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都市(まち)に関わる映画のご紹介 ④ 後半

こんにちは。

本日は、前回ご紹介させて頂きました「The Human Scale」の後半部分、第3章~5章部分に関して、ご紹介させて頂きます。

この映画の全体的なお話や前半部分に関しては、都市(まち)に関わる映画のご紹介 ④ 前半 にて書かせて頂いておりますので、まだお読みになっていない方は是非、先に前半を読んで頂けると話がよりスムーズに入ってくると思います。

また、こちらも前回同様にはなりますが、ネタバレを多く含むことになるので、その点が気になる方は事前に一度本編をご覧になった上で読んで頂けると、よりこの映画を楽しんでもらえると思います。

では、早速後半部分の中で私が面白いと感じたポイントを解説をさせて頂きたいと思います。









Chapter 3 - “How do you do more with less”







いかにして、より少ないものでより多くのことを行うか?

少し言葉遊び様にも聞こえるこの章のタイトルですが、都市の文脈で当てはめていくと、どれだけ労力やコストや空間の変化のさせ方を最小限にして、かつ目的に向かってどれだけ大きいインパクトを与えられる(寄与できる)か?という解釈になってくるであろうと思われます。
つまり、都市の”何”が”変化”すると、”どこ”に”どんな影響”が及ぼされるのか?を考察している章になります。

この章では中国の重慶(中国で最も急速に成長をしている都市)とオーストラリアのメルボルンの2つの都市が舞台となっております。どちらも事例も面白い事例でしたが、ここではメルボルンの事例を簡単にご紹介させて頂きます。

メルボルンは多様性文化を象徴する都市として有名であり、少なくとも2050年まで持続的かつ急速に人口が増加していくことが見込まれています。
その中でどう自然の生態系・環境を守りながら、先住民の方々との和解の道を見つけ出し、かつ都市(居住可能エリア)を拡大開発していくか?という、とても複雑な問題を抱えている都市でもあります。

この映画で描かれるのは1980年代に起こったドーナッツ化現象から始まります。ドーナッツ化現象は、アメリカの都市でも発生していた現象なのですが、都市の中心部における環境の悪化(公衆衛生や居住空間)と、交通の発達(車社会)により、人々が都市の中心地から郊外へと住まいを移動し、中心地が空洞(行き場をなくした方々のたまり場)になってしまう。という現象です。

メルボルンでも、当時の働き世代の方々にとって、都心のビルの一画の狭い家に暮らすより、郊外の庭付きかつ駐車場スペースありの広々とした一軒家が理想の住まいだという考えが流行り、ドーナッツ化現象が起きました。

当時、この現象を食い止める為に奮闘した専門家は問題を特定するために色んな疑問を提起し考えた上で、Lanewayと呼ばれる中心エリアに存在する抜け道のような小道(ビルとビルの隙間)に着目しました。

Lanewayはこれまで、犯罪が横行し、空気の質が悪く、ゴミの回収箱が配置されている性質から、最も人が近寄りがたい悪質な場所として考えられておりました。(*イメージ画像

しかし、一方でLanewayはその狭さゆえ、モビリティには不向きな場所であることから、ヒトが中心の空間であり、また日よけが出来ることから、潜在価値としては高い価値を持っていることに気付き、今までただの道でしかなかったLanewayに小売店やテイクアウト及びアウトドアダイニングが出来るようなレストランが食料品店を導入することで魅力的な空間へと変化させました。(この画像の出典元に他のLanewayの画像もありますので、気になる方はこちらをクリックして下さい。)

行った事自体は単純に聞こえるかもしれませんが、実際この政策を行おうとすると、店を導入する為のビルの工事・ゴミ回収箱の配置変更・空気の質の原因になっていたビルの換気システムの配置変更等、多くのことが必要になり、相当の労力がかかったであろうと思います。なので、ここでは空間の変化のさせ方をどれだけ最小限に留めるか?を意識されたんだと思います。

