけ」と決めていたはずが、結果的に週末全部がクスリに支配されて、あっという間に時間が溶けていきます。友人や家族との約束も、気付けばブッチしてしまいました。どんどん周囲からの信頼を失っていき、日曜夜になって「こんなはずじゃなかった」と頭を抱える日々。摂取する量や頻度も上がってきているため、クスリ代も馬鹿になりません。銀行口座の残高をじりじりと眺めながら、それでも手元に一定量のクスリがないと不安になり、次の週末のためにまたクスリを買い足しています。

アディクション末期

 そして、いよいよクライマックス。アディクション末期のポン中は悲惨です。何をやっても不安しかありません。クスリを使うと、パクられるんじゃないか、ガサ入れされるんじゃないかという妄想。クスリがなくなってくると、もう次に使うネタがないんじゃないかという焦燥感。そしてクスリ代のためにどんどん嵩んでいく借金。借りられるところからはすべて借りて、次はどこの返済日が来るのかもわからない状態。挙動がおかしいと、家族もそろそろ気付き始めている様子。日中は幻聴で仕事が手に付かず、夜になると幻覚で一睡もできません。やることなすことすべて裏目に出て、もはや逮捕されるのは時間の問題。

依存症は否認の病

 「依存症は否認の病」とも言います。末期になると、こんな感じの理由で、人に対しても自分に対しても嘘まみれになります。
・クスリを使う時間を確保するため、周囲に嘘をつく(例:仕事が忙しくて会う時間が取れない)
・クスリをまだコントロールできていると思いこむため、自分に嘘をつく(例:まだ依存症ではない)
・クスリ代を借金するため、周囲に嘘をつく(例:大きな投資をして手持ちの現金が少なくなった)
・クスリを使っていることがバレないように、周囲に嘘をつく(例:体調が悪くて汗が止まらない)

 つまり、嘘をつかないと、どうやってもクスリを使い続けられないのです。これがアディクトが嘘つきになるメカニズムです。

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