セルフコーチングするうえで知っておきたいこと①無意識について
こんにちは!シンギュレイトの杉山百恵です。
「なかなか目標が達成できない」「変わりたいのに変われない」「いつも同じことで悩んでいる」……そんな風に感じたことはありませんか?
実は、その原因はあなたの無意識にあるかもしれません。私たちは普段、気づかないうちに無意識の思考や感情に大きく影響されているのです。
この記事では、心理学に基づき無意識のメカニズムとセルフトークをネガティブからポジティブへ変えていく方法を分かりやすく解説します。無意識のメカニズムを理解し、活用することで、自身の行動変容を促すことができますよ。無意識の機能を理解し、セルフコーチングに活用していきましょう。
心の深層「無意識」を理解する
心理学における無意識とは?
「無意識」とは、オーストリアの精神科医フロイトによって確立された概念で、普段私たちが意識していない心の深層部分を指します。ハーバード大学の名誉教授であるジェラルド・ザルトマン博士によれば、「人間の行動や思考は95%が無意識である」としています。つまり、私たちの行動や思考のほとんどは、無意識の支配下にあるのです。この無意識を理解することは、自身の行動パターンや思考の癖を紐解き、より良い方向へ変化させるための重要な一歩となります。
無意識の役割
無意識は、以下のような重要な役割を担っています。
1.自動的な処理
呼吸、心臓の鼓動、体温調節など、生命維持に不可欠な機能は、無意識によって自動的に制御されています。意識的に呼吸を止めようとしても、限界が来れば無意識が呼吸を再開させます。これは、生存本能に深く根ざした無意識の働きによるものです。
2.習慣的な行動
歯磨きや自転車の運転、毎日通勤で通る道順など、繰り返し行う行動は、無意識に記憶され、自動的に行われるようになります。最初は意識的な努力が必要だったことも、無意識の働きによって自動化され、効率的に行動できるようになります。
3.本能的な反応
危険を察知した時の逃避行動や、快・不快といった感情的な反応も、無意識によって引き起こされます。これは、進化の過程で培われた生存戦略であり、私たちを危険から守るための重要な機能です。
4.情報のフィルタリング
私たちが五感で受け取る情報の量は膨大ですが、その全てを意識的に処理することは不可能です。無意識は、重要な情報とそうでない情報をフィルタリングすることで、脳の処理能力の限界を超えないように調整しています。
5.記憶の貯蔵
過去の経験や学習した知識は、無意識の領域に貯蔵され、必要に応じて想起されます。私たちが意識的に思い出せない記憶でも、無意識に影響を与え続けています。
私たちが意識していないところで、無意識は私たちの生活を支え、行動を決定づけているのです。そして、無意識の役割である「情報のフィルタリング」や「記憶の貯蔵」は、過去の経験や出来事に基づいたセルフトークが影響を与えていると考えられます。
セルフトークがセルフイメージを作るメカニズム
セルフトークとは、無意識に自身の中で行われている会話や独り言のことです。「今日はプレゼンうまくいくかな…」「この仕事、本当に自分にできるだろうか…」といった、ふとした不安や期待、様々な感情を込めたつぶやきがセルフトークです。
このセルフトークは、自分自身へ語りかける言葉が映像を生み出し、感情を想起します。例えば、「プレゼン」という言葉から、自分が会場でプレゼンする場面を映像として思い浮かべ、緊張や不安といった感情が湧き上がってくる、といった具合です。「自分はダメだ…」というセルフトークは、失敗した時の情景や、自信を失っている自分の姿を思い浮かべさせ、ネガティブな感情をさらに増幅させます。逆に、「次こそ頑張ろう!」というセルフトークは、成功体験や自信に満ちた自分の姿をイメージさせ、ポジティブな感情を高めます。
そして、これらのセルフトークを無意識に繰り返すうちに、特定のイメージや感情が強化され、セルフイメージが形成されていくのです。
セルフイメージとは、自分自身に対して抱いているイメージや自己認識、自己評価のことです。見た目、能力、人格、社会的地位など多岐にわたる要素から構成されます。「自分は仕事ができる」「自分は人付き合いが苦手だ」といった自己認識は、すべてセルフトークによって形成されたセルフイメージに基づいています。
このように、無意識下で、セルフトークとセルフイメージは密接に関係しているのです。それを示したのが以下の図です。
この図からもわかるように、他者の言動をきっかけにセルフトークが始まり、それがセルフイメージ、コンフォートゾーン、そして最終的にパフォーマンスへと繋がっていきます。
つまり、心の中で何気なく繰り返している独り言が、自分自身に対するイメージや評価を決定づけていると言えるでしょう。そして、最終的には私たちのパフォーマンスにまで影響を与えるのです。
セルフトークをネガティブからポジティブへ
ネガティブなセルフトークの弊害
私たちは1日に4万~6万回ものセルフトークを行っていると言われています。驚くべきことに、そのうち約8割はネガティブなセルフトークです。ネガティブなセルフトークとは、「私には無理だ」「どうせ失敗する」というもの。このようなネガティブなセルフトークは、セルフイメージを低下させ、さらにはパフォーマンスの悪化に繋がってしまいます。
対談記事では、ネガティブな感情を無理にポジティブに変換する必要はなく、まずはありのままの感情を認識する大切さをお伝えしました。これは、ありのままの自分を受け入れる・認めるために重要なステップです。
しかし、ネガティブなセルフトークを放置したままでは、なかなか現状を変えることは難しいのも事実です。今回は、ネガティブなセルフトークに気づき、より良い方向へ変えていく方法についてお伝えします。
ポジティブなセルフトークがもたらす3つ効果
ポジティブなセルフトークは、以下のように3つの効果をもたらします。
自信を高める ポジティブなセルフトークは、「自分ならできる」「きっとうまくいく」といった肯定的なメッセージを繰り返すことで、自己肯定感を高め、自信を育みます。
感情のコントロール 不安やストレスを感じた時、「大丈夫、落ち着いて」「なんとかなる」といったポジティブなセルフトークは、感情の波を鎮め、冷静さを保つ助けになります。
柔軟な思考 ポジティブなセルフトークは、困難な状況に直面した際も、前向きな思考を維持するのに役立ちます。「なんとかなる」「別の方法を考えてみよう」といったセルフトークは、視野を広げ、柔軟な思考を促します。
ポジティブなセルフトークを身につけるセルフコーチング実践3ステップ
では、ネガティブからポジティブへ、セルフトークの中身を変えていくためにはどうしたらよいのでしょうか。3ステップで紹介します。
STEP1 ネガティブセルフトークの発見
まずは、自分がどのようなネガティブセルフトークを行っているのかを認識することが重要です。メモ帳やスマホなどに記録してみましょう。
いつ、どんな状況で、どのようなネガティブセルフトークをしたのか?
