私は何冊かを並行して読む習慣があります。今日はこの本という具合です。
このところ昭和を代表する女優の一人、高峰秀子著『台所のオーケストラ』を就寝前、何章か読んで眠りにつきます。
様々な食材を題材に100種類以上の項目(章立て)から構成されたエッセイです。
戦前より活躍、主演作品で不朽の名作『浮雲』を始めとして巨匠・成瀬巳喜男監督の一連の作品での出演、『カルメン故郷に帰る』『二十四の瞳』の主演にして木下惠介監督作品一連等、多くの巨匠・名匠に愛された大女優の高峰秀子のもう一つの顔はエッセイストであることは有名です。流石に文章が精緻で流麗です。話し口調を基に見事に推敲された読み易さに惹きつけられます。
カバーデザインは安野光雅氏が手掛ける拘りもセンスの良さを物語ります。
思想、評論系の本だとセンテンスがやたらと長く章の厚みにヴォリュームがあって、微妙な耐久性を強いられるものと比べると、食材紹介からの一品料理レシピにまとめる章立てのため、読書的に区切りやすく就寝前には持って来いと言えます。
この『台所のオーケストラ』とは良く練られたタイトルです。
オーケストラの楽器演奏者を様々な食材に喩える上手さと、この本を著した頃の高峰秀子は映画女優の一線から退いており、主に文筆業とご主人で映画監督の松山善三の映画製作のサポートに専心していた折でも食生活には十分配慮していたことが伺えます。
ちなみに和洋に中華と適した食材への思いの深さに触れて、惹きつけてからのレシピへと展開していく構成が小気味よく、レシピの項目では調理時間も記載されています。試してみたくなる料理一品に巡り合う可能性は高いと考えます。
どの章か失念しましたが、夕刻時の昔、佃煮売りに何とか売りと路地裏に現れる幾人かの出張販売の業者の登場に、わさわさとご近所の主婦たちが買い求める光景の描写がありました。向こう三軒両隣の時代、のどかな家並びを思い浮かべる、人の顔が見える時代の郷愁をこの本から感じるのです。
インターネットの検索エンジンで瞬時に調べられるアーカイブ時代の現在、ある種の郷土史に興味を持つ若い世代が増えていると聞いたことがあります。
単なる懐古な別世界と分け隔てるのではなく、幸せの尺度をどのように考えるか…そうしたきっかけ、縁とも捉えることができます。
もし機会があれば、ぜひ手に取っていただきたいエッセイ集です。
【漁港口の映画館シネマポスト 次回9月21日より公開作品紹介】
ピエール・フォルデス監督が「ライブ・アニメーション」と名づける実写撮影をベースにした制作技法により、村上作品の不思議で生々しいリアリティを再現。
アヌシー国際アニメーション映画祭2022で審査員特別賞、第1回新潟国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞した。日本語版は「淵に立つ」の深田晃司が演出、俳優の磯村勇斗、玄理らが声優を担当した。
シネマポストでは字幕版と日本語版の2タイプを上映いたします。
開始時間をお間違えのないようにどうぞお気をつけ願います。
【『幽霊はわがままな夢を見る』公開情報】
北海道・札幌サツゲキにて9月19日(木)までの公開です。上映時間等は劇場専用スケジュールサイトよりご確認ください。