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マッチはいかがですか 〜#冬ピリカグランプリ応募作品〜
「マッチ、ロウソクに灯す、マッチはいかがですか?」
今年は、クリスマスに雪がちらつく。
ホワイトクリスマスだねと会話を弾ませる人達に、おずおずと声をかける。
しかし大抵無視されるか、「今どきマッチ売り?罰ゲーム?」とコソッと囁く風が冷たい。
好きでやっているわけじゃない。
あの悲しい童話の少女のように。
「ただいま。ごめんね、一つも売れなかった。」
「いいんだよ、寒かったろう。ありがとう。」
父が、沈黙したままの機械が並ぶ工場の隅から、木屑のついた顔を覗かせた。
私は部屋へ戻る。電気もつけず布団を被る。
不況を一気にくらった我が家は暗さを増すばかりで、必死に全てに耐え続けていた。
“リンリン”
外から鈴の音がした。
近所の家で、パーティーでも始まったのだろう。
きっと、温かくて懐かしい、それ。
ボンヤリ窓に目を向ける。
と、“トントン”と白い手袋がガラスを叩いた。
「開けとくれ、早く早く!」
白い髭のおじいさん…いや、サンタクロースがいた。
嘘でしょ?ここ二階だし、マジなサンタ?
とにかく窓を開ける。一気に冷気と雪が舞い込む。
「お、はいこれ。」
普通に、箱を渡された。気軽に。
「え?…私に?」
「良い子には渡すもんじゃろ。メリークリスマス!」
サンタはすぐに去った。
窓を閉め、箱を恐る恐る開ける。
「うわぁ。」
真白なクリームにたくさんの真っ赤な苺ののった、大きなクリスマスケーキだった。
もう、ニ年食べていない。
“ピンポーン”
感動している間もなく、今度は玄関のチャイムが鳴った。
「はぁい!」
急いで階段を降りていくと、
「ファミリーイーツです。」誰が頼んだの?
「いや、うちではないです。」
「違うんです。サンタが忘れたからって。」
ドアを開ける。帽子を目深に被った女性が立っていた。
「はい、ロウソク。本当に慌てん坊なのね、サンタは。火はつけられる?」
「マッチ、マッチならたくさん!」
私は部屋へ戻り、ケーキとマッチを持って来た。
「お父さんも呼んであげて。」
ケーキに、女性がゆっくりロウソクを立て始めた。
何の違和感もなく、父を呼んだ。
「さ、明かりを灯して。」
促されるままに、マッチを擦り順番に火をかざす。
「お母さん!」
明るくなったケーキの向こうには、2年前に急逝した母がいた。
母は、ゆっくり帽子を取って私と父に微笑んだ。
会いたかった。どうしてここに。
母は、ロウがツゥと垂れるのを見て、早口になる。
「いい?お母さんの机の奥にノートがあるから、探して。そこにレシピは全て書いてあるわ。パティシエになる夢はやめた?お母さんとたくさん作ったでしょう。」
その夢は、毎年記念日に一緒に泡立てた思い出の数々があったから。
「みんなで明かりを吹きましょう。大丈夫、私が願いを込めるから。」
もうロウソクは、倒れそうなくらい短かった。
「せーの!」
昔のように、みんなで消した。
白い筋煙の向こうに、母はいなかった。
ケーキを一口食べた。懐かしい、明るい味がした。
(1193文字)
このショートショートは、こちらの企画のために書きました。
ピリカグランプリがあると、良質な小説が並ぶものがあると、あちこち読んで知りました。
初めての応募になります。
ハードルはかなり高そうですが、私なりの物語にしてみました。
まずは、参加することに意義があるかもしれないレベルですが、どうぞよろしくお願い致します。