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【脚本】『イン・ア・センチメンタル・ムード (In a Sentimental Mood)』(3)
ケンジ:「花の不思議な力、、、ですか」
リカ:「私自身も花に囲まれて働いていると、元気が出てくるんです」
(リカが明るく微笑む)
リカ:「『利花』っていう名前、祖母が付けてくれたんです。お花のように美しく、心を和ませる存在になってほしいという願いが込められているんですよ」
ケンジ:「そうそう、さっきリカさんの名札を見て、『あっ、名前に花が入ってる!』って、花との運命みたいなものを感じたんです。お婆さんが付けてくれた名前だったんですね。代々、リカさんの家系は、花にご縁があるのかな?」
リカ:「そうなんです。私も子供の頃から花に囲まれ、花と一緒に育ってきました。花には、人の心を癒す力があると信じています。だからこそ、こうして花を通じて、少しでも多くの人に元気を届けられることが嬉しいんです」
ケンジ:「でも、花を愛する『愛花(*あいか)』とかじゃなくて、花を利用する『利花』なんですね。何か、花をうまく使って人の心を救う『花マスター』みたいでカッコいいですね」
リカ:「ありがとうございます。『花マスター』だなんて、何だか強そうな響き!」
(リカとケンジ、顔を見合わせて笑い合う)
リカ:「これからも、花を通じて少しでも多くの人を笑顔にできたら嬉しいな」
ケンジ:「お話をお聞きしていると、こちらのお店はリカさんのご実家が営まれているんですか?」
リカ:「いえ、このお店は私が独立して始めたものなんです。実家から多くのことを学び、その経験を活かして自分の夢を追いかけることにしました。お花を通じて、多くの人に喜びや元気を届けることが、私の使命だと思っています」
ケンジ:「リカさんの人生は順風満帆ですね。『花マスター』のリカさんなら、きっと毎日、多くのお客さんたちを元気いっぱいにしていると思います」
リカ:「ありがとうございます。確かに、お客様に元気を届けることができるのは嬉しいことです。順風満帆というわけでもなく、もちろん難しさや課題なんかもありますけど。でも、その1つ1つが私を成長させてくれています」
ケンジ:「あっ、順風満帆だなんて、失礼でしたよね。お仕事ですから、それはたいへんなこともありますよね。ところで、花屋さんって、どういったところが難しく感じたりするんですか? 何か困ったお客さんがいたりとか?」
リカ:「(少し考え込んで)そうですね。花屋には色々な挑戦があります。例えば、季節ごとに花の種類や質が変わるので、それに合わせた仕入れやアレンジの工夫が必要です。また、特に忙しい時期には、お客様の注文に迅速に対応するために、効率良く作業を進める必要がありますね。困ったお客様というよりも、特殊なリクエストや急な注文が入ることが多いですね。でも、その分、やりがいも大きいです。お客様の笑顔や感謝の言葉で、すべてが報われるんです!」
ケンジ:「そうなんですね。特殊なリクエストというのは、、、差し支えなければ、、、」
リカ:「(少し考え込んだ後)さまざまなんですが、例えば、あるお客様からは非常に珍しい花を探してほしいという依頼を受けたことがあります。季節外れの花や特定の国でしか手に入らない花を求められたこともありました。それから、結婚式や特別なイベントのために、とても細かいテーマやカラーに合わせたアレンジメントをお願いされることもありますよ。一番印象に残っているのは、あるお客様からプロポーズのために特別な花束を作ってほしいという依頼を受けたときです。その花束には、お2人の思い出の花や色が全て入っていて、注文主さまとお相手さまの色んなエピソードを再現するようなアレンジメントでした。そのお客様が、無事にプロポーズに成功したと聞いたときは、本当に嬉しかったです」
ケンジ:「へえ、そんな注文まであるんですか。プロポーズのための演出なんて、すっかりブライダルコーディネーターですね」
リカ:「確かに、花屋にはブライダルコーディネーターのような側面もありますね。花を使って、お客様の特別な日や大切な瞬間を彩るための演出ができるなんて、正に『花マスター』になった気分です!」
(リカとケンジ、顔を見合わせて笑い合う)
リカ:「そして今回は、ケンジさんのお婆さまが元気になる瞬間を演出できるなんて、我ながら素敵な仕事だと思います」
ケンジ:「(急に塞いだ表情になる)私の祖母は、、、癌みたいなんです。それも末期の。あっ、まただ。ついつい暗い話にしちゃうな。せっかくプロポーズの明るい話になってたのに」
リカ:「ケンジさん、ご心配なお気持ち、よく分かります。こうしてお婆さまのために特別な花を選んでいること、本当に素晴らしいことだと思いますよ」
ケンジ:「ありがとうございます。何か、さっきから気を遣わせてしまって、、、あ! ところで、さっきの季節外れの花の話、興味深いですね。季節外れの花、、、予想外のタイミングで咲く花のように、思いもよらないご褒美みたいなポジティブな印象も受けますけど、逆に一時的な美しさと引き換えにされた儚さとか、不調和、孤立、、、そんな否定的な単語も連想してしまう不思議な言葉だと感じます。でも、季節外れの花を求められる花屋さんの立場になると、それはたいへんだろうな。。。まさか(笑顔になって)『花マスター』のリカさんのことですから、季節外れの花を咲かせる魔法なんか有ったりして! (真顔に戻り)でも、そんなリクエストがきたときって、どう対応されるんですか? まさか、つっけんどんに『その花はシーズンオフです!』なんて一刀両断にしようものなら、お客さんも気分を害するかもしれないでしょうし」
「【脚本】『イン・ア・センチメンタル・ムード (In a Sentimental Mood)』(4)」につづく。