また、先ほどちらっと触れましたが、このlanewayに着目する前のプロセスの例として、以下のような問題提起がされておりました。

Can you change the city model if it was built for the car?
もし、都市設計が車を中心につくられているなら、街を変化させることができるのか?
Isn’t life something organic that jumps up wherever we don’t expect?
生活とは、予想もしないところかた飛び出してくる有機的なものではないだろうか?
Can you decide and plan a lively city?
リバブルシティ(生き生きとした都市)は、決定づけ計画することができるのか?
Can you change people’s desires?
人々の欲望(生活に求めるもの)を変えることができるのか?
Why walk when you can choose the car?
車という選択肢があるのに、なぜ歩くことを選択するのか?
Why do you live in a small apartment when you can choose a house with a garden?
庭付きの家が選択できるのに、なぜ小さい部屋のマンションに住むのか?

(organically: 有機的 という表現もよく使われる傾向があります。)

これらの疑問をかみ砕き、察する回答を導き出していくことできっとLanewayの変換という回答に繋がったのだろうと思います。
他にも様々政策はうったであろうと思いますが、映画ではこの施策を取扱っています。

また近年、Airbnbやコロナの影響で、再び都市の中心地から郊外へと移行するフェーズにきており、そういった意味でもこのメルボルンの事例は、過去に何があったか?を知るうえできっと面白く観られると思います。


Chapter 4 - "Walking towards a chaos, created by yourself"







自分たちで生み出した混沌(カオス)のに向かって歩んでいく。
なんともおぞましいタイトルですが、これから書かせて頂く解説を読めば、このタイトルの意味が分かると思います。

この章の舞台はバングラディッシュのダッカ(世界で最も急速な成長をしている都市)。毎年100万人の人々が田舎から都市(ダッカ)へ移動し、毎日1千人が都市(ダッカ)に流入してくる。という特徴を持っています。
数字だけで聞くとピンときませんが、例えば100万人という数字は、一日に埼玉県から東京に来る人より多く神奈川県から東京に来る人よりも少ない人数となっており(NHK記事より抜粋)、そう聞くと、あれ?少ない?と思われたかもしれませんが、これは世界でもトップクラスの複雑かつ機能的な公共交通を持つ日本だからこそ実現しており、それが発展途上国で起きているということを考えると、どれだけ異常であるか?を理解して頂けるかと思います。

急速な経済発展に伴い、中国や欧州諸国の例(これは各チャプターで失敗として用いられております。)に倣い、車を中心とした交通計画をメインに都市計画を行ってきたダッカ。
その為、2005年に”リキシャ”と呼ばれる、日本の人力車をベースに人力の部分を自転車に変換し、装飾を施したモビリティを禁止する政策を採りました。なぜなた、政府は当時のダッカで起こっていた深刻な交通渋滞は移動速度が遅く、あちこちに停留するリキシャによってもたらされていると考えた為です。
しかしながら、この政策は交通渋滞をなくすことに全く寄与せず、むしろ3,000人もの雇用を喪失させたと言われ、非公式にリキシャも残る形となり、状況はむしろ悪化を促進させただけでした。

私が学んでいる大学院でよく使われる言葉があり、この物語を通して考えなくてはいけないのが、

What knowledge?- どんな知識か?
Whose knowledge? - 誰の知識か?
Who decides? - 誰が決めるのか?
Who wins? - 誰が勝つのか?
Who loses? - 誰が負けるのか?
At what cost? - 費用はどのくらいか?
Who bears those costs? - 誰が費用を負担しているのか?
What is at the stake? - どんな危険に瀕しているのか?
How do those stakes differ? - それらの危険はどのように違うのか?

という9つの疑問です。

この疑問がどう批判的思考に役立つかを感じる為に例を紹介すると、ダッカ市民の抗議運動でこのようなセリフがありました。

”The government does not have the concept of equal. Loan for car infrastructure is based on every inhabitant’s tax revenue, but investment on the car infrastructure is not desirable method of using the money for most of inhabitants. It is mostly pedestrians who die in traffic. We crave for a socially safe and environmentally livable place.”
政府は平等の概念を持ち合わせておらず、車交通の整備は多くの市民にとって望ましいお金の使い道では無いのにもかかわらず、車交通の整備は行われており、そのためのお金は市民の税収によって成り立っている。ほぼ多くの歩行者は交通事故で無くなっている。私たちは社会的に安全で環境的に過ごしやすい場所を求めている。

