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【医療コラム】年下上司 東大医学部医師の地頭の良さ

■なんとなく気に入らない、新しい上司


 私が児童精神科研修を始めた頃、私の上司として東大医学部卒の医師が派遣されてきました。上司といっても、医師としては同学年、さらに私は大学受験で1浪、彼は現役合格だったので、年齢は私の方が1つ上です。

 私はマニュアル人間で、決まりや規則を重んじます。ですから、制服を着て挨拶をしようと待っていたのですが、上司は私服で診察に来ました。しかも診療時間ギリギリに来たため、挨拶ができませんでした。初日にそんな態度を取られ、正直苛立ちを覚えたものです。

 その上司が来る以前の上司には大変お世話になり、私にとって、とても大切な存在でした。その人が退職し、代わりに来たのは同学年の東大医学部卒の医師。そして課長職から部長職に栄転し上司としてやって来た…こうしたことも、苛立ちの理由の1つだったと思います。東大医学部というだけで、扱いが違うからです。

 結局、顔合わせの時は、挨拶もそこそこに、お互い午前の診療が始まりました。

 その上司と話す機会を持てたのは、昼休みのことです。

 「午前中、気になる患者さんはいた?」

 パソコンの画面から視線を移さずに、唐突に私へ聞いてきました。苛立ちはピークに達しましたが、確かに午前の診療で気になる患者さんがいたので、簡単にプレゼンテーションしました。

 すると驚いたことに、私の導き出したアセスメントに上司はそれ以上の正解を導き出したのです。さらに彼は、私が論文をいくつも読んで導き出した答えを、すぐに答えてしまうのでした。

■まったく別次元の存在を目の当たりにして


 東大の肩書きに屈するものか、と考えていた私ですが、なんて愚かだったことでしょう。本人を目の前にして、私はようやくそのすごさが身にしみてわかりました。

 しかしこう考えていたのも、私にも私なりのプライドがあったからです。私の通っていた高校は、今は落ちぶれていますが、毎年100名は東大に合格しているような進学校でした。しかし、東大医学部理科3類の合格者はいません。理科3類は別格だと聞いていましたが、それがどれほどのものなのかは、私もわかっていなかったというのが正直なところです。

 東大へ進学した友人に、改めて理科3類に合格した人のことを聞きました。

 「理科3類の人間は、小学生の時からテストでは100点しか取ったことがないんだよ。彼もそうだけど」

 東大医学部卒のすさまじさに驚きました。私は地元では頭のいい子どもだと言われていましたが、到底足元にも及びません。

■通常の努力では、決して追い越せない存在


 私は昼休みや診察の合間、診察終了後に、養育者、学校関係者、児童養護施設などに電話やメールで相談をしています。より良い答えを考えるために、時間をかけていますが、彼は即座に正解を出してしまうのです。時間をかければいい答えが出るという考え自体が、彼にはありません。すぐに最適な答えを出してしまうのですから。

 私は、「時間をかけているのは、相手のことを親身になって考えている証拠だ」と思っていましたが、彼を見ているとそうではないとわかります。私が時間をかけて出した答えと、彼が瞬時に出した答えが同じ、もしくはそれを上回るものであれば、時間などなんの意味もないのだと思い知らされたからです。だからといって、彼とは違う私には、瞬時に答えを出せませんし、時間をかける他ないのですが……。

 児童精神科診療は当時、日本では未開の地でした。しかし彼は論文を読んだり、児童精神科研修を受けたりすることで、私の知るどんな児童精神科医をも追い抜いていました。私は彼の努力もさることながら地頭のよさに嫉妬しました。

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