【医療コラム】【恋愛コラム】え? あいつら? 教授だけが知る恋の存在
■トンガった研修医同士のケンカ
あいつらまたケンカしているよ。医局の雰囲気悪くなるんだけど。
でもさ、研修医とはいえ、大人なんだからもっと折り合いつけてほしいよな。
まぁでもそんなにケンカするなら物理的に距離とるしかなんだけど・・。
でも研修スケジュール変えるとなると大ごとになるよね?
まぁでもそこまで仲が悪いわけじゃないみたいだし、もう少し様子見ましょうか。
こんな議論を何回繰り返したでしょうか。
大人たちは事なかれ主義なため、なぁなぁで何とかおさめたいというのが本音です。ですが、実際はこんな風にケンカをし合うということは、これまでありませんでした。研修医同士が議論をぶつけ合うというのは、いい風潮なのですが、ときに相手を傷つけるような議論になるなんてことは、珍しいことでした。ですから私たちもどうしたら良いのかと悩みつつも、目をつぶって、遠巻きに見ていたのです。
「その症例は私が症例報告した方がいいと思います」
「僕が来週の抄読会は担当したいです」
積極性のある研修医たち。ですが裏を返せば、
「あんな言い方なんじゃないの?」
「ちゃんと症例報告できるのかよ」
という意味にも取れます。若いからトンガっている。トンガっている2人がぶつかる。それは必然のことだったのかもしれません。
■どこまでも実直な研修生
ですが、こんな関係は悪くはありません。なぜなら実際、彼らの世代は分からないことはいろいろ質問してきたし、誰かを出し抜こうというのではないからです。よくありがちなのは、論文を読んで得た知識を自分だけで手に入れて言わない、ということなのですが、彼らの場合はそうではなくて、これどう思う?などと話し合っていたのです。そして、ミスしたときも知らんぷりをするのではなく、フォローしあうこともしていました。
例えば、「先生、患者さんのお母さんに解熱剤を使っても熱が下がらないのは重症じゃないのかと聞かれました。そういった論文はあるんですか?」
と廊下で聞かれたことがありました。
「乳児の細菌感染症が重症か見分ける手段は何だと思う?」
「……すみません。わかりません。夕方先生時間ありますか? 調べてきます」
と言われ、私は答えを知っていたので、論文を1部用意して夕方医局に向かうと研修医が勢ぞろいしていました。(やれやれ面倒なことになったなぁ)とも思いましたが、これも先輩医師としての仕事です。
■医学の進歩はみんなの努力で行われる
――医学生のときに仲良くしていたら伸びないよ
私の大学では、いわゆる試験の過去問は部活動を通じて代々受け継がれ、部活動外の人に渡すことは厳禁。だからいい過去問が手に入った人が定期テストは圧倒的に優位に立つ、そんな感じでした。
先日亡くなられたプロ野球、広島東洋カープの北別府学投手が「他チームの選手となんか会話するな!ファンが冷めるだろ!」と言っていたそうですが、定期テスト前は、まさしくそんな雰囲気でした。そういった大学医学部もあるのだと、出身した大学以外の大学病院に勤務して初めて知りました。
彼らに聞けば、医学の進歩は特定の医師が1人技術を積んだところで、薬の専門家も進歩しなければ医学は進歩しない。患者さんのために、みんなで学んで成長しようと散々大学で習ってきたそうです。なんて大人の考えなんだ……。その時受けた衝撃を今でも覚えています。
■衝撃の結末
そしてその衝撃は……彼らの研修医生活が終わる前に思い知るのです。
初期研修医から後期研修医として採用されるのは2人。だから、ほとんどの初期研修医はこの病院を去っていきます。すでに年内には、後期研修医として継続して研修する者は分かっていました。そのさなか、いつもケンカばかりしていた研修医の2人が、何と結婚をするという報告を入れてきたのです。
「えっ? 2人仲悪そうだったじゃん?」
「いやそんなことないですよ。もう付き合って2年になります」
だまされた……。なんと研修医内で結婚するのは他にも2組いたのでした。
医局内のみんなが腰を抜かすほどびっくりする中、教授はそれを見抜いていました。まさに年の功。恐れ入りました。