サルサって何さ?
掲題の通りであるが、謎解きでもない。
「サルサ」と聞いて、何を思い出すだろうか?
トップ画像のような美味しそうなソースを思い出す方も多いかもしれない。
ソースのほかに「サルサ」というラテン系の音楽に合わせて踊る「ペアダンス」があるのだが、このダンスって、日本でどれほどの知名度が有るのか、よく分からない。
先に音楽を貼った方が説明が早いかもしれない。
『オルケスタ・デ・ラ・ルス(Orquesta De La Luz)』のオフィシャル音源が有ったので、"Salsa Con Sabor"を貼る。
要するに、こういう音楽に合わせて踊るダンスである(踊るダンスは重言? 音楽に合わせたダンス? まあいいや)。
本当にどうでもいい話だが、昔、初めてオルケスタのNORAさんをテレビで見たとき、私の叔母とドッペルゲンガーのレベルで似ていてビビった。
サルサは、基本的にこのような陽気なラテン系のビート、そして「1・2・3・4・5・6・7・8」という8ビートのカウントに合わせて踊るわけであるが、そのステップに特徴がある。
サルサのステップは、8ビートの「4」と「8」を踏まないというのが特徴的である。
要するに「1・2・3」とステップを踏んだ後、「4」は休む(止まる)、そして「5・6・7」と踏んで、また「8」は休むという訳である。
これも実際に映像を見た方が早いと思う。
上の動画で、開始早々「0:15」あたりで、NORAさんとJINさんが(左右に)サイドステップを踏んでいる。
こちらをご覧頂くと、2人とも「1・2・3(休み)5・6・7(休み)」というカウントで左右に足を出して戻して……という動きをしているのが分かるだろうか。
基本的には、こういうステップで踊るわけである。
「基本的には~」と書いたが、実はサルサにも空手の流派のように(?)、キューバンスタイル、プエルトリカンスタイル、 NYスタイル、LAスタイル……と色々なスタイルがあるらしく、上に述べたステップはあくまでも基本形という話である。
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なぜ唐突にサルサの話をしているのか?
スポーツの日を先取りして……というこじつけも無いではない。
それはさて置き、実はかなり前になるが、私は一時期サルサを練習していたことがある。
正直、謙遜でもなく下手であったし、もう久しく踊っていない。
具体的にどれくらい練習していたのか…?
……数年だったと記憶している。
1年未満ということはないと思うが……正直、年数はあまり正確に覚えていない。
ただ、このような話って、「3年間やりました」と言っても、その期間「週に3~4回は練習しており、自主トレもしていた」というのと「月に1~2回くらいレッスンに通っていた」というのでは、印象が変わってくる。
その意味で言うと、私はサルサのレッスンを1回終えるたびに「正」の字の辺を1画ずつ紙に書き足していたのだが、「80レッスンを終えた(「正」の辺を80回書いた)」というのを記憶している。
仮に、当時「100回のレッスン」を終えていたとすれば、もう少し強い印象として残っていた筈なので、私のサルサ経験をできるだけ正確に述べると、恐らく「80~100回の間くらいの回数、レッスンに参加した」程度の経験である。
なぜサルサを練習し始めたのか?
某国に住んでいた際、複数の友人たちとバーで飲んでおり、そこでノリのいいBGMが鳴り始めた。
すると酔いの回った友人(男)が、もう1人の友人(女)を誘い、テーブル脇のスペースで組んで踊り出したのだ。
事前に打ち合わせていた訳でもなく、その場で踊り出した友人2人を見て、私は「えっ! 何かコイツラかっけえ! ロックだ!」とプチ感動した。
もう少し言えば、それまで2人にあまり「カッコいい」というイメージを持っていなかったため、普段とのギャップでカッコ良さが増したようにも見えた。
彼らがその場で踊っていたのは、サルサではなかったのだが、その「即興ペアダンス」が強い憧れとして心に刷り込まれたわけである。
私が、なぜペアダンスの中でサルサを選んだかというのも、上に書いた「即興ダンス」の側面が強いというのが一因である。
私は社交ダンスは経験がないのだが、社交ダンスって、何となく男女ペアでダンスの「シナリオ」みたいなものを一生懸命に反復練習し、発表会に備えるみたいなイメージがある(勝手なイメージなので、必ずしもそうではないのかもしれないが、当時はダンス繋がりで社交ダンスの人たちとも話す機会があり、大体そんなもんだと言われた記憶もある)。
サルサというダンスには基本的にシナリオのようなものがない。
強引な言い方をすれば、有るのは「アドリブ」である。
たとえば、今ここでサルサ経験のある男女が出会う。
そして、サルサの音楽が鳴り、「踊っちゃうちゃう?」みたいに意気投合した場合、(上手/下手はさて置き)踊れてしまうのだ。
