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1番目アタール、アタール・プリジオス

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自作の小説をまとめています。連載中です。 天才占星天文学者を名乗る不思議な『水晶玉』アタール・プリジオスとその弟子たちを巡る物語です。 月3〜4話くらいを目安に書いていきます。
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1番目アタール、アタール・プリジオス(30)笑顔

1番目アタール、アタール・プリジオス(30)笑顔

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気がつけば、隣の少年もその隣の大男も、一様に涙を浮かべて準司祭の祈りを見つめていた。

勿論、ロエーヌ自身も…自分が泣いていることに気づいていた。

そのくらい、純粋に心打たれた。

アリエルは涙を拭いながら、こんなことってあるのかと思った。

人がただ祈りを捧げている姿を見て感動してしまうなんて…。

この人は、本当に身も心も清らかな聖人なのだろう。

「…お待たせしてしまいましたか。申

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1番目アタール、アタール・プリジオス(31)投石

1番目アタール、アタール・プリジオス(31)投石

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時折、のんびりと馬車が通り過ぎる道。

日が傾いて、眩しいと思っていると、不意にヒュッという短い風を感じて、アリエルはサッとしゃがんだ。

その上を丸い小さい何かが通過していき、正面の少し離れた所に立つ太い果樹の幹に、カツンと当たって、ころりと落ちた。

「アリエルさん!」

ロエーヌは剣の柄を握りしめ、鋭い眼光を放つ。

「何者!?」

ロエーヌの声の先にいたのは、若い長身の男だった。後

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1番目アタール、アタール・プリジオス(32)オルゴールの村

1番目アタール、アタール・プリジオス(32)オルゴールの村

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アスナロンの集落に入ったところで、どこからともなく、音楽が聞こえてきた。

ぜんまい仕掛けの機械が鳴らす、哀愁ある音色…。

これは… “芸術の神”トゥクルを讃える讃美歌の1つ。

『オルガンを奏でよ』だ。

ほかにも『讃美歌を歌え』『輪舞を踊れ』『花の絵を描け』『木像を彫れ』『刺繍せよ』『壺を造れ』など、100曲以上もある。

ちなみに1番少ないのは、主神パナタトスの2曲で、『汝生きよ』

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1番目アタール、アタール・プリジオス(33)神眼教派

1番目アタール、アタール・プリジオス(33)神眼教派

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月明かりで読む、黒表紙の本のような手帳。

早世した亡き父の形見の品。

ぱらぱらとめくりながら、彼は自分の身に降りかかった約1年前の災厄…あのときの出来事の一部を思い出していた。

先に飲まされた苦酒のせいで、頭がぼんやりとしてはいたのだが…

左胸に押された焼き印の、烈しく波打つような強い痛みと、蒼く燃ゆるような暗い怨念に、心を占められていたのをはっきりと覚えている。

…そして、その

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