【小児医療コラム】 熱血!研修医!
■最近は医療業界もコンプラばかり
若い先生には強く言えないどころか、何も言えない。「明日は何して過ごすの?」なんて聞いたらパワハラ、セクハラ扱いになる今の世の中。まさしくコンプラ地獄。若い先生には、言葉一つに気を遣って、まるで腫れものに触るようです。
厳しくそして優しく。私のようなトンガっていた若者を、じっくりと時間をかけて育ててくださった先輩のような存在は周りを見渡してもいないような今です。医師として長い医師人生を送るには、研修医の丁稚奉公の間にどれだけ勉強して学ぶことがどれほど大事なことか。そしてそれが自分のためになるのだと信じていたので、今の風潮はなかなか馴染めません。あれだけ試行錯誤して私のやる気スイッチを何度も何度も入れていただいたのに。
今の風潮では、指導する側も指導される側も距離が遠く感じます。さらに2024年には医師の働き方改革で勤務時間も減ることに……。医師としての知識と経験が身に着くまでに、今までの医師に比してどれだけ時間がかかるのでしょうか?
■厳しかった先輩の息子さん
さて、そんな中、私の先輩の息子さんが小児科研修医として私のもとにやってきました。
「厳しく、いい医師に育ててくれよな」
そうは言っても、コンプラ地獄の世の中です。そつなく医師としての仕事をこなす彼は、きつく育てられた先輩の指導もあるのでしょう。私の目から見ても間違いなく合格点どころか優秀です。だから私は「まあ触らぬ神に祟りなしだな」と思いました。
そんな彼が指導医の私に言ってきたのです。
「先生と同じ専門の児童精神科医を目指すので、できれば児童精神科講義をしてもらえませんか?」
時間外の講義をすることに私は構いませんが、拘束時間が長くなるとコンプライアンス上、難しいかもしれません。会議ですら勤務時間に組み込まれる時代の流れです。
「うーーん」
「先生には迷惑が掛からないように、時間と場所は抑えました。お願いします」
彼に手渡されたメモを見ると、時間と場所の候補がいくつかあります。
「わかったよ。じゃあ。こことここにしようか。資料用意するからちょっと時間ちょうだい」
約束した2週間後、会議室で彼とワンツーマンで講義をする予定でした。
しかし、そこにいたのは彼と先輩と彼の友人。総勢10人も来ていたのです。
「えー。資料そんなにないよ」
サンドイッチとペットボトルのお茶も1組しか用意していませんでした。
結局みんなで手分けして資料をコピーして、1階の売店で軽食を用意して講義しました。質問も幾つか出て、活気のある講義。コロナ禍でこういった講義も控えていたので久しぶりです。
■真っ直ぐで熱い思いを抱いている研修医
「とても勉強になりました。僕は児童精神科医になりたくて、一生懸命やり遂げたいんです」そういわれたとき。最近の若者は・・何て思っていた気持ちが吹き飛びました。
どことなく先輩の面影。私自身、先輩に育ててもらった思いも交錯します。学びたい気持ちがあるなら、こちらもそれに答えないといけない。
「言っておくけど、僕は君のお父さんに殴られたり、蹴られたり、怒鳴られたんだけど、そんな感じでいい?」
「いや、それはちょっと‥」
私たちは笑いあいました。ですが私を頼ってくれているのだから、ちゃんと私の全てを教えたいという気持ちがこみあげてきます。だから私自身もじっくり論文を探して学びなおしをしました。新たな知見もあり、私自身も勉強になったのです。
一緒に飲み行くなど距離も近くなれば、厳しいことも言えるし、そのフォローもできます。まさしく若者と一緒に成長する感じを、久しぶりに味わいました。
「ぼくは、先生と同じ児童精神科医になりたいんです。一生懸命やり遂げたいんです」
その言葉が嬉しかった。こんなに熱い思いがあれば、彼はきっと、働き方改革2024なんて跳ね返してあっと言う間に私をぶっちぎって素晴らしい医者になることでしょう。