【医療コラム】【小児医療コラム】 まるでキャバ嬢の常識 「さしすせそ」
児童精神科医として仕事をしていると、つくづくチーム医療の大切さを感じます。1人では解決できないことも、それぞれの立場から方法を考えると、無事解決できることがあるからです。
■チーム医療の素晴らしさとは?
児童精神科医が関わっている問題は、虐待やいじめ、貧困など、さまざまです。しかし児童精神科医はまだまだ少ないため、私を指名して診察希望を出していただいても、初診の場合はすぐに診ることができません。
ある調査では、児童精神科の初診は平均で7か月待ちだという結果も出ているほどです。医師側も、なるべく多くの方の診察をしたいとは思っていても、片手間で解決できる案件などなく、全員がキャパオーバーという状況です。
その一方でチーム医療となると、各々が自分の得意分野で力を発揮し、さらに別の職種の方の意見も聞けるため、生産的な時間が生まれます。
例えば、虐待を受けた子どもがいたとします。その子を救うためのチーム医療のメンバーは、医師、心理士、教諭、児童相談所職員です。情報を共有し、みんなで目標達成に向かって行動します。
「彼女には一時保護が必要です」
「両親の生活困窮のはけ口が彼女に向かっているから、福祉のほうで何とかならない?」
「彼女は発達障害と軽度知的障害があるから、その理解と合理的配慮が必要じゃないか?」
そんなことを話し合うカンファレンスは、みんながそろいやすい昼休みや、診療時間外にボランティアで行うことがほとんどです。
みんなが時間を調整しながらカンファレンスをし、時には電話で進行状況の確認もしています。
しかしチーム医療では、複数人が関わっていることがあだになることもあります。「報連相」がうまくいっていないと、別の問題を起こしてしまうからです。特に、両親からの虐待が深刻化しているときは、児童相談所の介入が鍵となります。
■チーム医療の際、覚えておくべきこと
私はチーム医療をする中で、「報連相を密にするために人の気持ちを動かすのは、これほど大変なことなんだ」と学びました。上から目線やケンカ腰は通用しません。「人と人」として雑談する、常日頃から褒めるなどして評価する、といったことが大切です。
「いつも○○先生にお世話になっていますよー」
「あの○○先生と一緒に働いているんですね」
「そこまで考えていただいて嬉しいです」
それこそ、キャバ嬢の接客における「さしすせそ」と同じです。
「さすがです」
「知らなかったです」
「すごいですね」
「センスいいですね」
「そうなんですかー?」
チーム医療に携わるなら、医師として医学の勉強をするだけでなく、そういった普段からの地ならしが大事なのです。
ところで、先ほど例に出した「虐待を受けていた生活困窮者の彼女」はというと、児童相談所職員が両親の話を聞き、親を説得。それまで我々を門前払いしていた両親が、抵抗していた生活保護を受給するようになりました。
虐待を受けていた彼女も、私や心理士とじっくり話をした結果、「ようやく周りからの理解が得られた」とわかり落ち着いたようでした。
改めて、チーム医療の大切さを感じています。
https://membersmedia.m3.com/articles/4744#/