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読了本感想③『哀れなるものたち』/アラスター・グレイ

 近代文学、モダニズム文学、ポストモダン文学、などといった文学作品のカテゴライズは、酷く曖昧かつ多義的で、正直よく分かりません。
 ただ、素人考えでごくごく簡単に整理するなら、個人の存在そのものを重視する「実存主義」的な考えから、いやいや、その個人の内面だって外側のシステムの影響で形作られるものじゃないか、という「構造主義」的な考えに移り、さらにその構造自体の生成の仕方や変化の仕方を考えよう、といった「ポスト構造主義」的な考えが主流を占めるようになってきた。そういった哲学の流れと呼応するように、文学においても、個人の内面を重視する「近代文学」的なものから、個人の外部を取り囲む社会やシステムに目を向ける、「モダニズム」や「ポストモダン」みたいなものへと移行してきた。
 という感じではないかと思っています。(誰か詳しい方がいたら教えてください) 

 本作もそんなポストモダン文学の一つに数えられているようです。
 メタ構造やパスティーシュ的な手法が使われていたり、挿絵や表紙が作者のお手製だったりと、読んでいて大変面白かったです。
 ですが、主人公ベラやバクスターなどの登場人物が素材としてとても魅力的だったこともあり、こんな凝った手法をわざわざ使わなくてもいいのではないか、などと思ってしまったのも事実です。
 物語の「構造」を重視するあまり、文学が本来描き出すべき、「人間個人」の存在意義や魅力に目が行きにくくなっているのだとしたら、なんだか皮肉な気もしたのです。

 ただ、一方で、本作が内包しているジェンダーの問題やイデオロギーの問題など社会的な「構造」を起因とする問題を読者に暗示させるためには、やはり本作のような物語の構造自体の仕掛けが有効なのかも知れない訳で、そう考えると、こんな風に我々読者に考えることを強いる本作は、メタ構造の上にさらに我々読者自身をも巻き込んだメタ・メタ構造なのかも知れないぞ? 一体なんだメタメタって? などと考え出したら訳が分からなくなってきてしまいました。

 とにかく面白かったです。あと、映画も良さそうなので早く見たいです。

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