フランス映画「Hors-Saison」の試写会に参加する
先日、久しぶりに映画館へ行った。
以前は毎週1本は映画館で鑑賞し、弟に「姉ちゃんの第二の家はダンス教室と映画館のどっちかね?」と言われるほどの映画好き、いやフランス映画オタクのシマ子。
しかし去年の後半からイタリア映画の上映が増え、今年に入ってからは取捨選択の余地もないほどフランス映画の上映が減り、ここ数か月はネットで古いフランス映画を見て耐えている状況にあるが、師走のこの日、遂に監督の舞台挨拶付きで一本の映画が上映されることになった。
昨今の日本の試写会の様子はわからないが(大昔、一度仕事でピクサーの映画の記事を書かねばならず、アメリカ映画にもアニメにも興味の薄いシマ子は開始5分で寝たのだ…どうやって記事を書いたか…それは内緒😂)、こちらでは通常は映画の後に30分ほどの質疑応答がある。監督によってはそれが1時間近く延びることもあるが、監督の話を聞くのは興味深く、映画館に入りびたりの午後、もしくは夜になり、それで半日が終わるが、それでも私にとってはかけがえのない体験である。
さて、今回の映画「Hors-Saison(邦訳はまだないが、英語ではOut of Season)」は、パリに住む50代の映画俳優MathieuがBretagneの海沿いの小さな町で、15年前に関係を持った40代のイタリア人女性Aliceと再会して繰り広げられる大人のラブストーリーだ。
Mathieuは初めての演劇の舞台をするはずだったものの自信のなさから放棄し、この辺境の町のスパのある豪華なホテルに避難する。小さな町では噂がたつのも早く、彼がこの町に滞在していることを知りレセプションに手紙を残すAlice、
手紙にあった電話番号に電話をするMathieu、
そして再開。
二人とも結婚をし、子供のいる身で、特にMathieuの方は人生が順風満帆であることを否定せずストーリーは展開していく。つまり、自身のなさや恐れから舞台を放棄したなどとは一切言わずにだ。
一方のAliceは、田舎でピアノ教師をしている自分とMathieuを比較し、嫉妬心を現すようになる。例えば、15年前の関係について「あの時あなたが去っていった」とか、滞在を延ばしたMathieuに対し「どうして今朝帰らなかったの?」とか、そういう、相手が優位に見える関係においてよくありがちなシチュエーションが登場する。
勿論、大人のラブストーリーなので、激しさや稚拙さはなく、とりわけAliceの葛藤が、本人の語り口から、そして彼女の気持ちが、Mathieuの携帯に送られるメッセージに込められており、あぁ、なんとビターな話だ、そういえばこれに近いこと(私はそれを避けるために蓋をしたけれど)が過去にあったっけ、と頭の片隅で昔の記憶が蘇り、思わずジーンときた。
Mathieuが帰る前日(その後滞在を延長することにはなるが)、Aliceは、恐らくボランティアをしていると思われる老人ホームの女性の再婚式に参加するため、最後の夜を二人で過ごせないと伝える。だが、その女性には自分のMathieuへの気持ちを伝えたことを打ち明け、彼女へのインタビュー動画を彼に送る。その内容が本当に古風で、「夫を愛さずに結婚し、その後も夫に愛を感じることなく過ごした女性」の発言で、お見合い結婚をさせられそうになった身としては(全てのオファーを拒んだ結果、結局未婚なので、一度くらいお見合いしておけば良かったと今では思っている…😁)、非常にうなずける部分があり、またそれはAliceが夫に抱いている気持ちでもあるのだろう、と思うのと同時に、それを隠喩として見せられる男性の側はどういう気持ちがするものだろう、と、ここが最も心に残ったシーンになった。
監督曰く、「永遠に続く愛はない」そうだが、一緒に登場した主演女優のAlba Rohrwacher(父親がドイツ人のため苗字がドイツ語だが、彼女はイタリア生まれでイタリアで活躍している有名な女優だ)は、「私は愛が永遠に続くと信じている」と言っていた。また、監督、主演男優、ロケ地がフランスではあるが、女優がイタリア人ということで、フランス人にとってもイタリア人にとってもこの映画のテーマの根底にあるものは何かを問うた時、「失望」「落胆」である、ということには会場も含め皆一致していた。
ただ、古風な日本人女性のシマ子(😆)に言わせてみると、「焼け木杭には火が付き易い」が隠れテーマの気がする。勿論、この諺がヨーロッパにも存在するのかはわからないし、満員御礼の会場で質問する勇気がないので、その実はわからないけれども。
こう語ると、未練のある女がかつての男を想うラブストーリーに捉えられてしまいそうだが、小さなギャグや笑いが端々に含まれており、また最後にAliceが言ったフレーズが、これまで殻に閉じこもっていた女性の発言とは思えないほどユニークで、「人は誰しも、たとえそれが一時的なものであったとしても、乗り越えるすべを見つけられるのだ」と思わされ、ほほえましかった。
この映画を観て、「いつか私にも、蓋をせずに、再開してささやかでも続編が生まれるような火の粉が落ちてくることはあるのだろうか」「そうしたら今度は、逃げずに、Aliceのように最初の一歩を自分から踏み出すことができるだろうか」と、想像よりもむしろ実感に近い感覚を抱きながら考えるきっかけを与えてもらった気がする。