その時の感情や体の反応はどうだったか?
何がきっかけでそのセルフトークが生まれたのか?
記録することで、ネガティブセルフトークのパターンが見えてきます。
STEP2 セルフトークの言い換えや反論
STEP1で記録したネガティブなセルフトークを、ポジティブなセルフトークへ言い換えます。「私には無理だ」→「できる方法を探してみよう」「挑戦してみよう」「少しずつ進めてみよう」「誰かに助けを求めてみよう」など、状況に合わせて適切な表現を選びましょう。
また、「本当にそうだろうか?」と自問自答し、ネガティブな思考に反論することも有効です。その際には、
証拠を探す:ネガティブなセルフトークを否定する証拠を探す
別の視点を持つ:ネガティブなセルフトークとは異なる視点で物事を考えてみる
最悪の事態を想定する:最悪の事態を想定し、それでも乗り越えられる方法を考える
といった方法を試してみましょう。自分の中での落としどころが見つかります。
STEP3 セルフトークからの気づきと感謝
STEP2でセルフトークの言い換えや反論に取り組んだら、今度はそのネガティブなセルフトークが教えてくれる「課題や学び」に目を向けてみましょう。客観的に見つめることで、新たな気づきが得られます。
そして、その気づきを与えてくれた出来事や、周りの人々、そして自分自身にも感謝の気持ちを向けてみましょう。「この経験を通して、大切な学びを得ることができた。ありがとう」「気づかせてくれてありがとう」と心の中で感謝を伝えることで、ネガティブな出来事も次第に貴重な経験と思えるようになっていきます。
まとめ:セルフトークの観察からはじめよう
本記事では、無意識、そしてセルフトークがセルフイメージに与える影響について解説し、ポジティブなセルフトークを身につけるための実践的な3ステップをご紹介しました。
無意識は、私たちの思考や行動に大きな影響を与える心の深層部分です。そして無意識に行われるセルフトークは、パフォーマンスをも左右する重要な要素でもあります。なので、無意識のメカニズムを理解し、できるだけ意識的にポジティブなセルフトークをすることが大切です。そうでないと、ネガティブな思考のスパイラルに陥り、現状が変わらないまま貴重な時間を過ごしてしまうでしょう。セルフトークをネガティブからポジティブへ変え、日々自信や意欲を高め、前向きなものにしていきましょう。
セルフコーチングの質を上げるためにまずは、ご自身のセルフトークを観察することから始めませんか?自己理解を深めるためのひとつとして、自身の思考パターンやセルフイメージへの気づきを体感してみてください。
考察:1on1やマネジメントにどう役立つ?
最後に、セルフコーチングが1on1やマネジメントにどう役に立つのか考察していきます。本記事で解説した無意識、セルフトーク、セルフイメージの関連性は、マネジメントや1on1におけるコミュニケーションの質を高めることに寄与するのでは?と思っています。
無意識の理解は、自分自身の思考や行動パターンへの気づきを促します。例えば、「私はプレッシャーを感じるとネガティブなセルフトークが増える傾向がある」と自覚することで、対処に意識が向くようになります。これは、1on1やマネジメントの場面でも同じ。相手の言葉の裏にある真意をより深く理解し、適切な対応を取ることに繋がるからです。
また、自信を失っているメンバーに対しては、小さな成功体験を積み重ねさせ、ポジティブな声掛けをすることで、メンバー自身のセルフイメージの改善を支援できるでしょう。
さらに、この無意識への理解を深めるための実践的な手段として、セルフコーチングが有効です。ネガティブなセルフトークに気づき、ポジティブなセルフトークに変換する練習を繰り返すことで、セルフイメージを改善し、自信を高めることができます。セルフイメージが向上することで、自信を持ってメンバーに指示やアドバイスを伝えられるようになります。
このように、無意識の理解とセルフコーチングは、マネジメントや1on1におけるコミュニケーションの質の向上に役立つと考えられます。ただし、相手に対し、自分の解釈に偏りがないかは留意すべき点です。自分に目を向ける時はセルフコーチングで自己理解を、相手へ目を向けるときは、コミュニケーションの中で相互理解を図っていきましょう。
今後の連載では、セルフコーチングのより具体的な実践方法や考え方をお伝えしていきます。ぜひ、フォローやスキ、お願いします!