「えっ? 初めて会ったばかりなのに、動きが揃うの?」という疑問が出るかもしれない。
これには(聞いたことがあるかもしれないが)、ペアダンスの「リード」と「フォロー」という役割がある。
サルサでは、その役割分担が顕著であり、男性がリーダーとして女性をリードし、女性がフォローするというかたちで踊ることとなる。
ざっくり言うと、「今流れている曲に合わせ、2人でどのように踊るか?」を決定するのは男性であり、女性は男性のリードに合わせて踊るということである。
……うーん、まだ相当に分かり辛いと思うので、さらに噛み砕いて説明する。
「踊っちゃうちゃう?」の合意が成立した男女が、最初に「両手を取り合う」とか「片手を取り合い、男性は右手を女性の背中に回し、女性は左手を男性の肩に置く」といったかたちで組む。
そして、上に説明した「1・2・3(休み)5・6・7(休み)」で、互いに前後したり、左右に揺れたりというベーシックなステップを踏む。
男性がいよいよ「この技行くよ!」と決めた場合……ああ、そうそうサルサには、相撲の決まり手のように様々な「必殺技」みたいなカッコいい動きがある。
その1つ1つに「クロスボディリード」とか「コーム」とか「フリースピン」、「360(通称『サブロク』)」とか大そうな名前が付いている。
たとえば、男性が「クロスボディリードやろうぜ!」と思った場合、女性にそれを伝え、女性は「うん、バケラッタ~!」みたいな感じで合わせるのである。
この「次にやりたい技を女性に伝える」というのは、まさか口頭で「次、サブロクやってみる?」などといちいち耳元で囁く訳ではない(そんな奴がいたらウザウザアッチョンブリケである)。
これが正に「リード」ということになるのだが、男性はステップの位置(自分が女性から見てどの位置に移動し、どのような角度で立つかなど)、または「手で女性の背中をプッシュし、進行方向を伝える」などといったフィジカルコンタクトによって、「次に仕掛けたい技は〇〇ですぜ!」と女性に瞬時に体で伝えるのである(この書き方は、何かエロいぞ!)。
それを女性側も瞬時に「あー、あなたの動きはクロスボディの合図ね!」と瞬時に合わせるのである。
要するに、男性も女性もレッスンを繰り返し、「クロスボディ用のリード」、「フリースピン用のリード」、、、みたいなパターンを覚えていき、自分の中にストックしていくのである。
正に、その場で男女ペアが互いに無言の意思疎通を図り、くんつほぐれつ技を繰り広げる(この書き方も……何か今日はエロいぞ!)という「即興が生み出すその場限りの芸術」である!
個人的には、初めて会ったジャズマンたちが、その場でセッションを開始するという、ジャズの「improvisation(即興演奏)」に近いと感じている。
上に書いたとおり、「2人でどのように踊るか?」を決定するのは男性であり、女性は男性が考えてもいないような動きを勝手にやってはいけない。
………はて?
勘の良い方であれば、こういう疑問を持つかもしれない。
「それって、必殺技ヲ知らなかったら、やばくね?」
これは、その通りなのである。
実際、レベルの違い過ぎる男女がサルサを踊ると、ときにこういった悲劇が起こった。
まず、男性がリードしなければ、そもそもダンスが成立しない。
女性がいくらサルサの達人で、何十通りの技を使いこなせたとしても、男性が初心者で「技」を3つくらいしか知らない場合、1曲が終わるまで、達人女性は延々と「3つの技」の繰り返しに付き合わされることとなる。
逆バージョン(男性が達人、女性が初心者)でも似たようなことは起こり得る。
男性が実に上手くリードしてあげても、女性の方で「この技は〇〇ね!」とキャッチできない場合、どのように動いて(踊って)いいのか分からない訳である。
ただし、上手な男性は初心者の女性ができそうな技を仕掛ける(リードする)ことによって、女性を心地良く踊らせてあげることができたりする。
逆に「俺って上手いだろ? こんな難しい技もリードできるんだぜ! ホラ、2回転しろ!」みたいに初心者の女性相手に技術をひけらかす男性は、どんなに上手くても「あの人のリードは踊り辛い!」と女性から嫌われたりするのである。
「女性を綺麗に踊らせてあげる = リードが上手い」男性が上手とされる。
この意味で、サルサにおいて男性は「額縁」に、女性は「絵」に例えられることがある。
女性が綺麗な絵となれるよう、男性はしっかりした額縁になりなさいという話である(サルサ以外でも応用できる場面があるかもね! ぷふふ)。
因みに、サルサは女性よりも、圧倒的に男性が難しいと言われる(私もそう思う)理由は、この「ダンスの枠組みを決めなくてはならない」という男性の「リード」の役割にあると思われる。
すでに書いたとおり、私はサルサが下手だった(大人になって始める習い事なんて、どれも相当練習しなければ難しいとは思うが)。
ただクラスでのレッスンのほか、仲良くなったサルサ仲間の姐さん方に「サルサバー」という、正に「サルサを踊るためのバー」などにも何度かお誘いいただき、結構丁寧に練習させていただいた。