この文章を上の9つの疑問に当てはめていくと、きっと政府と市民(富裕層を除く)の間にある軋轢が見えてくると思います。









Chapter 5 - “It’s very cheap to be nice to people”







人々にとって良いものはとても安い。というタイトルですが、”人々にとって良いものって何?”ということがキーになっている章で、これまでの章の総括でもあります。

この章の舞台は2011年以降のニュージーランドのクライストチャーチになります。もしかしたらピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、壊滅的な被害をもたらした大地震のあった年であり、どう復興していくのか?をゲール・アーキテクトのデイビット・シム氏(David Sim)が取り組んていくストーリーです。

この章は、とても大切なことが特に詰まっている章であったので書きたいことは多くあるのですが、今回は2つに絞って書かせて頂きたいと思います。

まず一つ目に”言葉の強さ””計画への市民参加の強さ”です。

デイビット氏が初めて公の場でクライストチャーチの市民に演説をするシーンがあるのですが、そこで言った言葉に私は言葉の強さを感じました。
(あえて訳文は記載しないので、皆さんも是非訳しながらその意志の強さを感じ取って頂ければと思います。)

"I’ve heard a lot about remarks this morning about these foreign experts are coming and telling you what to do. I can promise you I gonna tell you anything you have to do for my job. My job I’m here is to listen. I want to find a way you want to do. I want to try everything I can do with my team to help you do that. So, what kind of city do you want and everybody has something to share."

このセリフだけがきっかけとは言えませんが、16万人もの市民の声を集めることに成功し、そこから人々は何を求めているのか?を導き出していく。ことに進むことができました。(寄せられた声の一例です。)

ですが、実際には大型開発を通じて、政府は目に見える目先のお金の獲得や経済を巻き返したいという考えがあるのも事実です。そこで、重要なのが”計画への市民参加の強さ”です。今回で言うと、ゲール・アーキテクトによってつくられた戦略計画の背景には多くの市民の声が詰まっており、それがエビデンスとなって戦略の正当性を担保することが可能になるということです。
もし、この担保が無ければ政治的動機によって街は安易に復興の道筋を決められていたかも知れません。もちろん、ゲール・アーキテクトがこの案件の担当を請け負っている時点で、政府側もある程度、市民参加の方向性だったとは思いますが、市民の声がちゃんと力になる。ということは示されていると思います。

もう一つの伝えたいことは、私が単に好き。という理由でもあるのですが、劇中で使用されているレゴを使った町の未来を考えるワークショップです。

子供向けに劇中では使用されており、子供が街を考える素晴らしい機会の提供だとは思いますが、性年代に関係なく使用できるワークショップであるとも思います。
手順は実に簡単な3ステップになります。

1. Building yourself - 自分自身でつくる。
2. Think about the kind of things you’d like to do in the city
 - あなたがまちでしたいことを考える。
3. Build a model of the place you’d like to see in the central city
 - あなたがまちの中心地で見たい空間(場所)のモデルをつくる。

左の方がデイビット氏ですが、子供扱いせず、ちゃんと一人の意見として聞いている様子が伝わりますね。

ブロックのカラーで建物や都市の要素をカテゴライズしていると思われますが、なんだか楽しそうに見えて、(実際にはかなり頭を使うと思いますが、)ワークショップであったらやってみたいです。

さいごに


以上がThe Human Scaleの中で私が感じた面白いと思ったところの解説でした!
ネタバレも含んではいますが、語れていないことも多く、特に終盤でのセリフには多くの意味を含ませたものになっており、毎度違う気づきを与えてくれる名作です。
是非ご覧になって下さい!(Vimeoでストリーミングが販売されております。)

また、北欧研究所さんのNoteでゲール・アーキテクトのデイビッド・シム氏にインタビューを行っているものがあり、クライストチャーチやブラジルのサンパウロで行ったプロジェクトの話やレゴワークショップの話も書かれていて、とても面白いので、チェックしてみて下さい!

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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