医局員に寄り添う医局長とうちの奥さん
■医局員思いの医局長
「いつか先生の時代が来るよ」
医局員思いの医局長に、私は育てていただきました。今でも恩を返し切れていないと思っています。その医局長はとても記憶力が素晴らしい先生でした。
「たしか先生はお父さんが産婦人科開業医だったよね」
新生児仮死で新生児が私の力が及ばず、蘇生できずに助からなかったとき、医局長はそんな前置きをして私と会話してくれるのです。
「はい。ずっと1人で新生児も診ているんですよ」
「お父さんもお産やっていると大変だって言っていなかった?」
「はい。いくつか話を聞いたことあります」
「でも。辞めないんだよね? それってすごいよね」
この言葉は、私の退路を断つものでもあり、励ましでもあります。叱咤激励という言葉がぴったりだと思いました。
飲み会でも学会でも、医局長は医局員に話しかけています。自分のことを見てくれている。知ってくれているというのは、すごくうれしいものです。きっと先輩の頭の中は膨大な情報が入った引き出しとそれを使いこなせる能力があるんだよ。記憶力がいいだけじゃないんだよ、と医局員同士で話したことがありました。
ちらっと見た医学雑誌や論文の情報、医局員のこと、そればかりかどこから手に入れたのかスタッフの裏話まで・・。何から何まで知っています。
■フォローも指導も一流の医局長
医局飲み会で、ある先輩にダメだしされて凹んでいた私に医局長から一言・・。
「ねぇ。すっごい言われたね。でもあいつの言っていた通りだよ。反省しないとダメだよ。反省して頑張ったら必ずこの後あんたの時代が来るよ」
先輩も言い過ぎたと思ったのか、あまりにも凹んでいる私の様子をうかがっている様子でした。しかし、医局長がフォローしているのを見て安心しているようでした。私自身も、医局長の言葉で救われた気になったのを覚えています。
でも医局長は優しいばかりではありません。医局長の記憶力は我々の誤魔化しを、許すことがないからです。
「この検査オーダーしておくように言ったよね?」
「金曜日には月曜日までのオーダーをすべてしておくこと。そうじゃないと土曜日、日曜日の日当直の先生が困るんだからね」
「3時までに翌日の点滴オーダーを入れてなかったら全部点滴引っこ抜くわよ」
何度聞いたことか。でも大事なことは何回も言われないと覚えないものです。ただ医局長のような頭があれば、こんなに何度も言われてなくても済んだかもしれません。
「もうー。何度言ったらわかるの! トリ頭!」
私は何度も何度も医局長に怒られました。フォローをしてくれるだけではなく、怒る時には怒る。それが医局長です。
■叱咤激励をしてくれた忘れられない医局長のこと
フォローして下さるときと、怒るときのある医局長。私はそんな医局長に、何度も叱咤激励をされてきました。
「先生は持病があるのに頑張っている。でもまだ完璧じゃない。言われたことは反省して頑張るんだよ。反省して頑張ったら、あんたの時代が来るんだよ」
その言葉と医局長が好きな、カラオケで必ず歌う一青窈の「ハナミズキ」は、忘れることはありません。医局長に怒られ、諭され、支えられて、ここまで医師人生を歩んできたのです。
医局長には散々育てていただいた恩もあり、その恩は決して忘れることはないのですが、実はどことなく私の奥さんと似通った部分があります。
私:「あれ? 今日、出かけるの?」
妻:「前に言った!」
それは記憶力のいいところです。
あぁ怖いな。うかつなこと言えないんだよな。このピリつく感じ。