というのも、国によりけりかもしれないが、少なくとも日本のサルサ界では、圧倒的に男性のダンサーが足りないのである(因みに、私は外国でもサルサのレッスンを受けたことがあるが、やはり女性が多かったように記憶している)。
社交ダンスなども概ね似たり寄ったりかもしれない。
サルサはペアダンスなので、基本的に「男と女」が踊るものである。
女性にとっては、踊る相手(男性パートナー)がいないと練習にならず、男性が少ない訳なので、男性はよほど「根本的な何かしらの問題」を抱えていない限り、多かれ少なかれ重宝されるように思う。
話が飛んだが、上に書いた「サルサバー」というのは、お店で音楽が終始鳴っており、曲の合間に(基本的に)男性が女性に「踊りませんか?」と声を掛けるという空間である。
初めて会った女性に「踊りませんか?」というのも、何ともロマンティックな世界であるが、ロマンティックでない私も当時はそのような世界に溶け込んでいた。
当時、仮に「サルサの発表会」みたいなものが開催されたとして、私は自分の踊りを見せるということには全く興味がなかった。
正に「男女がバーで酒を飲んでいた。急にノリのいい音楽が掛かった。その場で2人で踊り出した」みたいなのが最高にクールだと思っており、それがサルサを始めたルーツであったため、「サルサバー」という異空間の雰囲気を当時は楽しんでいた。
クラスでのサルサレッスンと比べ、サルサバーで見知らぬ女性達と踊ることに「試合」のような緊張感を覚えたりもした。
昔ヲ懐かしみ、久しぶりにサルサのことを楽しく書いてみた。
ところで、私はとうにサルサはやめたし、久しく踊ってもいない。
今後の人生において、自分が再びサルサを踊ることがあるのかどうかもよくわからない。
私がサルサをやめたのは、父が死んだタイミングとピッタリ重なる。
私は父が死んだ当時、サルサだけでなく、ヒップホップ系のダンスレッスンなどにも通っていた。
実は、父が死んだという連絡を受ける数日前まで、私はダンスが楽しくて仕方なかった。
なぜか、そういう時期であったのだ。
ただし、父の葬儀、そして初七日を終えた直後から、ダンスをしたいという気持ちが全く消え失せ、運動もせずに引きこもりがちになった。
この辺の事情は、以前書いた「泣きながら食べたミカン、笑いながら食べるメロン」にも少し書いた。
父が死んでから半年近く経ったある日、一度だけ、沈む気持ちを奮い立たせて無理やりサルサのレッスンに行ったことがある。
周りも久しぶりに戻った私を温かく迎えてはくれたのだが、気持ちは全く乗らず、途中からは早くレッスンが終わってほしいなどと思い始めた。
ダンスの先生にボソッと「ハミングさん、何かまだ……ちょっと調子悪い感じですか?」と言われたのが印象的だった。
何かそんな風に見えたのかもしれない。。。
今に至るまで、「もう1度サルサを踊りたい」という気持ちになったことはない。
それは、私が若い頃に数年間吹いていたテナーサックスを「もう1度吹きたい」と思わないのと似た感覚である。
もう自分の中では、思い出になってしまったのかもしれない。
いつぞや友人にこの話をしたら、その友人は「へー、それはまだ悲しみの中にいるんじゃないの?」と言ってくれたが……何か、そういう話でもないように感じるが、じゃあどういうことなんだ?と聞かれるとよくわからない。
親が死んだタイミングで、それまでとても熱心に続けていた何かをすっぱりやめたという似たような経験をしたことがある人を探したこともあったが、あまり見当たらなかった。
……と思っていたら、その後、親戚の集まりで、冒頭でチラッと書いた私のNORA叔母さんが、全く同じことを言っていた(いや、別にNORAさんの伏線ヲ叔母のエピソードで回収する意図もなかったのだが)。
そう言えば、この私の叔母も大昔に社交ダンスをしていた。
そして、その叔母にダンスはまだやっているのかと尋ねた際、「あのね~、お婆ちゃん(正確には私の祖母であり、叔母にとっては母だが、みんなで私の祖母を『お婆ちゃん』と呼んでいた)が死んじゃってから、全く踊る気分にならなくてさ~、まずそういう音楽が聴きたくなくなって、スッパリやめちゃったんだよね~」と言っていた。
『スポーツの日』を先取りするつもりもなかったのだが、久々にサルサのことをふと思い出して、ダラダラと書いてしまった。
基本的に気分がアップする音楽&ダンスなので、興味のある方は試されてはどうかと思う。
……さて、ここまでサルサの話を書いてきたが……
皆さんが先ほどから言いたくて言いたくてウズウズしていることがあると思う。
私もそれはとうに気付いている。
最後に私が代表して、皆さんの心の内にあるメッセージを叫び、本記事を締め括りたいと思う。
では、イラストと一緒にどうぞ!
(完)
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