✩ 文学夜話 ✩ 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』から学ぶ小説技法
今夜は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』についてお話ししたいと思います(著作権切れしているので青空文庫などで無料で読めます)。
この小説では、主人公ジョバンニが現実世界(日常)から幻想的な世界(銀河鉄道の旅)へ入っていくのですが、その過程がスムーズで、あまり不自然さを感じさせないところがあります(人によって感じ方が違うと思いますが、私はそう感じました)。
それは大事なことだと思うんですね。読者はフィクションだと分かって読んでいても、いかにも嘘っぽい感じで書かれているよりはリアリティーのある方が世界観に入りやすくなり、楽しめると思います(その過程をあえて端折る「転生系」の物語を否定するわけではありません。それはそれで別のメリットがあります)。私は書き手としてその理由が気になりました。
ですからこの記事では『銀河鉄道の夜』の中で描かれている現実世界から幻想世界への移行になぜ違和感がないのかを考察してみます(ネタバレはありません)。私の観察では三つの理由があるのですが、まず一つ目から説明しましょう。
理由1.幻想世界に入る前に、それに似た現実世界の風景を描写している。
私が思った一つ目の理由は、主人公が銀河鉄道の旅に出る前の日常生活の中で、銀河の話が何度も登場することです。例えば、物語は次の文から始まります。
このように、学校の先生が天の川について教える場面から物語は始まります。そしてその後、幻想世界に入る前に、また天体の話が出ます。
引用が長くなるので省略しますが、その後もまた天体の描写があります。そして、現実の夜空が描写される中でそれと入れ替わるにように幻想の夜空の描写が増え、気が付けば主人公が銀河鉄道の列車に乗っていたという流れになります。
このように、幻想世界に入る前に現実世界の銀河を随所に描写しておくことで、幻想世界の銀河の描写が突拍子もないという印象を回避しているのではないかと思います。
では次に、二つ目の理由です。
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