
【ピヲピヲ文庫連載ミステリー】『7組のクセツヨな招待客』~第11話~
第1のクセツヨなできごと:『料理対決』
山の中に佇む謎の洋館『夢鳥の幽館』の1階にある大広間では、招待客たちの自己紹介が一巡し、一同の間には和やかな雰囲気が漂っていた。
皆がリラックスして、暫し雑談を楽しむ中で、ミヤビがふと口を開いた。
「そう言えば、鳥尾さん、昼食は少なめにって招待状に書かれていましたが、あれもリサーチに関係するんですか?」
その言葉に、洋館の主である鳥尾吊士(とりお つるし)は微笑みを浮かべながら答えた。「そうですね、実はちょっとしたイベントを予定しておりまして」
招待客一同が、興味深げに主の言葉に耳を傾けると、鳥尾が続けて言った。
「今日は、少し早めのディナーにしたいと思います。そして、ディナーを楽しむ前に、第一のイベントとして、これから料理対決を行いたいと思います!」
※※※※※
鳥尾の提案に、みな驚いた反応を見せたが、なかでもスミレは大きく動揺した。
剛が驚いた声で言った。「おい、客に飯作らせるのかよ?」
鳥尾は穏やかに微笑みながら答えた。
「いえいえ、当館の方でもディナーを別にご用意しています。しかし、これは皆さまの行動パターンを観察させていただくというリサーチの一環なのです。そして、力強くリーダーシップを発揮いただいた方には、今後の我々のビジネスの成功のため、追って特別インタビューさせていただくことも考えています」
この言葉に剛は興味を覚え、黙り込んだ。
「大切なことなのでもう一度お伝えしますが、今回は我々のビジネスのためのデータ収集として、皆さまとパートナーさまとの連携のご様子を細かく観察することも重要なテーマとしています。従いまして、料理対決も個人ではなく、パートナーさまと組んだ上で、チーム対抗戦として行いたいと思います。各組、お作りいただくのは『自慢の一品』のみです。そして、優勝したカップルには、ささやかながら賞品もご用意しています」
招待客の何人かは期待に胸を膨らませながら鳥尾の言葉を聞いた。「ささやか」と言いながらも、この屋敷の豪華さを見る限り、それは一般人には簡単に手が出せない程度には高価であろう商品を想像させた。
そこでナオミが口を開いた。「あの、すみません、実は私、料理なんて全然自信ないので、私たちだけ不参加で見学とかってできないんでしょうか?」
梓も同意した。「そうだね、私も料理が苦手だから、できれば抜けたい!」
鳥尾は少し考えたが、「全員参加でないのなら、違う企画にしましょうか、、、」と言った。
すると、スミレが提案した。
「ちょっと待ってください、鳥尾さん! 私、この料理対決って素晴らしい企画だと思うんです! 『食』って、人にとって大切なものでしょう? 料理を通じて、異なるパートナー間で人がどんな思考や行動パターンを取るか、このデータって絶対に鳥尾さんのビジネスにも役立つと思うんです! 私から提案があるんですけど……私たち姉妹とナオミさん、梓さんカップルだけ4人チームということでどうですか?」
鳥尾は、スミレの急な提案にまたもや暫く思案顔だったが、少し考えた後で、これを了承した。
「では、『スミレさんとリナさん』のカップル、そして『ナオミさんと梓さん』のカップルを組み合わせ、4人で1チームとすることを特別ルールとして認めましょう!」
ナオミと梓は少々困惑した表情だったが、それ以上の不平は言わなかった。スミレはホッとした表情をした。仮にこのチームが優勝した場合、商品の分け方は、公平にくじ引きで決めるということになった。
※※※※※
鳥尾の言葉を聞いた瞬間から、スミレの心は大きく高鳴り続けていた。彼女は食品メーカーの開発者であり、自分で料理を作ることも大好きで、自信もあった。
彼女が受け取った招待状には、洋館のパーティーで、ぜひオリジナル料理を披露してほしいという依頼が書かれており、彼女は自分のセンスを認めてもらいたいという思いでパーティ―に参加することを決めたのだった。さらに、招待状には、屋敷の主に認められれば、彼女のオリジナル料理を大々的にプロデュースしてくれるというようなことも仄めかされていた。だからこそ、スミレは、この料理対決には特別な思い入れがあるのである。
一方、リナは姉のスミレをサポートする献身的な妹である。ただ、それだけでなく、リナは招待状に書かれていたいくつかの特別な「贈り物」のうちの1つに心惹かれ、パーティーへの参加を最終的に決意したのである。もしかすると、この料理対決に優勝すれば、彼女のお目当ての賞品がもらえるかもしれないという淡い期待もしていた。リナは姉の夢を叶えるため、そして贈り物への期待を胸に、全力でスミレをサポートすることを心に決めた。
武は腕を組み、少し考え込んだ。しかし、その後、「料理対決か……まあ、やってみるか」と決心した様子である。
彼の隣で、ミヤビは嬉しそうに笑顔を浮かべ、「楽しそうね!一緒に頑張りましょう、武!」と答えた。
剛は自信満々に笑みを浮かべた。「料理対決か……面白そうだな。まあ、私の腕前を見せつけるチャンスだな。どうせ他の奴らには勝てるに決まってる」。
真由美も同意しながら、「もちろんよ、剛。私たちで一緒に挑戦しましょう。」と応じた。
健太は少し不安そうな表情で「料理対決か……明、お前、大丈夫だよな?」と尋ねると、明は自信満々に「もちろん。料理は得意だから任せてくれ」と答えた。
ナオミはため息を吐きながら、「料理なんて全然自信ないわ……」と呟くと、梓も肩を竦め、「全く、こんな対決に巻き込まれるなんてね。どうせ勝ち目なんかないけど、せめて楽しんでやるか。」と笑った。
立己はクールに「料理対決か。麗子さん、一緒に頑張ろうよ!」と提案すると、麗子はクールな表情を浮かべながら軽く頷いた。
「まあ、別にどっちでもいいけど」
招待客たちは一応納得し、この不気味な洋館の中で行われる料理対決を頭の中で想像しながら、心構えをした。
※※※※※
鳥尾は召使を呼び、招待客全員にウェアラブルデバイスであるリストバンドを配るよう指示した。鳥尾は、招待客たちにリストバンドを付けるよう促しながら「皆さま、このリストバンドを着用することで、皆さまのリアルな思考や行動パターンが、信号として当館の制御室に備え付けられたコンピュータに逐一送信され、我々のビジネスのための貴重な参考データとして蓄積されてゆきます。どうぞ、パーティーのイベントが終了するまで、リストバンドを付けたまま行動してくださいますよう、今一度お願いいたします」と語りかけた。
招待客たちは奇妙なリストバンドを見て、少し驚いた表情を見せたが、鳥尾の丁寧な説明に納得し、それを手に取った。そして、互いに顔を見合わせながら、特別な体験に向けた混乱と多少の期待を無言で確認し合った後、ほどなくして、全員がリストバンドを装着し終えた。
その時、室内が少し薄暗くなり、不気味な雰囲気が漂い始めた。
次の瞬間、大広間の奥の間から召使いがゆっくりと現れ、静かに主の指示を伝え始めた。
「皆様、これから料理対決が始まります。ご主人様の命により、各ペアには材料と調理器具が用意されております。どうぞ、ご自由にお使いください。ただし……勝者が決まるまで、どなた様も外には出られません……」
(🐦つづく🐦)
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