
#243【虎に翼語り】第2週(4)よねさんはセーラーV
今日もお読みくださってありがとうございます!
昨日に引き続き、トラつば記事です。
今日のタイトル画像も、明治大学博物館で開催中の「虎に翼展」で展示されていた伊藤沙莉さん(たぶん直筆)の寅子イラストです。
第2週 2nd stage "vs Yone Yamada"
虎に翼第9回 ともに考える「変わり者」たち
この裁判についてどうにか着物を取り返す方法はないかと、自主的にあれこれと調べて考える寅子たち(寅子・よね・涼子・梅子・ヒャンちゃん)。
しかし当時の法律では、着物を取り返す根拠となるような法律はなく、結局みな「スンッ」ムードです。
よね「そもそも男と女、同じ土俵に立ててすらいないんだ」
ヒャン「(朝鮮語で)ありえない」
涼子「参政権もない、家督も基本的には継げない、遺産も相続できない」
梅子「姦通罪も女だけ。夫は家の外で何人女を囲おうが、お咎めなし」
ナレーションで、当時の女性たちが「戸主」という名の父親や夫の庇護下に置かれ不平等な立場であった解説が入ります。うちの母は戦後生まれですが戸主という言葉があったことを覚えていました。
「妻の無能力が妻にとって必ずしも不利益な制度ではない」社会
さらに、「妻の無能力(結婚した女性には法的な責任能力がないとされていたこと)」について、「妻にとって必ずしも不利益な制度ではない。独断でした行為の結果が面白くない場合、夫に相談しなかったという理由で取り消しうるからである。しかしこれは、妻を一個の人格者として考えるならば恥ずかしい保護であると言わねばならない(作中の穂高先生の著書の引用)」が、現実的には「その恥ずかしい保護を受けなければ女にとっての茨の道が待っている(涼子台詞)」のが当時の女性の状況だったことが語られます。
この状況に、あきらめ顔ができないふたりは眉間にしわを寄せて怒ります。
寅子「ほんとうに『はて?』としか言いようがない」
よね「でもこれが現実だ」
怒りの表情で甘味を食す寅子たち。
ここでも去来するのは稲さんの台詞。
稲「受け入れちゃいなさい、何も考えずに」
繰り返しになりますが、奪われた権利に気が付き、考えれば、怒りがわく。
でも相手が強大であると自分ひとりの怒りでは到底太刀打ちできない。
受け入れるしかないから、考えるのをやめる。
仲間がいるから、考えるのをやめるのをやめる
『虎に翼』はさまざまな不平等とそれにあらがう人々を描き、怒りにあふれた物語です。
思えば第1週は寅子個人を取り巻く境遇とそれに対する怒り、寅子ひとりの戦いでした。
対してこの第2週は、同じく怒りを抱えた仲間と出会い、ともに怒り、ともに戦う過程が描かれています。
内側に怒りを秘めた人が点として個々に存在していた。
女子部ができたことで、点と点がつながり線になった。
チームの中に「あきらめない」「怒り続ける」と言っている人がいたらほかの人も、本当はあきらめたくない、あきらめなくて済むならば、と考えを改めるきっかけになる。
意外にもその嚆矢となるのは、何かとぶつかりがちな寅子とよねでした。
寅子とよねがあきらめ顔をしないから、それが徐々にほかの女性にも広がっていく。
よねさんはセーラーV
この後、寅子 vs よねの戦い(←くらたが勝手に言ってるだけ)は寅子優勢で進みますが、前回書いたとおり、先に女性がいかに権利を奪われているかを知っていて、先に「怒ることをやめない」と決めていて、その姿で寅子に影響を与えたのはよねでした。
セーラームーンで言うなら、ムーンより先にセーラーVとして活躍していたのがよねさんと言えるでしょう。

そうそう、女子部時代ってセーラームーンっぽいですよね。
泣き虫うさぎが仲間を得て、セーラームーン、セレニティとして目覚め、地球を守る戦いに身を投じていく。
神格化も幻滅もしすぎない、穂高先生の造形
議論を重ねる女学生たちを見て、丸襟ワイシャツ(おされ)のフィクサー・穂高が「実にいい」と笑顔。
のらりくらり、どんなタヌキおじかと思いきや、結構ちゃんと「先生」もしているのですね。
先生を神格化も幻滅もしすぎない、ちょうどいい塩梅です。
「法律とは」……寅子の「自分なりの解釈」は?
しかし、どれだけ調べて見ても、寅子は結局、他の生徒同様、法的には着物を取り返すのは困難との結論になるしかありませんでした。
……が、ここで寅子に影響を与えたのが、優三の「(法とは)それは自分で見つけるものと言いますか。法律って自分なりの解釈を得ていくものといいますか。」との言葉です(第6回)。

考え事しているときにこめかみを触りたくなるの、わかる。
伊藤沙莉さんは、こういう、身体を通じての共感を呼び起こす演技が巧み。
寅子は穂高に、下記の法律を引用して答えます。
民事訴訟法第百八十五條
裁判所ハ判決ヲ爲スに當タリ
其ノ爲シタル口頭辯論ノ全趣旨及證據調ノ結果ヲ斟酌シ
自由ナル心證ニ依リ事實上ノ主張ヲ眞實ト認ムヘキカ否ヲ判斷ス
民事訴訟法第183条
裁判所は判決をなすにあたり
そのなしたる口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果を斟酌し
自由なる心証により事実上の主張を真実を認むべきか否かを判断す
寅子「法律や証拠だけでなく、社会・時代・人間を理解して、自由なる心証のもとに判決を下さなければならない……そういうことですよね。裁判官の自由なる心証に希望を託すしかないのではないでしょうか。」
寅子の提案で、この「裁判官の自由なる心証」を見届けるために、希望者を募りこの裁判の傍聴に行くことになります。
このとき、涼子・梅子・ヒャンちゃんそれぞれの家庭の回想シーンが入るのが印象的でした(家族の皆様ここで初めて登場するのにモノクロかつ人品がクソなシーンでお気の毒でした)。
強大な敵を前に諦観の「スンッ」を選んできた彼女たちの内面の何かが、少しだけ変わった瞬間を、効果的に表現されていたと思います。
多くの女学生が傍聴を希望する中ダンマリのよねに寅子が「よねさんは?」と聞くと、よね「行くに決まってるだろ(怒)!」。
寅子ニンマリ。よねさんも寅子もかわいい。
vs よね戦はここで寅子に軍配が上がったようです。
というか、vs よね戦に見せかけて、敵ではなくともに戦う仲間として周囲を巻き込み成長していく、さらに先をいく展開でした。
さて、ところは変わって東京地方裁判所。
判決はどうなることやら、たくさんの女学生と、穂高先生と、桂場(松山ケンイチ)の見守る中、判決は……?!