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カフェ・ロワイヤル #ほろ酔い文学

「カフェ・ロワイヤルを1つ」
そうマスターに伝える


いつもより着飾って出かけた
夕暮れ時の帰り道

以前から気になっていた
お洒落なカフェに立ち寄る


普段のワタシなら背伸びになるけど
今日のワタシならきっと似合うはず
なんてどうでもいいことを思いながら


ゆっくりと足を運ぶと
店内には優しい灯りが漂う

テーブルや椅子
カウンターに置かれた食器たち
どれもこだわりを感じさせるあたたかさ


せっかくだから
いつもなら注文しないようなものを選ぶ

一度も口にしたことはない
好きな映画のタイトルに似た名前に
何となく惹かれただけ


マスターがゆっくりと作り上げてくれる
その繊細な所作を見るだけで
期待が高まっていく


「お待たせいたしました」


目の前には香り豊かなコーヒーと
カップの上には角砂糖が載った
スプーンが添えられていた


続けてマスターが
火をつけたマッチを
スプーンに近づける


その瞬間
スプーンの上にある角砂糖に
灯がともる


これ何かで見たことがある
「フランぺ」だったかな

そんなことを思いながらも
その情景にしばらく見惚れる


フランぺ劇場の終演後
演じ切った俳優たちを
舞台の中に溶け込ませる


ひとくち啜る
心地よい苦みと甘さが口の中に広がっていく


お酒はちょっと苦手
けれど
いい感じにほろ酔い気分になる


あの人との思い出
ほろ苦い愛しさと
寂しさが混ざり合って




#ほろ酔い文学

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