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[ピヲピヲ文庫 連載小説]『私に何か質問はありますか?』第18話
前回の話(第17話)はコチラ。ピヲピヲ。。。
その日、検索エンジン『ピヲピヲーライ』の運営会社が提供するニュースサイト『ピヲピヲスポットニュース』(通称:『ピヲスポ』)が、小さなスペースではあったが、カルガモール株式会社による『ピーチク・パーチク』事業買収の続報を配信した。
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「カルガモによる『ピーチク・パーチク』のハミング買収、年内に完了か?」
大手テクノロジー企業のカルガモール株式会社によるハミング・イケメソ・コーポレーション(インターネット関連事業を展開するピヲ系企業)の買収について、年内に完了する見込みが高いと関係筋が語った。
カルガモール株式会社によるハミング・イケメソ・コーポレーションの発行済株式全部取得に向け、両社は買収額含め、大枠で取引条件に合意したとのこと。
今回の取得が成立した場合、カルガモール株式会社は既存の写真共有アプリ『トリッピヲ、ハリッピヲ』に加え、メディアプラットフォーム『ピーチク・パーチク』をSNS事業ポートフォリオに加えることとなり、一気に国内モバイルSNS市場のトップ企業に名を連ねることとなる。
近年、海外ユーザーの取り込みにも成功している『ピーチク・パーチク』事業の買収により、カルガモール株式会社は、さらなる欧米市場の開拓を目指すとのことである——。
八鳥六郎(はちどり ろくろう)がホテル暮らしを始めてから1ヶ月あまりが経過した。
八鳥は、数週間前に人気討論番組『こんな時間にあーでもない!』で、自分への質問を禁止する趣旨の「八鳥条例」の是非が議論されているのを見てから、いよいよホテルの外に出るのが恐ろしくなった。
最近は、ホテルの部屋でテレビを見ることも避け、近くのコンビニに出掛けるとき以外(そのときでさえも、帽子を目深に被って顔を隠すことは忘れなかったが)、ゴロゴロしたり、ボーッとしたりして1日が終わることが多くなった。
しかし、今朝、八鳥は決心した。
いつまでも、このような生活を続けているわけにもいかない。
第一にお金がいつまで続くかも分からない。
まだ勤務先の『クロサギバンク株式会社』に自分の席が残っているかどうかは定かでないものの、いずれにせよ何らかの仕事を再開し、自分も人生を再開しなくてはならない。
その日の深夜0時過ぎ、八鳥はホテルをチェックアウトし、(帽子を目深に被ることを忘れず)実に久しぶりに自宅マンションへと戻った。
このような時間帯と言えど、いまだに自宅マンション付近にメディアや警察が張り込んでいやしないかとビクビクしながら、何度も周りを警戒し、いざとなったらすぐに逃げることができるよう、足音を殺しながら階段で自室があるフロアまで上がった。
1ヶ月以上も不在にしていたこともあってか、幸いにも自宅付近で八鳥を待ち構える怪しい人物の姿はなかった。
恐らくは、一時期の八鳥条例ブームも既に過ぎ去ったのであろう。
それも当然だ。
いったいぜんたい自分が何をしたというのだ!
八鳥は、無事にマンション自室のドアを開けた途端、安堵のあまり、急激な疲れが押し寄せ、玄関口に座り込んだ。
そのまま風呂に入る気力もなく、服を脱ぎ捨てて下着姿となり、ベッドに潜り込んだ。
実に暫くぶりに自室のベッドに横になった心地良さは格別だった。
ここ1ヶ月超の鬱々としたホテル暮らしからの解放感も手伝い、八鳥はすぐに猛烈な睡魔に襲われた……。
※※※※※
窓の外で小鳥の声がする……。
カーテン越しに朝陽が部屋に差し込んでいる。
……どうやら、昨晩は自室に戻り、あのまま眠ってしまったようだ。
随分と疲弊していたように自覚していたが、時計を見ると、まだ朝の7時過ぎだ。
もう少し、眠りが深くても良さそうな気がするが、意外と早く目が醒めたものだ……。
何か胸騒ぎを感じないわけでもなかったが、これまでのことは全てが悪い夢であってほしいと願い、八鳥は恐る恐るテレビを点けた。
テレビでは朝のニュースが流れていた。
何と、テレビ画面には、いつ撮られたものか、八鳥の顔写真が大きく映し出されていた!
若い女性のニュースキャスターが深刻な顔をして、ニュースの概要を伝えている。
「……政府は、『最も質問をされなかった男』として、八鳥六郎の人体実験をすることを決定したそうです。具体的なプロセスとしては、まず八鳥の両手両足を切断し、その後で頭部を切開し、脳味噌の粘度を精密に調べ上げた後……」
うわぁぁぁぁぁぁぁ~っ!
八鳥は絶叫した。
何だこれは? 冗談じゃないぞ!
両手両足を切断した挙句に、頭部の切開だと?
オレが……俺がいったい何をしたというのだ?
そのときインターフォンが鳴り……
ノックの音がした……
「八鳥さん! 中に居るかどうかは聞きませんよ! 警察です! 開けてください! これは質問ではなく、命令です! 開けないと、このまま踏み込みますよ!」
八鳥の額から汗が流れ落ちたのは、室内の暑さのせいだけではなかった……。
(つづく)