【小児医療コラム】研修医に人気ないよね小児科医
■保護者にやり込められる、若い小児科医
私は小児科医です。小児科医の仕事は、子どもを診るだけではありません。子どもの診断結果を保護者に説明し、その保護者が納得できるまで話をしなければならないからです。
私は現在50歳近い年齢で、医師となってからは25年ほどの経験があります。そして4人の子どもがいるため子どもの扱いには慣れていますし、保護者からの質問にも答えられないことはそうありません。たとえ至らぬ点があったとしても、自信をもって診療し、保護者の方にも納得いただいていると自負しています。
チーム医療をしていると、若い小児科医が保護者の対応に四苦八苦している場面を見かけます。保護者は、子どもの診断結果がどんな内容でもすぐに受け入れるというわけではないため、医師の経験が浅いと、保護者にどうしてもやり込められてしまう傾向があります。
そんな若い小児科医を見ていると、自分が苦労をした若い頃を思い出して助けてあげたい気持ちになりますが、その経験を乗り越えてこその小児科医だとも思うので、温かく見守っています。
今回は、そんな私の若い頃の話を少しお伝えしましょう。
■保護者のストレスのはけ口になることも
「先生はお子さん何人いますか?」
「先生は子どもを育てたこがとないから、わからないんですよ!」
若い頃は、保護者の方からそういう言葉をよく言われました。
他にも、こんなケースもありました。子どもは、診察を終えて病院から帰る途中、熱性けいれんを起こすことがあります。
しかし、子どもはその状態を当然保護者にうまく話すことができないため、不測の事態が起こったと思った保護者が激怒することも。「医師のせいだ」と責めるだけでなく、ストレスのはけ口として、医師に散々いろいろなことを言うかたもいます。
特に、私が専門診療をしている児童精神科領域では、「親が認めたくない」「なかなかよくならない」という症例が多いため、保護者のかたとの関係構築は難しいものです。
そのため、保護者は違う先生にも診てもらいたいと思うのでしょう。自分が診ていた子どもを、いつの間にかほかの先生が診ていたり、逆に、ほかの先生が診ていた子どもを私が診たりすることになるということはよくあります。
■息子の特別支援学級への移籍を認めない父
ある中学1年生の男の子の話をご紹介します。彼は、小学5年生ぐらいから学校を休みがちになりました。友だち関係も勉強面もスムーズにいかず、朝になると頭が痛くなるようなのです。
親は学校での彼のことを知らないため、頭の病気にでもなったのではないかと心配し、「頭部MRIを撮ってほしい」「血液検査をしてほしい」と言ってきました。子どもを育てているのは両親なので、検査するしかありません。
親は医学書を片手に持ち、「起立性調節障害じゃないのか?」「神経変性疾患じゃないのか?」「代謝疾患じゃないのか?」などと聞いてきましたが、私の診断では別の結果が出ていました。
「いえ、彼は心の病です」
「は? 仮病だというのか?」
「いえ。彼は知的にもコミュニケーション面においても、年齢に比して幼い面があるので、通常学級での就学は難しいのです」
「うちの子を障害学級に行かせろと言うのか! 俺がなんとかしてやる!」
それからというもの、父親は息子を椅子に縛り付け、勉強を教え、仕事に行く前に叩き起こして発声練習と早朝マラソンをさせたそうです。しかし、彼は泣きながら大暴れしてどうにもならなかったようです。
私は学校と連携し、1年かけて母親に状況を納得していただきました。結果的には、彼は特別支援学級に移籍し、頭痛もなくなり、学校に行ける日数がだんだんと増えて積極性も出てきました。
しかし、父親のなかでは、通常学級から移籍させた私は悪者だとなっているようです。父親は診察室に入ってこないですし、待合室で挨拶をしてもプイと横を向かれてしまいます。こういうときは心が折れそうになりますが、仕方のないことでもあります。
彼を特別支援学級に移籍させてよかったのかどうかは、正直なところわかりません。長い目で見た時に、子どもの人生にどう影響するのかはわからないからです。そのようなことを考えるのも、小児科医の仕事です。